【恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。】 岬 かつみ/庄名 泉石 富士見ファンタジア文庫

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いつも一緒。だから愛おしい――秘密の偽装恋愛ラブコメ!!

「友近たち、付き合ってることにしちゃうのはどうかな?」高校一年となった凛太郎は新しくできた女友達・友近姫乃に告白される。周りの恋愛ブームにうんざりした二人は秘密の偽装恋愛関係を結ぶことになるのだが!?

なるほど、うむ。この友近って子、かなり難しい子だぞこれ。
言動は天然で、周りに迎合せずに自分の道を行くタイプ。でも強引に引っ張る我田引水な性格ではなく、むしろひっそりと気配を消して盛り上がってる空気から離れていくような。
しかし、内向的な性格というわけではなく人好きして、むしろ明るい雰囲気なんですよね。結構な人気者で男女問わず好かれる方で、だからこそ田舎特有の青春=男女交際という熱に浮かされた男子生徒たちから告白ラッシュを受けるはめになる。
それにうんざりして、主人公の和泉凛太郎に偽装交際を申し込んでくるのだけれど。
うん、告白避けとはいえ交際する事になるのだから、お互い意識しあって甘酸っぱいラブコメがはじまるのかと思ってた。或いは、最初からヒロインの方が意識していて、偽装交際を建前にしてグイグイと踏み込んでくるタイプのラブコメかとも想像した。
でもそういうのとはちょっと違ったんですよね。お互い偽物の恋人という関係にもっと右往左往するのかと思ったら、友近の方は天然ゆえの強さというべきか、堂々と交際しています、という顔を崩さず、和泉くんの方も友近と付き合い出した事に男どもからえらい追い込みかけられるのだけれど、あんまりあたふたした様子を見せずに、曖昧に誤魔化しながらもまあ付き合ってますよ、みたいな雰囲気を出している。
途中まで、文化祭の話が持ち上がるまで「あれ? この二人って普通に付き合ってね?」と思うくらいにはこの二人、当たり前に学校ではつるんで、放課後は和泉の家に入り浸り、たまに和泉から誘ってデートみたいな事もして、神戸遠征までした時は帰りのフェリーに乗り遅れてお泊りなんかまでしてしまったりして。
偽装恋愛とは? と首を傾げてしまうほど馴染んだ二人の時間を構築してたんですよね。
ただもちろん、それ以上の恋人らしい事をしているわけではない。舞台が瀬戸内海の島、これ小豆島がモデルなんだろうけど、四国は香川県圏内に位置する田舎ということで若者が遊ぶ場所も少なく、年頃の若者たちの話題といえば男女交際とセックスばかり、と多少偏見入ってませんか? という体で交際を始めたら進行も早い土地柄みたいなのだけれど、セックスどころかキスするような甘酸っぱい雰囲気にもならない。
交際していると言えば交際しているような、友達同士で遊んでいるといえば遊んでいるだけ、とも言えるような、なんとも平熱な関係なんですよね。
しかし、これはこれで友近は楽しそうにしているし、実質付き合ってるんじゃね? という風にも見えたのだけれど、これまで高校で行われていなかった文化祭が復活することになり、島外からの入学者で文化祭という概念をよく知っていて、実は生徒会長とか歴任したイベンターでもあったという突然何やら多様な属性を突っ込んできた和泉くんが文化祭実行委員をすることになったあたりから、微妙に空気が変わってくるのである。
文化祭の復活に乗り気になっている氷室や、中学生の天ヶ瀬などを巻き込んで、学校全体でうまいことイベントごととして和泉くんは文化祭の準備段階から盛り上げていくのだけれど、その「みんなで」の中からススっといつの間にか友近が離れていってしまうのである。
ああ、この子わりと本気で「告白避け」が主理由だったのかもしれない、和泉くんと偽装交際はじめたの、と思ったのがこのときだったんですよね。
もちろん、その相手が和泉くんであるべきだった理由というのはあるはずなのですけれど、友近にとって沢山の男子に日々告白されるために付き纏われる、というのは本当にキツいことで、どうしても避けたい事だったのだなあ、と。
みんなと一緒、みんなと同じというのはこの子にとって生理的に耐え難いことだったんですね。一対一の対面だとよく喋るのに、集団の中に入ると窮屈そうに居心地悪そうに居場所をなくしてしまう。
感心したのは和泉くん、その事を知るやいなやフラフラと集団から離れて遠ざかっていた友近のところに真っ先に駆けつけるのですよ。そうして、集団の中に連れ戻すなんて真似はせずに、みんなと一緒に楽しもう、なんて無粋なことは言わずに、友近の場所からでも楽しめるようなイベントを作るからそこから友近の好きなように楽しんでくれ、と告げるわけですよ。
そうして、イベントの中心となって盛り上げながら、一方で一人でフラフラしている友近の所までわりとマメに駆けつけて、二人の時間を作るのである。
この男、何気にソツがない。というか、友近姫乃という実際はかなり難しいだろう女性に対する最適解の接し方をしてるんじゃないだろうか。
多分、彼女との距離感のとり方を理解しようとしない類の男だったら、そもそも偽装交際すらも成立しなかっただろう。文化祭が終わればもとに戻る、と語っていた友近だけれど、和泉くんの対応次第ではそれも叶わなかったんじゃないだろうか。友近をほったっらかしにして集団の中に入り浸るか、余計なお世話で友近をグループの中に引っ張り込もうとして破綻するか。
パーフェクトコミュニケーション! という単語がファンファーレと共に鳴り響いたのが、文化祭の最中での公園での一幕でありました。
友近にとって、彼に偽装交際を持ちかけたのは告白避けの為であると同時に、期待もあったと思うんですよね。彼は、その期待に理想以上に応えてくれた。期待は確信に変わり、淡い思い出の縁は今現在の熱量へと変換される。
そう、この瞬間から友近の熱量が確かに変わるのです。平熱から、グッとハートが火照ってくる。
男がドキドキしてしまうのは、どうしたって女の子の本気を見せられたとき。さて、友近が平熱だったのと同様に、何だかんだと友近と仲良くしつつも熱量はフラットだったのは和泉の方もおんなじだったのですけれど、明確に変わってくる友近に対して果たして年頃の男の子が耐えられるのか。
わりと速攻でドキドキさせられるはめになっていて、むしろラブコメとしてはここからがスタートなのかもしれない。

しかし和泉くんよ、スマホなくしていながら利用停止しないのは本当に危ないからね。

岬かつみ・作品感想