【クロの戦記 4 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです】 サイトウアユム/むつみまさと HJ文庫

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『死地においてこそ――笑え!!』
ちょっと過激な王道戦記、王国戦争編開幕!!

帝都からクロノの元に届けられた召集令状。
それは、『神聖アルゴ王国との戦争に従軍せよ』という緊急事態を知らせるものだった!!
すぐさまクロノは頼れる部下たちと共に、生き残るための準備を開始する。新装備や新武器など、これまでに生み出してきた全てを賭けて、クロノは英雄への一歩を踏み出す!!

「皆、生きて帰ろう」

シリアス&エロスなエロティック王道戦記、王国戦争編開幕!!

華々しい戦士同士の闘争、名将同士の戦術の競い合い、そんなドラマティックでヒロイックな絵になる戦争は、この作品においてはどこにもない。
血と泥に塗れた地べたを這いずるような戦争、何も思い通りにならず偶然と悪意と理不尽に翻弄されるばかりのどうしようもない戦争、それがこの物語で描かれる戦いだ。
実際、アルゴ王国側のイグニスや、帝国側でも優秀な将兵は決して少なくないんですね。だけれど、彼らが本領を発揮して思う存分力を発揮できる機会なんて然程も訪れないのである。なぜなら、優秀な人間以上に、愚かで考えが浅く欲望にかまけた人間の方が多いから、そのような人間の方が権力を握っているから、軍を左右する立場にあるから。そして、物事というのはそういう感情に任せた大きな声の方が通りやすいものなんですね。
お陰で、敵も味方も最適とは程遠い行動を選択し続けた結果、戦争はよりグダグダで目的も定まらず被害ばかりが増えていく消耗戦へとなだれ込んでいく。ほんと、状況に流されるのと一部の暴走が相まってホント素人目にも右往左往してるような有様に、帝国軍はなってしまうんですね。
そんな隙を敵がついてくるのなら、戦況は一気に傾くのでしょうけれど、敵は敵で同じように客観よりも感情任せに軍勢を動かすような人間が一番上にいるために、イグニスのような有能な将が苦虫を噛み潰したような顔つきを固定したまま、その尻拭いに駆け回るはめになる。お互いに判断ミスや油断や暴走を突き合わせて、ひたすらにグダグダに流れていくのである。
むしろ、これが戦争、と実感させられるような酷さでもあるんですね。

これ、上層部が全部無能、とかならまだ分かりやすいのですけれど、実質帝国軍の指揮をとっている副軍団長のベティス伯爵。あのフェイを虐めていて、彼女がクロノのもとに来るきっかけとなったあの人物なのだけど、フェイへの仕打ちを含めてろくな人間じゃないように見えていたのだけれど、実際戦場に立ってみるとこの人、普通以上に優秀なんですよ。軍人として見識高く、亜人などの運用にも理解が深い。決して亜人の立場に同情しているというわけじゃないのだけれど、差別的な意識はかなり少ないし、色々と口を挟んでくるクロノに対してもうるさいやつと邪険にするのではなく、むしろ便宜を図ってくれたり、素直に提言を受け取ったりと偏見で目を曇らせたりする事なく、物事をフラットに見られる将帥なんですよね。
いや、それどころか成り上がりという立場上、同じ立ち位置の大隊長たちから敵意を浴びせられるクロノに対して、かなり親身に接してくれたり。フェイの事でむしろクロノとの間ではトラブルを抱えているはずなんだけれど、結構気を使ってくれるし、イイ人っぽいんですよねえ。
なのだけれど、お飾りの軍団長であるアルフォート皇子は約立たずを通り越して、お飾りの役目も果たせない臆病者の無能で、余計な命令を連発してベティルを困らせるし、部下である大隊長たちは彼らも貴族であるせいか、傲慢で不見識な言動が目立ち、ベティルの足を引っ張ることになる。
上も下も無能で愚か者が揃っていて、そういう人物ほどトラブルを起こし問題を拗らせ余計なことをしでかしてくれるために、しわ寄せが全部ベティスにかかっていちゃうんですね。
うん、そりゃマトモで使えるクロノも頼りにしちゃうわなあ。でも、利用するつもりだけじゃないのは、クロノに対して慰めの言葉をかけたり彼が罪悪感を抱かないように言葉を尽くしてくれたり、というところからも垣間見えるので、どうにも好感度あがってしまうんだよなあ。苦労人というのがよくわかるだけに。
振り返ってみると、フェイの問題だってフェイが要らんトラブルをよく引き起こしていた、というのも原因の一つなんですよね。騎士団長として組織を乱す要素を見逃すわけにはいかないし。
フェイって、クロノの所に来た時も似たような問題起こして、クロノからお仕置くらってましたからね。場合によっては追い出されかねない勢いで。
まあそれをセクハラにつなげてしまうあたりが、ベティル伯爵の俗な所なんだろうけれど。
でも、俗人であるが故に出世にこだわり、貴族という立場に抗えず、皇族であるアルフォートに対しても強く言えない。中間管理職的な苦労を背負うはめになっているわけだ。
でもこれ、クロノもあんまり変わらないんですよね。成り上がり貴族として、出る杭打たれないようにおとなしく目立たないようにしておかないといけないし、同じ大隊長たちの僻みや敵意も真っ向から向き合わずにうまく受け流さないといけない。そうやって保身保身に努めている。
臆病で小心者でわりとネクラで野心もそんな大したものを持たないクロノにとっては、それは当たり前の生存戦略だったりするのだ。でも、真面目で勤勉なクロノは自分の仕事を蔑ろには絶対にしないし、小心故に自分や部下がしなないように努力を欠かさない。それが、彼を生き残らせていると言っていいし、他の愚か者どもとの決定的な違いなのでしょう。
そして、そんな彼を英雄たらしめるのは、人並み以上の怯えや恐怖を押し殺して前に出る「勇気」なんですね。
いや、クロノにとってその「勇気」とか罪悪感や恐怖そのものなのかもしれない。自分の立場が失われたり場合によっては死んでしまう事よりも、怖くて恐ろしい、耐えられないという小心さ故なのかもしれない。
でもその臆病者の「勇気」によって、身を挺して庇ってもらった者、救ってもらった人にとっては。自分達が死地に送り込まれる絶望の中に、本来必要がないにも関わらず共に身を投じてくれるクロノは、英雄そのものなのだ。
勇気を振り絞るとき、クロノの内面はいつもみっともない程無様な顔を見せている。英雄なんてとんでもない、情けない男の顔を曝け出している。誰もそれを知らなくても、クロノ自身は誰よりもそれを思い知っていて、だから彼は増長なんてするどころか、いつだって自分を卑下して、卑しい心根を恥じている。
でも、クロノのそれこそが「本物の勇気」なのだろう。
アリデットとデネブを助けるために、身を挺して飛び出した時も。亜人部隊が死地に送り込まれようとしている時、自身がその指揮官として残った時も。
彼が示したものこそが「本物の勇気」なのだ。死地においてこそ部下たちに笑ってみせる、彼こそが英雄なのだ。