【Re:ゼロから始める異世界生活 12】 長月 達平/大塚 真一郎  MF文庫J

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繰り返すたび、記憶と異なる展開を見せる『聖域』――四度目の機会を得たその場所で、スバルはついにあってはならない存在、『嫉妬の魔女』との邂逅を果たす。影に呑まれる集落、敵であるはずのガーフィールの助力、実験場と呼ばれた『聖域』の真実。――そして、白い終焉を迎える世界でスバルの覚悟を嘲笑う魔人。希望に裏切られ、真実に絶望し、それでも未来を諦められないスバルは魔女との再会を求めて墓所へ臨む。そこでスバルは、『ありうべからざる今』と対面し――。「――もう、立てなくなってしまいましたか? スバルくん」大人気WEB小説、期待と裏切りの第十二幕。――置き去りにした世界の、声を聞け。

情報量が、情報量が多い! 前のVS白鯨&大罪司教編は死に戻りの度にジリジリと前に進んでいた感じだけれど、この聖域編は死に戻りするたびに、次に死んでしまう展開がどんどんと早まってしまうという恐怖。状況を打開するどころか、前回の出来事を踏まえてそれをクリアしようと別の行動をとったらどんどん想定外の事が起こるわ、ガーフの行動が過激化するわ、エルザの襲撃が早まるわ、とむしろ対処の余裕がなくなっていく始末。これほんとどうするの?
という時に、困った時のエキドナさん。我らが強欲の魔女である。エキドナがばっちりスバルをサポートするよ! とばかりに手を差し伸べてくる。
そりゃあスバルからしたらはじめて自分の死に戻りを告げることが出来た相手である。心だって許すよなあ。
しかし、相手はやっぱり魔女なのだ。
とはいえ、今回の周回は収穫が多かったのも確か。情報量が多い! と叫んでしまうほど。
リューズの正体、朧気ながらもガーフの行動原理も見えてきて、ロズワールが隠していたものも。そして、何よりあの小さな図書室の精霊ベアトリスの圧倒的な孤独と絶望を、知るに至ったのだ。あの子の絶望と諦観の海に溺れながらも、幾度もスバルを助けてくれた優しさも。
こうしてみると、スバルの死に戻り周回というのは目の前の絶望をどう回避し乗り越えるのか、という点からスタートしつつ、それとはまた別に何度も繰り返す中でそれまで見えていなかった状況、周りの人たちが抱えている事情、幾つもの秘められた真実が解き明かされていき、その中からただ危機を、絶望を乗り越えるだけではなくて、達成スべき目標や命題というものを見出していくことに繋がっているんですね。
此度はまさに、聖域を脱出し大兎の襲来をなんとかし、館へのエルザの襲撃をなんとかし、という大前提の状況回避を図る中から、ガーフィールの心情に向き合うことになり、またこうしてベアトリスの解放をこそ命題とすることになる。
また、スバルがある意味神聖視して直視していなかった、エミリアという少女の脆さについても向き合わなければならなくなったんですね。エミリアも、あれだけボロボロになりながらいざ目の前にボロボロのスバルが現れたら、速攻で自分の精神状態とか後回しにしてスバルにかかりきりになっちゃうから、スバルの方も勘違いしちゃうんですよね。それはエミリアの強さであり優しさであるのだけれど、同時に不安定さでもあり無理やりつま先立ちで走り回っているようなものなのだろう。そんな心身を支えるために、どこかで誰かに頼っている。それがパックであり、彼がいなくなった今となってはどうしたってスバルになってしまっていた、と。
彼女が好きと言ってくれたはじめての瞬間が、あの有様というのはスバルにとっては無残としか言いようがないよなあ。そしてそのエミリアの姿は自ずと嫉妬の魔女と重なってしまうと。確かに、ああなったエミリアは、嫉妬の魔女に重なって見えるもの。

そして何より衝撃的だったのが、スバルが巻き込まれた第二の試練。そこで示されてしまった、彼の死に戻りがすべてリセットされた上での巻き戻し、ではない可能性。すなわち、スバルが死んでしまった世界はなかったことになるのではなく、そのまま続いている可能性が示されてしまったんですな。
「ありうべからざる今を見ろ」
これがスバルにとってどれだけ衝撃だったか。足元を崩されるような、まさに崩壊だったんじゃないだろうか。ある程度自分の死を前提として、捨て回という概念すら得て、苦しみと痛みに満ちた狂うような死を許容して、次に至る。その覚悟を、示された可能性は踏みにじるものだったのですから。
ただ、捨て回とか自分の死を軽んじる捉え方は弊害も生み出しはじめてたんですよね。ガーフが度々、自身の死を踏まえて動くスバルに凄まじい嫌悪感を見せていたように、それはまともな在り方ではなく狂気に足を踏み入れた在り方なのだ。どうせ死んでも生き返るから、という前提をガーフや他の人間は知らないから、狂気に見えるのだという見方も出来るかも知れないけれど、やっぱり異常ですしそうした人間を周りの人間はどうやったって忌避していってしまう。
またスバルの側も、どうせやり直すから、という風に今いる世界、時間軸を捉えていたら、そこで黒広げられる惨劇にも、身近な人間な死にもどんどんと鈍感になっていってしまう。実際、ロズワールに鋭く指摘されてるんですよね。目の前で起こったガーフとラムの死に、反応が鈍かったことを。それは、スバル自身が気づいていなかった精神の摩耗であり、死に対する鈍感でもあったわけだ。
でも、試練が見せた可能性は、そのスバルの鈍磨した世界の捉え方を根こそぎ吹き飛ばしたとも言える。
もうとてもじゃないけれど、スバルは安易に容易に自ら死を選ぶことは出来ないだろう。自分の死を前提とした選択を取れないだろう。そうして自分が死んだ後に残った者たちの、慟哭を絶望を見てしまった以上は、自らの手でそれらを作り出すことなんて選べるはずもなく……。
でもそれは、同時に今生きている時を絶対に諦めずに頑張り通す、という覚悟を定めるきっかけにもなれるはず。土台ごとふっ飛ばされたけれど、やはりこれはとてつもない大きな分岐点だったんだよなあ。

そんな価値観というか在り方から根こそぎふっ飛ばされ、絶望し、恐怖し、混乱し、支えすらも失って、途方に暮れるスバルに手を差し伸べる強欲の魔女エキドナ。
うん、まったくもって後ろ暗さを欠片も感じさせない、好意的で親身で自分の欲望をさらけ出しつつも相手に寄り添うとても優しい、支えとなる手。
唯一、死に戻りという地獄を告白できる相手であり、相談できる相手であり、心の苦しみを打ち明けられる相手である。スバルにとって、この異世界に転移してきて以来、無二の相手だったはず。
縋るよねえ、そりゃ差し伸べられた手を握ろうと思うよねえ。
実際、その態度は常に胡散臭くも好意的で、いっそ胡散臭さも親しみに繋がるような要素になってて、ちょっとこれを疑えというのは難しい。疑っていても、信用していなくても、それでもちょっと手を借りるくらいなら、と思ってしまえるエキドナの言動だったわけで、これはスバルを責められない。
だが魔女である。
一皮剥いても魔女である。ってか、質悪い。この異質さを、さらっと覆い隠して見せない事のできる狡猾さがまたたちが悪いこと極まりない。自分とスバルたちとでは何が異なっているのか、どれだけ理解と価値観が異なっているのか、本当の所まるでわかっていないくせに。それはベア子の扱い方についても、スバルが何に怒っていたかについてもさっぱりわかっていない事からも明らかなのに、その差異を、異質さを気づかせない振る舞いが出来るというのは、ほんとうにたちが悪いったらありゃしない。
此度は他の魔女たちが味方してくれたから、スバルはやべえ契約書にサインするのを回避できたわけですけれど、しかしその他の魔女たちもやっぱり魔女たちなわけで。
しかも状況は今の所なにも改善されていないどころか、死に至る過程。死の要因である大兎やエルザの出現理由がまだ全然わかってないんですよね。なんか今回すげえ色々と伏線とか真実とか秘密とかが明らかになってわかった気にさせられたものの、まだまだ解決クリア編へと移行するにはあまりにも何もかもが足りてなく集まっていない。そこにどんどんスバルを追い立て追い詰める展開ばかりが積み重なっていく。さあさあ、毎度ながらどこまでスバルを追い詰めきるのか。あいも変わらず半端ねえ。

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