【七つの魔剣が支配する VI】 宇野 朴人/ミユキ ルリア  電撃文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

運命の魔剣を巡る魔法バトルファンタジー、待望の第6弾!

エンリコの失踪はキンバリーに衝撃をもたらした。二年連続の異常事態に教師陣も犯人捜しへと動き始め、ついには学校長自らの尋問が生徒へと及ぶことに。
不穏な情勢下で近付く統括選挙の時期。後継者を決めあぐねるゴッドフレイ陣営の前に、因縁の対抗勢力が立ち塞がる。
そんな中、人生を懸けて箒競技のタイム更新に挑むアシュベリーは、大きな壁にぶつかり苦しんでいた。彼女の助けになろうとするナナオだが、ふたりの華々しい活躍は選挙と無縁でいられず──。
一方でオリバーたちの前には、転校生の少年・ユーリィが現れる。軽いノリとは裏腹に高い戦闘能力を持ち、楽しげに校内を探って回る彼の目的とは──。


あの3巻でのオフィーリアとカルロスの美しい破滅を目の当たりにして以来、未だにどう整理していいのかわからない感情の行所が、またぞろこの巻を読んで胸の中に渦巻いている。
わからない。悲しいのか感動しているのか、当たり前の喜怒哀楽では表現しきれないどう捕らえて良いのかわからない複雑な想いが、激しく胸をかき乱す。
彼ら魔法使いたちの価値観は、この物語で描かれる登場人物たちの価値観は大きく一般的なものとは異なっている。それが常識として描かれることに、どうしても混乱が生じてしまう。置いてけぼりにされるのならそれはまったく違い世界の出来事として分けて捉える事ができるだろう。でも、この物語は凄まじい勢いで読んでいるコチラの気持ちを引きずり込んでいく。共感にも似た網でこちらを捕らえて、彼らが感じたであろう想いを共有しようとしてくる。読んでいるこちらの価値観では理解しきれないはずのものが、感覚的に同期されていく。だから、わけがわからなくなるのだ。この情動を表現する言葉がなくて、混乱する。でも、確かにそれを、感じている。それがどうにももどかしい。

彼ら魔法使いは、その在り方からして人外の存在だ。自らが見出した命題にそれこそ魂から殉じて捧げ尽くす理外の存在だ。しかし、同時に凄まじいほどの深い情を持つ者たちでもある。これは年齢の上下に関わらず、学年の上下も関係なく、教師たちもまた同様に、きっと普通よりももっともっと情によって形成されている存在なのだ。狂うほどに、愛に生きている。魔道の追求のためにすべてを捧げているようでいて、きっと彼らは愛のためにすべてを投げ売って在る存在なのだろう。今までずっと彼らの在り方を見てきて、そう思う。そう思うようになった。
だからこそ、道を踏み外す。だからこそ、憎悪に呑まれる。オリバー一党が復讐に狂奔することも、またその原因となったオリバーの母の死も、魔法使いたちのあの想像を絶するほど深い情愛こそが根底にあるじゃないか。
オリバーたち剣花団の関係を見てみるといい。あれが、ただの友情、ただの親愛で結ばれた関係だろうか。あのオリバーが自分の弱さを泣きじゃくるという幼い子供みたいな姿で曝け出してしまえるほど深く繋がった関係。それを見て取り乱すようにしてオリバーのもとに寄り添う面々。
あんな、深い深い情愛で重なり合った友情が、一対一ではなく6人のグループで結ばれ合う、いや溶け合うというほどになっているものを、自分は見たことがない。親友や一心同体どころじゃない。
でもきっと、彼ら剣花団ほどの関係はこの世界でも貴重ではあっても特別ではないのだろう。この作品で描かれた魔法使い同士の人間関係は、繋がりは、どれもが勝るとも劣らない深度の情で紡がれている。
元生徒会長のあのゴッドフレイへの敵対と執着ですらそうだ。いやあれは、勘弁して欲しいほどヤベえんだけれど、あの元生徒会長があの執着を剥き出しにさらけ出しながら、どちらの陣営も異常に思っていないあたり、あれですらも決して珍しくはない魔法使いの在り方なのかもしれない。

そんな彼ら魔法使いの、情を燃料として焚べるように駆け抜ける人生において、だからこそ「死」もまた無慈悲な悲劇、ではないのだろう。
魔法使いにとって、きっと死ぬことそのものは忌避するではないのだ。それは受け入れるべき結末の一つであり、それが自分の魔法使いとしての人生、在り方の完結としての死であるなら、寿ぐべき祝福ですらあるのだろう。哀しく寂しくとも、それは良き旅立ちなのだ。
だから当人たちにとって満ち足りた幕引きならば、見送る者たちはそれを黙して受け止める。それが連れ添う者の居る孤独ではない旅立ちなら尚更に。
死という完結は、完成は、だから神聖ですら在る。
なればこそ、その神聖を穢すことへの呪いは如何ばかりか。寿がれるべき死を、無残な形で台無しにし、そこにいたる魔法使いの人生そのものを踏みにじった事への憎悪はどれほどのものになるのだろう。
オリバー一党のあの妄執とも狂奔ともいうべき憎悪の所以が、少しわかった気がする。そして、オリバーを愛する従兄姉たちが、どうしてあれほどオリバーの苦しむ姿に魂を引き裂かれながらこの復讐を止めないのかも。
それがもう、オリバーにとっての魔法使いとしての命題となっているから。
それを輔けることこそが、従兄姉たちの魔法使いの人生となっているのだ。

でも、いつかオリバーはその歩むべき人生を引き裂かれるような気がする。情愛の深さこそが魔法使いの業ならば、剣花団の中での日々はオリバーの中に新たな命題を産み始めているのではなかろうか。それは、ナナオとはじめて剣で相対した日をはじまりにして。
それとも、この物語における魔法使いたちの価値観は、在り方は、オリバーの復讐と友情を、両立して果てさせる事が叶うだけのものを内包しているのだろうか。

ただ一途に魔法使いとしての生きて生きて、駆け抜けたアシュベリーの姿に、魔法使いの在り方の結晶を見た。その結末は、きっと満ち足りたもので幸福だったのだろう。きっとあれこそが、ナナオの思い描き目指すべき魔法使いの完結だ。
果たして、ナナオはあのように生きて、死ねるのか。
命を文字通り圧縮して、生き急ぐオリバーはそんなナナオに応える事が出来るのだろうか。二人は、剣花団の6人は、あのオフィーリアとカルロスのように、アシュベリーとモーガンのように、あの先輩たちのように存分に生きて、思い残すことなく共に逝ける相手を見出すことが出来るのだろうか。
アシュベリーとモーガンの最期の挿絵は、本当に幸せそうであのシーンの印象を決定づけてくれたように思う。
……ああもう、どんな最良の結末でも彼らが生きて幕引かれる姿が思い描けない。そして、それが哀しくともハッピーエンドなのだろうと感じてしまう時点で、この物語に随分と毒されてしまっている。
どうか彼らに幸せな良き結末を。ただただそう願うばかりだ。

シリーズ感想