【不殺の不死王の済世記】 笹木 さくま/葉山 えいし ファミ通文庫

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アンデッドによる、人間のための、平和な世界征服!

伝染病で死にかけていた少女ミラを救ってくれたのは、禍々しい動く骸骨、不死王・テリオスだった。テリオスはスケルトンを労働力として提供し、生き残った子供たちに勉学まで教えてくれた。最初は怖がっていた子供らもその誠実さに打ち解けていく。特にミラは才能があると魔法まで教わり、テリオスの弟子としてメキメキと才覚を伸ばしていた。しかしある日、スケルトンが出没していると国から討伐隊が派遣されてしまい――!? 誰も殺さず世界征服を目指す不死王と、彼を支えた銀髪の乙女の伝説、開幕!

まーた、極端から極端に走る人だな、この不死王様。
この人が前回失敗したのって、やりすぎが原因だと思うんですよね。その時その場面そのケースによって、対応や対策は変える事が回り道に見えても結局は最短距離を走ることになると思うのだけれど、彼の場合わかりやすい最短距離、身分も関係も性差も年齢も関係なく障害になるものを纏めて殺しまくったが故に誰もついていけなくなり、また感情的なしがらみが生じてしまった為に彼自身思わぬ形で、多分外から見れば必然のように足を引っ張られ、彼の所業は否定されて、世界に平和をもたらすため、世界中の人々が安寧に暮らせる世界を作るための戦いは幕を下ろしてしまったわけだ。
これを、不死王様は失敗の原因を、殺すことによって世界を平和にしようとしたからだ、と思ってるようなんですね。人間である以上、寿命というリミットが在り、自分一代で長く長く続く平和を作ろうとするなら、最短距離を突っ走らなければならなかった、という理由はわからなくもないのですけどね、ほんと。
でも、じゃあ今度はアンデットになって永遠に近い時間があるから、慌てず焦らず、前は殺すばかりでダメだったから今度は絶対に殺さないで世界を平和にする征服を進めよう、と思うのはやっぱりなんか変じゃないですかね。
それは決して間違ってない立派な思想だとは思うのですけれど、彼の心に「命」を尊ぶ想いや慈愛が存在するのかというと、ちょっと微妙な感じがするのである。命の重みというのを、果たして彼は実感できているのだろうか。数字や建前で数えていないだろうか。
もちろん、身近に接した近しい人たちに対してはとても優しい慈しみを抱いていて、手の届く近い範囲の相手に対しては普通の感情を持っているとは思うのです。これ、アンデット化する前の生前でも部下に対する態度なんかを見ているとあんまり変わってない感じがするので、生来の性質なんじゃないのかな。
そんでもって、アンデットと化して永遠の不死を手に入れたことで、もし世界を征服出来たならば寿命に邪魔されずに自分の手で永遠に平和を維持できると思っている。心の底から、善意と使命感を持ってそう考えてるんですね。
……いや、やばくないですか? そうやって作られた平和って箱庭どころか鳥かごとか飼育小屋とか、そういう類のものなんじゃないだろうか。
どれほど強力な力を持っているとは言え、独力で事をなすには限界がある以上、不死王さまは生きている人間の協力者を求めていて、とある人間の野心と下卑た浅ましさを原因とした偶然によって、疫病によって壊滅した村で最後に残り死を待つばかりだった子供たちを救い、それを恩に着せて、というほど情がないわけではないのだけれど、助けたのをきっかけに彼女たちの手を借りることになる。
そのうちの一人、年長でもあるミラという娘に魔術の才があり、その聡明さも相まって彼女が弟子となる事を請い、ミラとともに不死王さまは覇業の一歩目を歩き出すわけだ。
できれば、この賢いミラという娘に不死王さまの考え方に何らかの掣肘をもたらす役割を期待してみていたのですけれど……むしろ信者になっちゃってますね、これ。
狂信、というほどにはのめり込んでいないのですけれど、不死王さまの語る平和な世界に心打たれ、積極的な協力者であり支持者として率先して動くようになっている。
確かにこの時点で不死王さまの目指すものというのは、大人を疫病で全滅させられ失ってしまい、誰からも助けて貰えなかったミラたちにとっては眩しいくらい理想の世界なんですよね。いや、賢いミラだからこそ、不死王の語る平和を理解できた、というべきか。他の子供たちはよくわかってなくて、ご飯を食べさせてくれる優しい不死王様に懐いているというだけで思想に共感しているわけじゃないし、ミラの幼馴染の男の子もその反発はミラを取られたように思っているからで、難しいことは考えてないんですよねえ。

ただやっぱり、不死王さまの理想は生きる人間にとっては異質に感じられるのだ。
ミラたちの村が所属するエリュトロン王国。そこで起こった内紛に、不死王さまは介入することになるのだけれど、彼が味方することになる現王派の騎士たちは、聖騎士のディーネをはじめとして不死王さまがアンデットという魔物ながら、理性を持ち理想を持ち子供たちに慕われるだけの優しさを持つ悪しき存在とはかけ離れた、信頼に値する人物だ、と……まあ、幾度かの衝突を経て受け入れてくれるわけだけれど。
ただディーネをはじめとして、彼の誰も殺さない世界征服を、その思想を受け入れた、というわけじゃないんですよね。疑念を持ち、違和感を感じ、彼の力を借りなければ周辺諸国からの侵攻も防げないし、味方としては信頼できる相手だと認めていながら、しかし一歩その思想からは距離を置いているようにも見える。
叛乱を起こし、自国民を犠牲にするような策を弄した敵に対して、不死王様は結局自分の理想を貫き譲ることなくミラの願いを考慮する形で、刑を処す事になるのだけれど、これってほんと生命体としては殺してない、というだけで、誰も殺さない世界征服、なんて言葉ヅラから想像するキレイなものからかけ離れた現実を、早々に突き付けた、とも言えるんですよね。

これまでの作品の傾向からしても、作者先生がこの不死王さまの語るお題目を心から素晴らしいものと信じて、これを叶えるために嬉々と物語を綴っている、とはもちろん思えません。むしろ現実主義……ふわふわと柔らかく慈しみの籠もった理想の世界を実現するために、土台で或いは裏側でシビアで無慈悲な現実と向き合い、対峙し、突き付けられたそれを乗り越える主人公たちを描いてきた作家さんですからね。
永遠に変わらない存在であるアンデットになったはずの不死王さまが、果たしてこのまま変わらないで居られるのか。変わらずに理想を保ち続けることが出来るのか。一度目の挫折を経験しても、この人単にベクトルを真逆にひっくり返しただけで何も変わってないとも言えるだけに、その彼を変える何か、或いは誰かにぶち当たることになるのか、興味をそそられるお話となりそうです。

笹木さくま・作品感想