【叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 3】 杉原 智則/ヨシモト   電撃文庫

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二人の王女と一人の騎士――今、決断の時! 英雄のチグハグ世直し第3弾!

邪神を討ち倒した英雄ギュネイは、敗戦国ランドール王国の荒廃ぶりを見かねて手助けを重ねるうちに、救世主〈黒狼の騎士〉として祭り上げられてしまう。
そんななか、〈純潔の聖女〉エリシスの暗殺計画の情報を得るギュネイ。居ても立ってもいられず、ランドールの姫・ミネルバに暇を乞うが……

「これまでよくぞ仕えてくれました、と言うと思いましたか? 許しません!」
「ええっ!?」

時を同じくして、それまで沈黙を貫いていた不死騎士団残党が王都に押し寄せてきて――二人の王女の間に立つギュネイ、今こそ決断の時!?
邪神王国復興物語、第3弾!


完全に続きが出るの諦めていたので、新刊情報にタイトルが出た時は思わず声が出てしまうほど驚いてしまいました。音沙汰なくなってしまってそのまま幕引きか、と思われている作品でもこうして復活するという前例を作ってくれたのは希望そのものです。
さて、前回は衝撃的というのもまだ生ぬるいほどの欠片も頭の片隅になかった衝撃的な展開に、ある意味打ちのめされ、ある意味胸を突かれ情動を噛みしめることになったのですが。
ギュネイからすると頻繁にあるわけではないにしても、決して珍しいことではなかったのかもしれない。でも、あんな風に感謝されて約束を預けられていく事はなかったんじゃないかな。
彼が見ている世界。魔鎧によって死者の姿と声を聞けるようになってしまったギュネイにとって、語りかけてくる死者は常に傍らにある存在で、いつしか彼は死者と生者の区別が付きづらくなっていき、それが高じて死そのものに忌避感を感じなくなっていく。生きていることも死んでいることも変わらない。そんな生死の境界への認識の曖昧化は、彼から生きることへの尊さと死を迎える事の重たさを見失っていく。もし、そのまま行けばギュネイは、英雄竜騎士は亡者の想念に飲まれて生きながら死者の騎士になっていっただろう。
そんな彼を生者のもとに引き戻したのは。生きていることの素晴らしさと、死の冷たさを恐怖を、死とは喪われることなのだという当たり前の事実を突きつけた人こそ、聖女エリシスだったのである。
もうこれ、ただの仲間とか密かに思いを寄せていた姫とかいうレベルじゃないじゃないですか。身を挺して、自分を黄泉から連れ戻してくれた人。自分のために必死になって、比喩ではなく命を賭けて助けてくれた人。ギュネイにとって、もう唯一無二の相手じゃないですか。掛け替えのない人、大切な人という言葉では到底足りない人。
……なんで、そんな人放ったらかして樵なんかしてたんだ、こいつは。
聖女エリシスに危機が迫っていると知った途端に、何もかもを放り出してエリシスのもとに駆けつけようとするギュネイ。
いや、放り出せるはずないじゃないか。
ギュネイは自分でも自分のことを正確に分析しているのだけれど、この男とにかく目の前の事にしか考えが及ばないんですよね。とにかく、目の前の理不尽を見捨てられずにひたすら対処療法で対応していくものだから、にっちもさっちもいかなくなるのである。
一応、先々の展望も考えて想定して動こうとしているのだけれど……どう見てもそれ願望ばかりが混じってて、全然うまくいきそうにないのよねえ。全部自分の都合の良いように動いたらそうなるでしょうねえ、という見通しばかりで甘いよ、考えが甘すぎるよ!
と、思ってたら速攻お暇願ったミネルバ王女にダメ出しされる始末。気持ちよく見送ってくれるに違いない、とか何を考えたらそう思えるんだw
なまじギュネイって、あとでちゃんと冷静になって落ちついて相手の身になって考えればちゃんと相手の言い分にも納得できてしまうので、考え方が甘い割に相手の言い分に納得させられてしまう事も多いんですよね。とはいえ、それは納得できるだけの理由があればこそで、理不尽な相手には相応の剣をきっちり振るっているからこそ、こうして英雄として持ち上げられるだけの結果を出し、悪しき敵を討つ形になっているわけですが。
またそういう時に理不尽を見過ごしたり出来ず、悲劇を見捨てられないからこそ、厄介事にまめに首を突っ込むはめになり、挙げ句にかつての敵国で謎の英雄として持ち上げられ、今下手をするとかつての仲間と敵対しかねない立場になってしまっているわけで。
世渡り下手もいいところなんだよなあ。
でも、今も昔も彼の周りに集うのはそんな不器用な彼を利用して使い捨てようとするような人間よりも、彼のその行いを信じて慕ってくれる相手なんですよね。見る目は、確かなんですよねえ。
ミネルバ王女も、不死騎士団のクルスもこの動乱をギュネイと共にくぐり抜けたことで確かに覚醒に近い成長を迎えているのである。
それは、自分の理想や願望に溺れる事を許してもらえず、現実に直面させられ否応なく向き合わざるを得なくなった結果かもしれなくても。それを強いてきたのは、彼らに救いの手を差し伸べてきた謎の騎士「黒狼の騎士」たるギュネイだったとしても。
だからこそ、彼のことをどこかで恨みながらも慕わずには居られないんだろうなあ。
特にミネルバ王女は、一皮も二皮も剥けてとても神輿なんかじゃ収まらない、女傑へと変貌しつつある。あの不死騎士団の残党たちとの会見での圧倒的なまでの貫禄は、キャラクターとしての魅力としてもヒロインとしての存在感も、見違えるものを見せてくれましたし。
これほど強くなったところを見せて、そして同時にギュネイに対しては弱い部分を叩きつけるくらいに見せてくる。なんか駆け引きも海千山千のものになっていて、これどうやったってギュネイ、この娘さん見捨てられないでしょう。そういう風に、見事に自分を位置づけてみせたミネルバ王女の躍進は拍手喝采である。
でも、ああやって安易に約束してしまうのはギュネイの軽率さ以外のなにものでもなく。こいつ、絶対に約束とか破れない性格しているくせに、先のこと考えないでその場で自分の頭が回る範疇で判断してどうしようもない約束してしまうの、絶対前から何度もやってるぞこいつ。
それで、いろんな女性から恨めしがられるのだ。
ただでさえエリシスにミネルバという二大巨頭が両立してしまい、しかも立場上状況上、二者択一の選択を突きつけられてしまう中で、完全に厄モノでしかないものにまで引っかかってしまって、どうするんだこれ。本気でどうするんだ!?
ギュネイの従者で彼に今の状況を正確に知っているリーリンが、エリシスのもとにまでたどり着けたというのはどん詰まりの状況を打破する光になるのかも知れないけど、放っておくとどんどん自分でどん詰まりにハマっていくギュネイの元から、なんだかんだとしっかりしていて苦言もていしてくれるリーリンが、あまり効力を発揮できてなかったかもしれないけれどそれでもお目付け役として機能していたはずのリーリンが、いなくなってるという状況はなんかもうギュネイが頭からドツボにハマる前フリにしか見えないんですよねえ。実際、そうなってってますし。
それでも、エリシスが国元からこちらに来ているというのは、状況がもっと最悪になる可能性もあり、一応手の届くところまで来てくれたということで最悪の中の本当の最悪は回避できる可能性のようでもあり、ともかく本番はここからなんですよねえ。
ある意味物語としてキリのよかった前回と違って、今度は本当に次回に続くになっているので、ちゃんと遠からず続刊が出てくれることを信じたいと思います。祈りたいと思います。