【項羽と劉邦、あと田中 3】 古寺谷雉/獅子猿 PASH!ブックス

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秦の名将・章邯が反乱軍を蹂躙するなか、ついに項梁が楚王となり奮い立つ項羽。

張良との出会いを経て、楚王の助力を得るため留へ向かう劉邦。

田中(タイムスリップした元会社員)もまた、
田横とともに一族の対立勢力である田假らを追い留へと赴く。
そこでついに出会いを果たした項羽と劉邦、あと田中。

運命の歯車は大きく動き出し、斉国にも厳しい戦いと試練の時が訪れる。
歴史のうねりが止まらない、邂逅と共闘、そして別れの第3巻!
ん? あれ? このあらすじオカしくないですか? 項梁は楚王になってませんよね。范増お爺ちゃんに指摘されて楚王の血筋を擁立して自分は武信君として軍権を握ったわけですし、その擁立した楚王の周りに集まった旧王朝勢力と微妙な関係になっていくのですし。これ本文の内容とも食い違いますし、結構な間違いのような。
さて表紙の田中くん、今までの表紙の中で一番貧相だぞw まあ項羽と劉邦に挟まれりゃあ肩身が狭いドコロじゃないのだろうけれど、実際は今までの中でも特に頑張って男を見せている回でもあるんですよね。絶望的な籠城戦で味方を鼓舞し続け、田横と一緒に戦場を駆け、そして斉と大切な人たちのために単身他国に乗り込み、とタナカではなくデンチュウとして奮闘するのである。
それに、項羽と田横の大喧嘩に割って入ったりと余人が出来ないような胆力見せてたりしますしねえ。わりとこんな風に項羽と劉邦に挟まれても、なんやかんやで口を回転させてソフトランディングさせそうな気がします。
それはそれとして、この表紙、後ろに美女二人。一人は蒙林さんだけどもうひとりの美女だれ? 女性のこんな存在感見せるキャラクターって出てたっけ!? と、真剣に首傾げてたら、これこの美女、張良じゃん! 張良かよ!! 本作では度々張良のことを美女と見紛う、というように表現されていましたけれど、ガチ美人じゃねえですか。そんな張良から、この人よくわからんです、と言われる田中さん。しかし劉邦はその田中さんをかなり見込んでいるんですよねえ。ベクトルこそ違うものの、口だけではない口八丁という者同士というのもあるのかもしれませんが。
そして、楚漢戦争のもう一方の主役である若き英雄項羽の登場。まだ叔父である項梁の下にあり、楚軍の筆頭将軍として駆け回る若者であるのですけれど、まさに最強の軍勢を率いる最強の将として勇躍する一方で精神面が若い! 若い以上に尖っていて身内以外には冷酷。でも、若さ故の可愛げもあってまた出自で見下したりもせず子供のように素直な面もあって、魅力的であるんですよね。
天然の毒舌、というか物言いがどうにも辛辣で乱暴なんだけど本人は悪気も悪意もない、というパターンでもあるんですよね。これ、ちゃんと項羽の敵を作りがちな言い方を気にせず真意を汲み取れる人なら、凄く相性いいんじゃないだろうか。特に田中w
それと范増じいちゃんがまた上手いこと項羽に言いたいことをイイつつ言うこと聞かせるんですよね。項羽曰く、正論でガンガン言ってきてもその言葉の中に優しさがあると逆らえない、だそうなんですよね。范増爺ちゃんがまさにそれで、この時点では爺ちゃんのこと苦手に思いながらもかなり慕う気持ちになっているのが伝わってくる表現であり、この田中もそんな風味があってどうにも苦手だ、とうそぶいているあたり、田中さん結構項羽には意見汲んでもらえるんじゃないだろうか。
しかしでも、やっぱり田中さんの相棒は田横なんですよね。この二人の関係が素敵すぎて、もうたまんないです。なんだろうね、この兄弟でもあり無二の親友でもありデコボコカップルさながらの相棒でもある、という関係は。田中は田横に男として惚れに惚れ込み、彼を支える事に喜びを感じている風なのですが、上下関係じゃないんですよね。年齢としては田中さんの方が上。でも兄貴度はやっぱり田横の方が上で、でもどこか年下の弟として彼を支えるだけじゃなく面倒見る、という感覚も持ってるような感じがするんですよね。田横も、田中の事を智者としてじゃなくて相棒として、ときに後ろから付いてくる田中を引っ張るように、時にどこに行けば良いかわからない時に年上の兄として頼るように、お互い足りない部分を埋めあい長所を伸ばしあい、という絶大な信頼によって結ばれた対等の存在なんですよね。
兄として田栄の事も絶対的に信頼し、敬愛している田横ですけれど、古代中国らしく兄弟の上下関係は絶対、というものもあるだけに、田中との家族であり兄弟さながらでありながら、親友のように相棒のようにどこまでも対等に感じる相手、というのはまさに田中だけなのである。斉の田氏の重鎮として、斉の最強の将軍としても振る舞わなければならない田横にとって、これほどに心置きなく頼り頼られ対等で居られる相手というのは、他になく。
ほんと、この二人、田中と田横はお互いのこと好きすぎなんですよ。夫婦か、とすら言いたくなる。
蒙林さん放ったらかしでいいんですか、田中さん。とか思ってたら、その蒙林さんにちゃんと背中押されて、斉のために田中もまた決断することに。この嫁さんも、田氏関係ない分さらに田中さん個人を理解しきっているなあ。内助の功全開である。
こうしてみると、田栄兄上は田氏としての在り方に縛られて、どうにも窮屈になってしまっている。斉王にして父代わりだった従兄の田儋という支柱がいてこそその才知をのびのびと震えてたのでしょうけれど、一切の責任を負う立場になってしまったことが彼の不幸だったのか。
いや、彼を不幸にするまいと田中が立ち上がるのですが。立場と建前に囚われながら、しかし真を見失っていなくて、こっそり田中に託すあたりに田兄弟の情の厚さを見せられて、ほんとこの兄弟一族には不幸になってほしくない。だからこそ、田中の決意と行動に歴史の行く末を託すしかないのですが。
果たして、田中は正史と同じ流れから斉の行く末を覆すことができるのか。田栄はかなり致命的な決断をしてしまっていただけに、田中の行動が分水嶺だったと思うんですよね。あそこがまさに分かれ道だったと。そう振り替えれるようになればいいのですが。