【星系出雲の兵站 4】 林 譲治/Rey.Hori   ハヤカワ文庫JA

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ガイナスとの艦隊戦に勝利した独立混成降下猟兵連隊のシャロン紫檀大佐らに届いた未知の信号。それは、五年前に遭難したはずの友軍艦の識別コードだった。発信源の天涯へと再び向かったアンドレア園崎少佐らは、地下都市でガイナスの異様な姿を目撃する。報告を受けたタオ迫水筆頭執政官は急遽危機管理委員会を招集、水神魁吾方面艦隊司令長官は戦友を呼び戻し、総力を結集してガイナスとの決戦に赴く。堂々の第一部完結。

これまで発見されたガイナス兵は、人類の死体から生成されたコピーであり、異星人ガイナスの姿を見たものはまだ誰もいなかった。ガイナス原種とはいかなる生命体なのか。どのように生存し、どのように意思疎通をはかり、どのような行動原理に基づいて動いているのか。
何もかもが未知であり、意思の疎通もはかれない。何を目的にしているのかも定かではないし、何を基準にしているかも知れたものではない。
何もわからないという以上、その対処はどうしたって手探りになってしまう。相手が何を考えているかわからなければ、次の行動も対応も想定すら出来ないのだ。そもそも、人類の思考意志想像力の範疇にあるのかすら定かではない。まあ、おおよそこうじゃないかと物資を確保しようとしていたり、ガイナス兵を増やして拠点を奪取しようとしているなど、ある程度その行動から理解できる目的が推察できるようになってきた以上は、人類の想像の範疇外にある行動原理に基づいている、ということではなさそう、というくらいには分析は進んでいたのだけれど。
それでも、人類相手ではない完全な対異星人戦争は試行錯誤の連続で、何をするにも恐る恐る相手の反応を伺いながら何が正解なのかわからないまま、もしかして自分たちは致命的な勘違いをしているのではないか、という恐れを抱きながら戦争でありながら、まず戦争という舞台をガイナスと共有できるのかという段階で模索を続けていたんですね。
そこでようやく、シャロン大佐の率いる降下猟兵連隊によるガイナスの地下都市への攻勢を通じて、ガイナスとは何者なのかいかなる生命なのか、という詳細が明らかになってくる。
ここはほんと、並の軍人では手に入れることのできない成果でしたよね。ただ敵を倒し敵基地を制圧するのとは根本的に違う、ガイナスの様々な反応を引き出してその正体を暴いていく、しかも味方に無駄な被害を出さずにというハードルを超えながら、ですからね。

これまでガイナスも人類側も相互に常に気をつけていたのが、相手に自分たちの情報を与えないこと。極力、可能な限りその正体に行き当たるだけの情報を残さない、これがために多大な犠牲を出すことも厭わなかったわけである。この偏執的にすら見える慎重さは、結果的に見ると完全に正しかったというほかありません。
シャロン大佐の持ち帰った情報をもとにようやく明らかになっていたガイナスの正体。ガイナス原種となる指揮個体や全く人類とは組成から異なるような異星の生命体は存在せず、その正体はもうまさにこれぞSFというようなもので……。
でも、正体が明らかになった途端にガイナスは未知ではなくなってしまったんですよね。未知でなくなった途端に、あらゆる取っ掛かりからその行動原理、思考パターンが解き明かされ暴き出されていき、あれほど苦戦し霧の中でもがきながら見えない敵に相対するようだった対ガイナス戦争があっという間に人類側の優位へと変わっていく様は、圧巻ですらありました。
こうしてみると、ガイナスの正体ってかなりリスクというかハンデを背負ったものでそれを弱点として捉えれば色々と剥き出しであったんだなあ、と。もっとも、わかったからと言ってそれを突けるかどうかは別問題なのですけれど、こうも一挙に形勢が傾いてしまうのを見るとむしろ人類ヤベえな、という風に見えてしまいます。
いや、ガイナスのあの特性を見ると、むしろガイナスVS人類というよりも個対組織の様相もあったのかもしれません。
組織は組織で色々と問題を抱えている構造物ではあるんですけれど、一連の火伏の暗躍やタオの壱岐の掌握などで、組織として血管が詰まったような滞る部分は概ねパージされましたし、対異星人戦という初めての経験に対処するうちに想定されていた中で思いの外機能しなかった部分とちゃんと機能した部分というのが色々と浮き彫りになってきてるんですね。ダメな部分、どうしようもなく機能不全を起こしている部分というのは出てくるのですけれど、それが見えてきた以上は正され適正化され、どんどん最適化されていっているのも確かな話なのです。
この最適化を妨げるような不具合を、火伏やタオやその奥さんたちの活躍が排除していってたんですね、こうしてみると。
壱岐の方はまだ一番重篤な部分はパージしたものの、旧態然とした体制や考え方は残ったままでだからこそタオさんはまだまだ苦労しそうなのですが、彼とその奥さんの優秀さと現状への危機感を見るとなんとかしてくれそうという信頼感は尽きないのです。
それ以上に、火伏さんの暴れっぷりが目立つのですが。いやもうやりたい放題じゃないですか、この兵站監。部下も奥さんも優秀すぎて、もう自分の出る幕ないよね、みたいな無害そうな顔してますけれど、あんたがそりゃもうべらぼうにやりたい放題兵站整えまくって滞りなく何もかもが流れに流れ、必要なものが必要な場所に適時届くように、それどころか戦場で本来なら足りなかった戦力までどこぞに負債を押し付けるのではなく、どこにも利益を出す形で十全ひねり出すような真似までしてしまって。前線の将兵たち、まったく困らないじゃないですかこれ。
一番上の火伏がそんなだから、兵站部門の部下たちにしても奥さんにしても能力フル回転させて、やりたい放題できるのですよ。
一番印象的だったのが、もう自分いらないよね、みたいなことを口走った火伏に対して後輩にして部下である女性が、あなたが一番上にいるから自分や吉住さんが現場に出れるんですよ! という発言。前回絶賛したプロの中のプロ、吉住さんは元より兵站部門の幹部クラスって誰も彼もがトップ張って全体自由自在に回せそうな逸材ばっかりなんですよね。そういう一番上に君臨してもおかしくない特級の人材を、それぞれ現場に出してフル回転させられるんだから、そりゃ火伏さん戻ってきたら兵站部門そのものが機能底上げですよ。能力大拡張ですよ。
その人が居なきゃ成り立たないという一人に頼った組織というのは、そりゃ脆いも脆いし、誰がなっても同じように成果を出せる平均化した組織のほうが、様々な事態に対しても柔軟に対応できる、というのも事実でしょう。でも、上も下も優秀に越したことはないですし、こうしてみたら火伏さんの存在って、やっぱり英雄みたいなもんでしょこれ。
まあ、彼が抜けても危なげなく回っていた兵站部門を見る限り、組織としても健全極まるんだろうけど……いや、危なげなくとは行かなかったよなあ。作戦失敗を前提に独自に保険かけてやたらと伏せ札用意して、さらに結果出てちゃんとした命令出る前に先回りして動き出していたり、とか危なっかしい事しまくってたよなあ、あれ。火伏の薫陶が効いていたというべきか、重石がなくなっていたというべきなのか。ともあれ、やはりこの人が上に居ることで本当に憂いなく十全フル回転できるって事なんだろうなあ。

さて、ガイナスの先遣部隊を打ち破り、またその正体をある程度分析できたことで当面の危機は去ったわけだけれど、そこにガイナスがやってきた本拠地の情報が舞い込んでくる。
なるほど、第二部に「遠征」というタイトルがついているのはそういうことだったのか。
一部完でそのまま終了なんてことにならず、すぐさま第二部開始しているので安心して続きを読めそう。しかし火伏さんところもタオさんところも、夫婦ラブラブですなあ。特に火伏さんはそれこそが人間味の出処なのですけれど。まあ奥様方もそれぞれ怪物級のヤリ手経済人、経営者、組織人なのですけど。当初、この奥様方の活躍は予定に一切なかった、というかメインに近いキャラどころかモブすらも怪しい立ち位置だった、にも関わらずあれよあれよと作中で出番を獲得し、出世していってしまった、というのはお話づくりの面白いところです。

シリーズ感想