【悪役令嬢になったウチのお嬢様がヤクザ令嬢だった件。】 翅田 大介/珠梨 やすゆき 電撃の新文芸

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ケジメを付けろ!? 型破り悪役令嬢の破滅フラグ粉砕ストーリー、開幕!

「聞こえませんでした? 指を落とせと言ったんです」
その日、『悪役令嬢』のキリハレーネは婚約者の王子に断罪されるはずだった。しかし、意外な返答で事態は予測不可能な方向へ。少女の身体にはヤクザの女組長である霧羽が転生してしまっていたのだった。お約束には従わず、曲がったことを許さない。ヤクザ令嬢キリハが破滅フラグを粉砕する爽快ストーリー、ここに開幕!

おらぁ、指詰めろや王子様よぉ。と、断罪イベントでむしろ断罪される王子様、超涙目である。
悪役令嬢キリハレーネ、前職ならぬ前世・女極道。ヤクザ令嬢とタイトルなってますけれど、ヤクザの娘じゃなくてご本人が組長をやっていらした女大親分なんですよね。それも小さいシマを仕切っていたようなこじんまりとした組ではなく、日本の任侠組織をまとめ上げ海外マフィアとの勢力争いを勝ち抜き、会社経営なんかも取り仕切って経済ヤクザとしても覇を極めた伝説の女任侠・和泉霧羽。
むしろ異世界で貴族令嬢やってるよりも、こっちのヤクザ時代の話のほうがド派手な冒険譚になってやしないだろうか、と思ってしまう経歴なのだけれど、そりゃあ中身がこれじゃあちょっと顔が良くて家柄が冴えているだけの王子さまたちなんぞ、ケツに毛の生えた小僧に過ぎず。なんの覚悟もなく寄りかかってくる貴族令嬢なんぞは「顔を洗って出直しな、小娘ども」と喝破するのがよく似合う。まあ役者が違うというものだ。
それに任侠者ではあっても正義の味方でもお優しい聖女でもないわけで、乙女ゲームに相応しい慈しみの心とか、コンプレックスを乗り越える手助けをしてあげるような手取り足取り支えて導いてあげるような親切心など、欠片もないのである。
自立するなら自分で立て、助けてほしけりゃ覚悟を見せろ。筋は通すし義理も果たすが、筋の通らない事は許さねえし不義理に対しちゃーきっちりケジメ、つけさせてもらいます。
とまあそんな勢いで、乙女ゲームのシナリオを蹂躙し攻略対象の小僧どもを容赦なく蹴散らしていくこの痛快さ。彼女の舎弟みたいなのになってしまう、貴族令嬢三人娘たちもそれまで貴族の娘として身を律して感情を整え抑え込んできたものを、自由かつ毅然と振る舞い貴族令嬢の枠に留まらないレイハの姿に感化されて、己の怒り、憤懣、復讐心、野心、欲望を曝け出して思うがままに振る舞い出すその様子は、まあなんというか自立した女性を通り越したナニカになってて、うん凄かった。
特に、他の二人が婚約者だった貴族の若者たちにさっさと見切りをつけたのに対して、幼馴染の婚約者に執着して、離れてしまった心はもういらないけど、身体は絶対に離さない。彼を所有できるのなら、悪魔にだって魂売ってやる、ともうヤンデレを通り越したナニカに成り果てたのを見たときには笑ってしまった。これが見るからに女性らしい女性ならまだしも、ヅカ系男装騎士令嬢から溢れ出すドロドロの怨念的執着ですからね。
女の暗黒面をこれでもかと曝け出す三人娘に、莞爾と微笑んで「良し」と言ってのけて、任せろと請け負うキリハさんのカリスマである。
実際、彼女の強烈な輝きは人を惹きつけてやまず、自身身体一つで冒険者稼業なんかも並行して行うものだから、市井でも人気を集め、さらに騎士のおっさんどもからもその勇ましくも美しい、しかも絶体絶命の危機にして死地ですら堂々と振る舞い姿に魅入られて、身分問わず凄まじい人気を集める始末。
前世でも、男には縁がなくって普通の恋愛がしたい、なんてうそぶいていましたけれど、自身を変えるつもりがさらさらない以上、ちょっとこの人に見合う男って早々見つからないんじゃないだろうか。執事として侍りつつ、キリハに色々と押し付けようとしていたこの世界担当神様のジェラルドは、もう顎で使われるだけの三下使いっぱしりにすぎないですし。こいつ、神様のくせにしょぼすぎるw
というか、このキリハさんの貫目に見合うような男って、国王陛下くらいなんですよね。立場上、嫡子の元婚約者なのですけど、国王陛下わりと本気でキリハの事狙いだしてやしないだろうか、これ。

そしてキリハさんのやり口なのですけれど、長ドス振る舞わすだけの脳筋ではなく、組織の取りまとめにも長けていたように交渉ごとも結構得意で、さらに会社経営者としての顔もあり経済ヤクザとしての辣腕の持ち主でもあるので、絡め手ハメ手もなんのその、なんですよね。結構えげつない手段で三人娘たちの障害になっていた商家や貴族家を陥れ、没落させ、抜け出せない沼に蹴落としていくやり口は、まさにヤクザ、ヤクザのそれである。いや商売の闇なんてそんなものだし、貴族同士の勢力争いも似たようなもの。ヤクザとはいくらでも親和性ある、という事なんでしょうね。
とはいえ、キリハさんのやり方はきっちり筋を通したものですし、彼女に寄って今回陥れられた人たちはそれだけ足元がお留守だったり、不義理を重ねていたことこそが没落の要因だったので、ちゃんと勧善懲悪っぽくはなっているんである。
こうして女性たちからは慕われ、一廉の男どもからも懐かれて、一種のカリスマとなっていく彼女。身分性別を問わずに人心を集め束ねていく姿はまさに姐御、姉さん、伝説の女大親分の器量である。
対するは乙女ゲーム主人公のキャラに収まった、前世・サークルクラッシャーの因業女。人を陥れ破滅する姿を見るのが楽しみという、人の不幸は蜜の味を地で行くまさに邪悪そのもの。だからこそ、他人を苦しめ人の絆と心を壊し、尊厳を踏みにじるを得意とする魔性の女である。
まさに対極をなす女同士、どちらかが破滅するまで終わらないだろう対決は、このまま第二ラウンドへ。これはキャットファイトなんかじゃ済まないドロドロの対決となりそう。ある意味、ワクワクw

翅田 大介・作品感想