【Unnamed Memory V 祈りへと至る沈黙】 古宮 九時/ chibi 電撃の新文芸

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「お前が欲しい。だから結婚を申しこんでいる」「…は?」
オスカーの呪いを解いたティナーシャは自国に戻り、魔法大国・トゥルダールの女王として即位した。別々の道を歩み始めた二人の決意とは―。そして、呪いの元凶たる『沈黙の魔女』がついに二人の前に現れる。明かされる呪いの真実、過去へ時を巻き戻す魔法球の存在。名もなき物語に無二の思いが刻まれる第五巻。
うははは、いいなあやっぱりイイ。オスカーはやっぱりグイグイと強引なくらいに押してこないとオスカーじゃないよ。そんなオスカーにぐいぐいと攻められて色んな顔を見せてくれティナーシャがいいんだよ。このカップルはやはりこの形が一番しっくり来る。
この歴史上では、お互いに王族として自分の国に対して責任を果たさないといけない立場である以上、決して結ばれない関係であった。からにはオスカーもずっと自重してティナーシャに対して一線を画した接し方をしていたのだけれど……。
そうかー、女王に即位する上でまさかあんな形で自身の王としての立場に決着をつけるとは。ずっと知らされてなかったオスカーからしたら、こいつめー、てなもんだろうけど、そりゃ国の機密なら喋れんわねえ。
ティナーシャとしては後の反応からしても、この件に関してはオスカーと絡めてはなんにも考えてなかったっぽいんですよね。あくまで、女王としてトゥルダールの国の未来のために。
数百年の眠りを経て目覚めた過去の人間である自分が、今更という事もあったのでしょうし。また過去の人間であるからこそやれることもあり、自分の残した国にケリをつけるという意味でもあったのでしょうか。
いずれにしても大胆な行為である。この場合、ティナーシャよりもレジス王子を中心としたトゥルダールの次世代グループこそが大胆不敵、とも言えるのでしょうけれど。現王はティナーシャの魔女殺しの女王としての力を持って、トゥルダールをさらに発展させ強国とさせるつもりで彼女を女王へと祭り上げようとしたのでしょうけれど、レジスはそれを先のない発展だとしてむしろティナーシャの圧倒的な力を借りることでトゥルダールという国の在り方そのものを変革し、未来への足がかりにしようという腹づもりで。よほどティナーシャとよく話し合ったとしてもそれほどまだ月日経っていないのだから、元々レジス王子にもティナーシャが復活する以前から国のあり方について思う所があったのかもしれませんが、それにしてもこの人も有能というか……傑物だよなあ。
そんで、ティナーシャに惹かれているにも関わらず、ティナーシャの思いを邪魔する事なくオスカーと結ばれることを応援してくれてるなんて、出来すぎの人物じゃないですか。
この王子が居たからこそティナーシャもこれだけ大胆な改革に踏み切れたとも言えるので、オスカーにとっても恩人ですよ、恩人。

というわけで、前の歴史では顔を合わせるたびに結婚しようぜ、と挨拶代わりにプロポーズしていたオスカーの、まるで王子様がするような力強い本気の求婚でありました。窓から颯爽と現れて熱烈にプロポーズして去っていくとか、どこの王子様だよ。すでに王様なんだぜ、こいつ。しかもわりとゴリラのくせにw

それよりもティナーシャの反応ですよ。なにこのかわいい生き物。図らずも自分たちのあいだにあった絶対的なハードルが自分の行いで取り除かれ、それまでそっけない態度だった愛しい人が突然態度を翻していきなりどんどん積極的に迫ってきた挙げ句にプロポーズである。
ティナーシャさん、とろっとろなんですけど。思い出し笑いしてくねくねしてるとか、どんだけ嬉しかったんですかー。もう反応がスレてた魔女の頃と違って、ほんとに年相応なんですよね。年相応よりも若いんじゃないだろうか。一応肉体年齢二十歳だというので大人は大人のはずなんですけど、見事に十代半ばの少女のような初々しい姿である。恋する乙女そのものである。好きな王子様に求婚された夢見るお姫様そのものである。
幸せオーラが出過ぎてて、その絶世の美貌が緩みきって可愛い系に変貌してしまってるし。
なんかもう女の子しすぎてて、こういうティナーシャは新鮮だなあ。昔の数百年の眠りにつくまえ、前の歴史のオスカーに守られていた時期の幼いティナーシャに戻ったかのようで、思わずキュンキュンしてしまいます。
しかし魔女であったティナーシャと、ちゃんと同一人物として描かれながらこれだけ在り方を違うように描きわけられるというのも改めて凄いなあ、と。

で、正式に婚約者となったのを免罪符にして、トゥルダールに戻ったはずなのにしょっちゅうひょいひょいとオスカーの元に現れるティナーシャさん。転移が使えるからほんと気軽なのはわかるんだけれど、気軽すぎてこれなんか、隣の家同士の幼馴染が窓越しに勝手に部屋に出入りするかのような我が家感覚である。隣家どころか国隔ててるはずなのにねー。ティナーシャだけでなく、オスカーもわりと簡単にティナーシャの所まで来ちゃう事も珍しくないので、距離の概念あんまり皆無。そして何の抵抗もなく、とりあえず自分の膝の上にティナーシャを座らせるオスカーに、何の気兼ねなく当たり前にオスカーの膝の上に座っちゃう女王さま。距離感!距離感の概念!

とはいえ万事順調に二人が結ばれてハッピーエンド、という流れにはなかなかならないんですよね。
そもそも、今の歴史がとてつもない改竄の上に成り立っている事を忘れてはならない、とばかりに歴史を遡行する魔法球の詳細を知り、それを狙う存在がついに表へと浮上してくる。しかし、まだその目的は不明なんですけどね。
そして、オスカーに沈黙の魔女がかけた呪い。その原因にこの歴史の改竄という問題が大いに関わっていることが明らかになる、先の歴史からなぜオスカーに呪いがかけられたのか、の真実が明らかになるんですね。
また、徐々に垣間見えてくる、この世界の法則から外れた存在。世界外という概念。段々と重要なキーワードが出揃ってきた、という感じ。
それに合わせて、というわけじゃないだろうけれど、ここにきてティナーシャがどんどんパワーアップしてるんですよね。幾つかの事件で規格外の魔力を取り込むことになって、かつての青き月の魔女としての経験値こそないのだろうけれど、魔力だけならもう魔女時代と同レベルになってるんじゃないでしょうか。
でも相変わらず、何かあると血塗れになってるティナーシャ。ほんと血塗れ頻度高すぎませんかね!? ちょっと目を離すと血塗れですよ、傷だらけですよ。オスカーがほっとけ無いとなるのわかりますよ。子供か!というような下手な言い訳で誤魔化そうとしますし、子供か!というような都合の悪いことは叱られるから黙っとこうというあとで余計に叱られる雑な誤魔化し方しますし。
子供か!!

子供と言えば、今回の事件はちょっと結末がキツかったですね。手遅れだった子供たちは仕方ないにしても、最後の二人は手の届く範囲だったわけですし。しかし、過去に戻れるという可能性が目の前にあるなら、こんな簡単に頼ってしまうのか、ティナーシャですら。いや、わりとメンタル強くないと評判の女王様だからなのかもしれませんが。
あと、赤ん坊事件が完全にホラーなんですけど。ちゃんと他に預けて世話させてても、ふと気がつけばポツンとそばに置かれていて、泣いている赤ん坊とか普通に怖いですから。

今回ちょっと残念だったのが、ようやく本格登場となったトラヴィスとオーレリアのカップルの、特にオーレリアのイラストが無かったんですよね。そのぶん、オスカーとティナーシャの二人がたくさん描かれていたのでそれはそれで満足だったのですが、やっぱりオーレリアはどんなデザインなのか見てみたかった。この二人って別枠で主人公担えるほど完成度高いカップルだと思うんですよね。特に女性として人として孤独で弱く脆く、しかしそれ以上に強靭でタフでひたむきで一途なオーレリア。そんな彼女に惹かれ、人として愛するようになるトラヴィスというこのカップル。トラヴィスの方が庇護者で確かに彼の存在を拠り所にしているはずなのに、なんだかんだとオーレリアの方がトラヴィスの事を尻にしいてたり、トラヴィスのご乱行をオーレリアが代わりに謝ってまわったり、とどちらが保護者かわからんようなところもある普段の関係もイイんですし、それ以上にお互いが唯一無二という関係がほんとに好きでねえ。もしかしたらオスカーとティナーシャのカップル並に好きかもしれないカップルがこのオーレリアとトラヴィスの二人なので、またぞろ出番あるといいなあ。挿絵付きで。

さても第二部も半ばをこえて、いよいよ次がクライマックス。はたして今度こそ、或いはもう一度ハッピーエンドを迎えることが叶うのか。襟を正して結末を待て。

シリーズ感想