【現実でラブコメできないとだれが決めた?】 初鹿野 創/椎名くろ  ガガガ文庫

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データでつくる最高の理想郷(ラブコメ)!

「ラブコメみたいな体験をしてみたい」

ライトノベルを嗜むすべてのラブコメ好きは、一度はこう思ったことがあるのではないだろうか?
ヒロインとイチャラブしたり、最高の友人達と充実した学園生活を送ったり。
だが、現実でそんな劇的なことが起こるわけもない。
義理の妹も、幼馴染も、現役アイドルなクラスメイトもミステリアスな先輩も、それどころか男の親友キャラも俺にはいない。
なら、どうするか?
自分で作り上げるしかないだろう!

ラブコメに必要なのは、データ分析と反復練習! そして――

第14回小学館ライトノベル大賞、優秀賞受賞作。

ライトノベルに憧れた俺――長坂耕平(ながさかこうへい)が、都合良くいかない現実をラブコメ色に染め上げる!

ラブコメみたいな体験をしてみたい。言っている意味はわかるけれど、じゃあどうするのかと言えば、まさかの自分で全部作り上げる、それもこの現実世界で。と言い出した日には何言ってるんだコイツ、となるし、実際やってるのを見てると相当にキモい。
彼、長坂の夢中になっているラブコメ世界を自分で作るという夢? いや目標? を知ってしまった、そして実際の作業を目の当たりにする上野原彩乃が「キモい」と「大馬鹿者」を連発するのもまあ当然。いや、実際相当にキモいです、この男。
なんでこれに付き合おう、ラブコメ時空を作るための仕込みに協力しよう、実際調査や支援などで結構労力も掛けているわけで、なんで彼女がそこまでしようと思ったのか、ヒントめいたものは散らばらせているものの、よくわからないまま話は進んでしまうんですね。というか、長坂も勢いで巻き込んだものの、もうちょっと躊躇しろよ、と思わないでもない。あまりに有能すぎて、便利だったからというのもあるのだろうけれど。
とは言え、実際にラブコメするためには登場人物の性格から過去来歴、行動原理などなど。生活環境や学校の設備、周辺地域のスポット調査など、凄まじい規模の調査を行っていて……いや、調査の仕方これガチすぎない? むしろ、調査による情報収集がメインになってるんじゃないだろうか。実際、目的と手段が逆転してしまってラブコメするための調査が調査のための調査、情報収集になってしまって本末転倒になってしまった時もあった程ですし。
これ個人でできる範疇の最大限なんじゃないだろうか。手法もプロじみているし、とりあえず必要不必要の判断をせずに手当たりしだいに情報を集めて、そこから分析精査するというやり口とか、探偵よりも情報機関のやり方みたいじゃないですか。はては情報分析官、アナリストかなんかじゃないのだろうか、こいつ。
しかし、一方で実際にそのデータを運用してラブコメするにしては、ヘボ役者ぽくもあるんですよね。とにかく、クラスメイトを前に委員長として演じる姿が胡散臭い。嘘くさい。実際問題、想定した脚本通りに喋っているのだから、仕方ないのかもしれないけれど、それ何のキャラなんだろう。少なくとも、ラブコメの主人公っぽくはないんですよね。
そもそも、自分以外の生徒たちにはラブコメ適性という分析をしているけれど、自分自身に対してラブコメ主人公適性をちゃんと鑑みた事はあるのだろうか。
それ以前に、ラブコメするって何なんだろう。
冒頭の長坂の宣言からこっち、その趣旨や言いたい事やりたい事は何となくわかったし、うんうんと頷きながら読んでいたのだけれど。
ラブコメをするためには、まず現実をラブコメが繰り広げられる舞台にしなければならない、という事で長坂くんは、集めたデータを駆使しながらラブコメの登場人物を選出し、イベントの準備をはじめ、舞台を設営しようと奮闘しているわけだ。その過程で、彩乃にバレて彼女を共犯者に引き込んで、一緒にラブコメをはじめるための舞台を作り上げようと色々とやっているわけだけれど。
これって、つまるところ企画側であり、脚本側であり、監督側であり、演出側であるんですよね。全部自分で用意して、展開も想定し誘導して、脚本通りに話も進める。それに、自分が主人公になって乗っかる、というのはこれ、マッチポンプの類になってしまうんじゃないだろうか。一から十まで最初から知っている、というか自分が準備した話の通りに演じて、それって本当に楽しいと思えるのだろうか。脚本通りの展開のままに、恋をしてドキドキできるのだろうか。
それはもう、ラブコメの主人公になるというよりも、ラブコメのゲームの主人公に転生する、という方が近いんじゃないだろうか。それも、自分が作ったゲームの主人公に、である。
その末に、ハッピーエンドにたどり着いたとして、現実はゲームや本のようにそこで終わりじゃない。昨今ではゲームや本でだって、エンディングのその後については手配りを欠かさない作品も多いのだけど。現実では、ハッピーエンドのその後は脚本なしで進んでいく。自分で全部準備して整えたラブコメを踏破してエンディングにたどり着いたとして、予定外にはとにかく弱くて咄嗟に対処できない長坂くんは、果たして脚本皆無のその先をどうするつもりなのだろう。
実際、彼がラブコメを現実に再現したいと思うに至った中学時代のエピソードでは、彼は裏方に徹しているんですよね。自分が主人公になろうとしたわけではなく、仲間たちのために舞台を整えていたわけだ。今彼がやっている事も、果たして自分が主人公の役におさまるにはどうも適さないようなやり方をしているように見えるんですよね。ちゃんとそのへん、考えているのだろうか。

とはいえ、そういう問題が現実に立ちふさがってくるのも、実際にラブコメをやる状況、舞台が整ってから。現状では長坂はその舞台づくりに終始していて、完成というかラブコメをはじめるに至る設営の段階で奮闘しているに過ぎない。その段階で、問題が噴出し、彩乃がトラブルに巻き込まれその解決のために設定の大改編をやってしまう、みたいな現状だ。
つまるところ、結局のところ、そうなんですよね、なるほどなるほど。
お祭りもゲームも、作っている最中が一番楽しい、というやつだ。長坂は、気づいているのだろうか。
今まさに、自分がラブコメ真っ最中だという事実に。
それも一人遊びではなく、彩乃を共犯者として同じ目論見に巻き込んで、一緒に本気のやりたいことをはじめた時から、それが始まっていることに。
一から十まで自分が考えたとおりに物事が運んでいくのではなく、他人の思惑が介在し何が起こるかわからない状況で、相手が何を考えているかわからない状況で、目の前で起こるトラブルを誰かといっしょに解決していく。協力して、心つないで、新たな関係を構築していく。それが自分の周りで繰り広げられはじめていることに。
彼の周りではじまっているそれをきっと、ラブコメと言うのだ。

しかし、幼馴染がいないなら作ってしまえばいいのだ、という発想には脱帽した。いやどう考えても無理筋だし、これが単にラブコメ企画のために無理やり作り出すというのならアレだったのだけれど、トラブル解決のための豪腕でのことで、人造幼馴染にされてしまった彼女にとっても予想外とはいえ決して満更ではなかったようなので、なんか痛快でもありました。
長坂としてはラブコメの中では幼馴染枠というのは相当推しの強い枠だと、あの強弁からしても思われるので、それをわざわざ彼女にあてがったというのは、それだけあの幼馴染への熱弁に値するものを彼女に感じている、というのは邪推でしょうかねぇ。
そして、メインヒロインの叛乱。前とは大いに多難で、まさにラブコメ渦中だなあ。なかなか先がどう転がっていくかわからないだけに、次回以降楽しみです。