【ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード) 17】 羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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公爵家イグナイトの裏切り。クーデター『炎の一刻半』

魔術祭典決勝を襲った最大級の悲劇と天の智慧研究会の最高指導者、大導師フェロード=ベリフの登場――歴史の大いなる転換点で、アルザーノ帝国女王府国軍大臣・アゼル=ル=イグナイトもついに動き出す――。

イグナイト卿、クズ野郎、クズ・オブ・クズだとは思ってたけど、そこまでやるか。そこまでやってたのか。「彼女」の言葉じゃないですけど、「ははは、笑えねえ。死ねよマジで」ですよ。
うん、いっそここまでクソ外道だと清々しいですわ。同情の余地が一切なく、理解の必要がまったくない。ただただ己の野心のみに固執してそれ以外の価値を認めないクソ野郎。自分の子供を道具としか考えていない、という毒親キャラは珍しくないですけど、ここまで完全に道具扱いした奴は見たことないですよ。
これでまだ、その野心に見合うだけの才覚の持ち主。自分こそが帝国を率いるに相応しい存在であるという自負に見合うだけの力の持ち主であったのなら、世界の敵、国家の敵として十分だったのでしょうけれど。
権力の握り方も力尽くで凄まじい恨みと憎しみを買いまくってるし、決して権力闘争に長けているという風でもなく、作戦立案能力も消耗戦前提の力押しで、戦闘も火力馬鹿。人の操り方だけ、呪詛を使って小賢しく無理矢理に従わせるのがうまい、というだけのまあ自己評価の高さとは裏腹の人物なんですよね。
イヴからは、冷静に小物と切って捨てられていますし。
でも、そんな無能な小物だからこそ、そんな輩に帝国が食い物にされ、過去からこのクーデターに至るまで無数の兵士たちが無為に死ぬ羽目になり、そして何よりイグナイトの娘たちが無為にその人生を潰されることになった。父親と違って、本物の天才だった三人共が踏みにじられ、苦しみのたうちまわり、その輝かしい道を歩むはずだった人生を泥に塗れさせられた。
怒りもある、憎しみもある、悔しさもある、でもその原因がこの父親だったという、この小物に過ぎない男であるという事実に、虚しさを感じるのである。あまりに、その死が、人生の歩みが徒労すぎて、こんな男に消費させられて、報われなさすぎる。

今回の一件は、イグナイト家を、そして帝国そのものを覆っていた一人の男の醜い野心の呪縛を、それに苦しまされ続けた末娘が、ついに打ち破る話でありました。
「炎の一刻半」と銘打たれた歴史的軍事作戦の指揮を取る、イヴ・ディストーレの慟哭と決別の三時間。
限定された時間内での怒涛の展開だっただけに、まさに凝縮された密度の濃い、そしてスピード感に乗りに乗ったまるまる一巻でした。これ、本番の前哨戦に過ぎないんですけどね。
ジャティスの謀略による天の智慧の首魁の正体の世界への露見からはじまる、世界の終わり。まさにその端緒であり、色んな意味で誰もが躓いたイグナイトの乱。ほんと、他者の足どころか人生そのものを無為に引っ張るという意味で最大級の余計モノでした、イグナイト卿。そのぶん、ちゃんと相応しい末路を辿ってくれて良かったですけれど。
……にしても、イヴにしてもアリエルにしても、目的を達するために進んだ道が迂遠すぎるのはイグナイトの血筋なんだろうか。イヴなんざ、それで一時は目的見失ってるし。
ともあれ、最大のネックでもあったセラの殉職の件も、イヴはむしろ積極的に動こうとしていたのにイグナイト卿に邪魔された結果だった、というのがグレンにも伝わって、二人の間のハードルほぼ取り除かれちゃったんじゃないだろうか。
かつて白猫が、何度も何度も精神的にフルボッコされ、愛情たっぷりの棍棒で滅多打ちにされ、そこから這い上がってきてヒロインとして一枚も二枚も格を上げて覿面に飛躍してきた事を思い返せば、イヴもまた登場時から大転落して、何度もボコボコにされ続けた末にここでトドメとばかりの猛襲を受けてのた打ち回って苦しみぬいての、過去と呪縛からの脱出であり打破の集大成だったんですよね。これまさにまさに遅れてやってきた最強のヒロイン、ワンチャンありですよ。

しかしこれ、イリヤとイヴ、同じリディア姉に救われた妹でありんがらこれだけ歩む道が変わってしまったの、理由は色々あるのだろうけれどグレンと出会っていたかというのは大きな要因だったんでしょうね。たった一人で復讐にひた走ったイリヤに、リディアに代わって真のイグナイトを目指したイヴの違いとも言えるのでしょうし、リディアの末路を知ったか知らなかったかの差でもあるのかもしれませんが。

さて、高笑いしながら次元の向こうに飛ばされていったジャティスですけど、こいつ絶対これで退場とかないよなあ。余裕ヅラの黒幕さんに、ばっ馬鹿な!と愕然顔で言わせてくれそうなの、グレンたちよりも圧倒的に煽り属性持ってるジャティスの方なので復活が楽しみですらある。