【型破り傭兵の天空遺跡攻略】 三上 こた/坂野 太河 角川スニーカー文庫

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人智を超えた技術の獲得のため、天空に浮かぶ太古の遺跡を攻略する空挺騎士団。その一つ“叡智の雫”に、副団長アリアの部下として雇われた“歴戦の傭兵”アインハルト。その名に恥じぬ活躍で、遺跡を守護する偽神をねじ伏せ、罠を解き明かしていくアインハルトだったが、超技術の大国すら滅ぼした驚異的な強さの偽神に遭遇し全滅の危機に瀕し…!
「ここは任せな。俺は俺の仕事をこなすだけだ」
どんな窮地であろうと仲間の命は護り抜く型破りの傭兵が、百戦錬磨の経験と知識を武器に、謎に満ちた空を翔け巡る!第25回スニーカー大賞特別賞受賞のヒロイックファンタジー、ここに開幕!
見捨てた、切り捨てた対象がその場を切り抜けて生きて戻ってくる。それは喜ばしいはずの事なのだけれど、見捨てたという事実は消え去らない。どうしたってそれまでの関係に影を落とす。
本作においては、見捨てた側の人間が見捨てた相手が生き残った事を喜ばなかったり、邪魔者扱いしたり死をすら願ったり、というクズめいた事はせずにちゃんと喜んでくれるのだけれど、それでも見捨てた事実が負い目となって過剰な気遣いや今度こそ見捨てまいと無理をすることになり、結局関係は破綻していく。
必死の思いで生き延びた者の方が、生き残るべきじゃなかった、死んでおくべきだったんだ、と思ってしまうことは悲惨以外のなにものでもない。
そうして生まれたのが、死にたがりの傭兵だった。それも周りを巻き添えにするのではなく、自分以外を生き残らせて今度こそ価値ある死を迎えるために自ら捨て石になる死にたがり。
自己犠牲型の破滅願望の持ち主って、なんかもう手に負えない。この人物、アインハルトの場合は自分から暴走して危地へ飛び込んでいったり、危機を招いたりという真似は一切せずに、周囲へのアフターフォローまで考えて自分の言動をコントロールしている上に、雇い主には自分の在り方を隠していないので、そもそも万が一の捨て石要員として最初から雇われるので、齟齬も生まれないんですよね。この手の破滅願望の持ち主というのは、周りを巻き込むパターンが多かっただけに、これだけ気遣いが行き届いて自分を使い捨てにしやすいように動いている人物というのは、手を出しにくいんですよね。
いざという時は、本当にどうにもならない時ですし。絶対に、彼を捨て石にしなければたくさんの犠牲が出てしまう、という状況でなければ、アインハルトも無駄死にしようとはしませんから。
彼は正しさを突きつける。正しい選択の元に、切り捨てられる事が正しかったと。自分が死ぬことで、生き残った人たちが命だけでなくその後の生き方までも未来までも救われるように、と願ったのだ。それが生き残ったことが間違いだったと思ってしまったアインハルトの、自分の始末の付け方だったのだろう。
でも、本当は死にたかったわけじゃない。諦めたかったわけじゃない。それは、万が一にも助からない状況で這いずり回って生き延びた事でも明らかだろう。これまでずっと死にたがりの生き方をしながら生き残り続けた事からも間違いないのだろう。
彼は本当は死にたかったわけじゃない、生きたかったのだ。いや、それが正しい事だとしても自分が心から置いていってくれ、自分を見捨てて生き残ってくれと願ったとしても、心の何処かで思っていたのだ。置いていかないでくれ、見捨てないでくれ。そこが終わりの地獄だとしても、一緒に帰りたいのだと。
それは人として当たり前の感情で、当たり前の願いだ。しかし、それは誰も生き残れず、誰も幸せになれない結末で、だからこそ彼は胸の奥にそれを封じてきた。
だから彼のその後の人生は、今度こそ自分の価値を損なって綺麗サッパリ後腐れなく死ぬためのものでは本当はなく、自分の価値を認めてくれる誰かに出会うためのものだったのだろう。
ただし、それを見つけた時はその相手と共に死ぬしかないときだ。
それを思えば、何ともまあ救いのない在り方にも見えるのだけれど、この世界における魔法……その人それぞれのあり方を物語り体現する力が、蜘蛛の糸となる。
とまあ、主人公含めた登場人物の人となり、在り方がストーリー展開にそのまま直接根幹をなしていて、魔法の設定なんかも含めて最初から最後まできれいな放物線を描いた物語となっている。キャラの心情描写も丁寧で、理解と共感。懊悩と決断が筋道立てて描かれている。
よく練られた脚本に掘り下げられた登場人物、瑕疵のあまり感じられない、非常によく出来た作品と言えるでしょう。押さえるところもきっちり押さえていて、ほんとにここがダメという所も見受けられないし、アインハルトが心の奥底で捨てされなかった思いなど、むしろ人間味を強く感じさせるものでとても良かったと思いますし。
ただ個人的に、何となく印象に焼き付かなかったんですよね。全体的にスルスルと飲み込めて、そのままスルスルと引っかからずに出ていってしまったような。こればっかりは好みの違いなんだろうなあ。いや、読んでいる時は普通に面白いと感じながら読んでいたので、好みではなかったという訳でもないと思うので、ほんとなんなのかな。もうちょっとこう、自分の中に引っかかって留まってくれる特徴的なものがほしかったのかもしれない。自分の中でも曖昧模糊として具体的なことを何も言えないのがもどかしく恐縮なのですけれど。