【オーク英雄物語 忖度列伝】 理不尽な孫の手/朝凪  富士見ファンタジア文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

オークの英雄は『大切なもの(童貞)』を捨てる旅に出る――
十二の種族による大きな戦争で、多大なる戦果を挙げ『英雄』の称号を得たバッシュ。全オークから尊敬されるバッシュは旅に出る。種族の誇りと名誉のため、そして誰にも言えなかった秘密『童貞』を捨てるために……。

おおっ、忖度だ。すごく忖度してますよ!
忖度とは国語辞典によれば相手の心を推し量ること。また推し量って配慮することとあります。
つまり相手の意志をちゃんと聞いて確認して配慮するのではなく、勝手に慮って相手はこうしてほしいんだろうなあ、とつまり想像してあれこれと配慮して気を回し、色々と気配り手配りをするわけです。
だから、実は相手の意に叶っているとは限らない。相手が本当に欲しているものに気づいているとは限らない。それで、錯誤誤解勘違い行き違いが生じてくるのでありますが。
でも、忖度されるバッシュの方もこれ非常に生真面目で周りの言うことを素直に受け止めるタイプでありオークであっても野蛮とは程遠い人柄なので……この主人公も出会う人たちに凄く「忖度」するのである。
お互いに忖度し合うものだから、相手の言動から勝手に想像しあい勝手に合点するものだから、お互い誤解に気づかないのである。
でもこれ、多少行き違いはあってもあながち誤解や勘違いとも言い切れないんですよね。細かい所は行き違ってますけれど、大まかに考えるとバッシュの目的に対する配慮としては、オークキングやヒューストン隊長の忖度はそんな間違えたものではないように見えるんですよね。女騎士ジュディスへのバッシュの対応も、ちょっと引き際が潔すぎた気もするけれど大意としては外れてなかったと思いますし。
そもそも、お互いに配慮しあっているだけあって相手への気遣いが多分に含まれているので、下手なことにはならないんですよね。勘違いされるバッシュですけれど、彼がオークの英雄というのに間違いはなく、その人柄も童貞なの知られたくない、という見栄っ張りな所はありますけれど概ね周りから見られている通りの誇りある戦士であり、戦争が終わった今となっては、他種族の文化に敬意を持って尊重する立派な人物でもある。これほどの力を持ちながら、同族も他種族も決して見下さずに接する姿は、紳士的ですらある。
わりと真面目に、カッコいいんじゃないだろうか、このオーク。
彼が戦争終わるまで童貞だったというのも、変に拗らせているとかヤバい性癖持ちだったりとか根性が実は惰弱とかではなく、単に生真面目すぎて戦争に真摯に向き合いすぎていたからですし、そんな彼が童貞卒業したくて嫁探しの旅に出てるのって、むしろ可愛げがあって親しみが湧いてくるくらい。
なので、オークたちのバッシュへの大英雄への憧れの視線も、ヒューストン隊長やジュディス、ヒューマンの兵士たちがバッシュに抱いた敬意も、決してかのオーク英雄を過度に持ち上げて見てしまっているわけではなく、わりと順当な評価だと思うんですよね。
とは言え、バッシュの可愛げの部分を知るのは戦争時代から相棒やってたフェアリーのゼフくらいなので、その過剰な英雄視の部分がバッシュの本当の目的を遠ざけていってしまうのかもしれませんが。でも、それほど的外れな事にはなってないと思うんだよなあ。嫁を探していると素直に告げてても、同じような形で収まっていたような気がしますし、やっぱりエルフの国を薦められたんじゃなかろうか。
でもバッシュ、本当に気持ちの良い男なのでちゃんと嫁さん見つけてあげてほしいです。本当の意味でお互い合意のもとで好き合うことが出来る相手と。そんな応援したくなるような主人公でありました、面白かった。