【覇逆のドラグーン 2.彷徨王国の竜機士たち】 榊 一郎/もねてぃ HJ文庫

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一夜にして変貌してしまった「世界」。正体不明の敵に精神を支配された大人たちに追われ、同じ16歳の仲間たちと旅を続けるクロウ。ルティエ姫を頂点とする「彷徨王国」となった浮走艦ジェナス号だったが、思わぬ人物が彼らに襲いかかる!その後訪れた悲劇―仲間の死―をきっかけに、クロウとベアトリスとの絆は急速に深まっていく。そしてなおも続く絶望的な状況の中、ついにクロウの中で異形の力が目覚めて…?若き竜機士たちによる英雄譚、待望の第二巻!

妊婦のお腹の中にいる時期に一年に一度、特定の日に輝くオーロラの光を浴びる儀式がある世界。そこで、火山の大噴火が原因でオーロラの光が見えずに儀式を行えなかった世代がある。それがクロウたち主人公の世代なのだけれど、ある日を境にして世界中の人間がこの「祝福されざる世代」の子らの存在に気づくと、途端に意識や精神がシャットダウンされたように無機質化し、機械的にこの世代の子供たちを殺害にかかる、という虐殺が行われるようになってしまったのです。親子であろうと、恋人であろうと全く見ず知らずであろうと関係なく。そして殺戮のあとは何事もなかったかのように死体も、その世代の子の存在すらも見向きもされなくなったまま、人々は普段の日常の営みに戻っていく、という狂気の世界。
まあ明らかに、オーロラの光によって全人類の精神が支配されている、どころかどうも脳に寄生されてるっぽいんですよね。そんな虐殺の中を軍学校の生徒たちが辛うじて生き残り、何とか集まり協力して奪取した大型飛空艦で逃げ延びて、自分達だけで生きていく事を覚悟するために建国宣言をする、という所まで描かれたのが一巻でのお話でした。
自分達のグループ以外とは意思の疎通も叶わず、気づかれれば襲われ殺されるという完全に世界から孤立してしまった状況は、ゾンビパニックのようなバイオハザードもの、社会の崩壊と世界の終末を描くアポカリプスものとも言えるのだけれど、それらとは異なってくるのは彼ら祝福されざる世代の生き残りを除いて、世界は普通の営みが続いている、という事なんですね。飛空艦から足元を覗き込めば、そこでは人々による当たり前の日常が続いている。しかし、彼らは絶対にそこには入り込めない。こっそりと世代のものであることを隠して忍び込む事は出来るのだけれど、気づかれれば即座に人々は町ごと、ロボットかゾンビのようになって襲いかかってくる。
これほど周りから拒絶され、孤立して、取り残された感覚に見舞われる状況はそうはないですよね。
だからこそ、クロウたちは余計に連帯感を強めていく、どころじゃなくて運命共同体……国という建前を使ってますけれど、無人島とかゾンビばかりになった世界で創り上げたコロニーのように、生き残り続けるという事を主眼にしたコミュニティを形成しだしている。
それは、もう他の全人類とは一切交われない、という諦めと覚悟。だから、自分達だけで生きていかなければならない、ひいては自分達だけで世界を作り、子供を作り、次世代へと繋いでいかなきゃんらないんじゃないか、という考えが彼らの中にうまれはじめてるんですね。
だから、グループのなかで男が三人だけ、という事に関してもまだ先のことをちゃんと考えられないにしても、ある種のねっとりとした、或いは切迫感のある感情が入り交じるのである。男女間の恋愛感情にしても、青春の甘酸っぱさよりももっと追い詰められつつ、急き立てられつつ、本能的に求め合うような空気感があって、独特なんですよね。
明日をも知れない、という刹那的な想いと、先々子供を作って自分達の中だけで次の世代を育んでいかなければならない、というどうしようもなく未来を見据えた考えが並列的に存在している不思議な感覚。これは、アポカリプスものでも見受けられるものなんだけれど、この手の孤立した集団サバイバルでこそ得られる感覚なんですよねえ。
登場人物みんなが多かれ少なかれ生存本能をたぎらせているような状況、とでも言うのか。生存本能を掻き立てられる状況、とでも言うのか。
群像劇、という体もなしているので尚更そのあたり盛り上がってるというか、テーマの一つになっているような気がします。

意外とメンバーの中ではクロウが一番慎重、とにかく今後も生きていけるだけの環境を整えるのが優先で、男女間のあれこれは落ち着くことが出来てからにしてほしい、という考えなのは偉いというべきか、それだけリーダー格の一人として全体を見ているという事なのでしょう。
でも、グループの精神的支柱であるルティエ王女はそのへん難しく考えていないポワポワした人ですし、実質全体の指揮を取っている「仕切り屋」のクラリッサは、クロウよりも口うるさいようでいて責任感故に精神的に不安定になる部分を、唯一の年上な男性のカイルに預けまくってて、何気に一番生存本能にかまけてるのがクラリッサである可能性もある、というような有様なんで、やはりクロウが一番風紀を気にしているんですよね。
まあ、そんなクロウが結局一番先に先走ってしまうのですが。

ともあれ、世界がずっと祝福されざる者の世代とそれ以外、に分けられてしまったままなのか、というと全人類を洗脳した、或いは寄生したと思われる謎の生命体、宇宙人? みたいなのの存在は確認されているわけで、それの正体を突き止めて対峙していくことで、何らかの形で人類の洗脳が解かれて、という可能性はあるにしても、結局は意思疎通不可能、相互理解不可能な相手との戦いであり、彼らだけの生存をかけた孤独なサバイバル、という体は続くはずだったのですけれど……。
クラリッサの父親である軍高官だけ、前回の怪我が原因で半端に意識が戻って人間的な感情、それが謎の生命による誘導なのか、それとも機能不全を起こしての事なのかわからないけれど、人間的な憎しみという感情をもってクロウたちを襲ってくるのである。
これ、ちょっと微妙に余分だったかな、と思わないでもないんですよね。謎の生命体も、支配された人間たちも、無機質なくらい何の感情もなくただバグを排除するためのように、クロウたちを殺しにかかってくるから不気味さ悍ましさが増すわけで。
そんな中で憎しみをもって襲われるというのは、ちゃんとこっちを認識してくれている、ある意味人間扱いしてくれている、とも言えるわけで、逆に孤立感が紛れる感覚すらあるわけです。
結構キツイ展開もあるのですけれど、ゴミのように処理されるより、変な話ですけれど無常観や無力感は目減りしたような気がするんですよね、自分にとっては。
展開的に、敵の中に明確な敵意を持って襲ってくる相手が居ないと話が進まない、というのがあるのかもしれませんけれど、あの人の存在はちょっと世界観というか物語の趣旨からすると蛇足じゃないかな、とちょっと思ったり。

なんにせよ、色んな意味でみんなそれぞれ一線を越えた所があるだけに、次回以降の人間関係も含めた変化は気になる所。犠牲が出たことでより切羽詰まった感情も芽生えてくるでしょうし。