【死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く V】 彩峰舞人/シエラ オーバーラップ文庫

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ノーザン=ペルシラ軍を退け、国の再起に活路を見出したファーネスト王国は、脅威であるアースベルト帝国に対抗するため、メキア神国との同盟を結んだ。
第八軍の総司令官であるオリビアは、王国代表としてメキア神国の国主・ソフィティーアに招かれる。
表敬訪問と銘打ち、手厚い歓待を受けるオリビアたちだったが、ソフィティーアの狙いは圧倒的な武力を誇るオリビアを自国へ引き込むことだった。
オリビアの悲願とも言える死神の捜索を条件に交渉を試みるソフィティーア。
魅惑の条件を前に、心揺れるオリビアが下す決断は――?
王国軍“最強の駒"として、常識知らずの無垢な少女が戦場を駆ける、第五幕!




いや、アシュトンくん、君ってオリビアがいなくても相当にしぶといよ? というか、なんでアレで死なないどころか大した怪我も負ってない上に絶体絶命から逃げ延びる事が出来たのか、主人公並の天運がなければ普通に死んでてもおかしくないんですけどね!?
クラウディアなんか、完全にアシュトン死んだー! と自失しちゃってましたし。あれでクラウディアが自分の気持ち、アシュトンに知らず知らず好意を抱いていたことにアシュトンが死んだと思った事で気がつく展開になるかな、とちょっと期待したのですが、この娘も筋金入りの鈍感娘でした。
傍から見たらどう見てもべた惚れなんだけどなあ、自覚がまったくないという。
そしてアシュトンの方も軍師として頭は冴えてるのに、クラウディアの気持ちについては全然気がついていないというコチラも筋金入りの朴念仁。いやまあアシュトンの方は恋愛感情についてはフラットか、若干オリビアに惹かれている、という具合なのでアンテナ高くなくても仕方ないのかもしれませんけど。察しが悪い方じゃないのですが、何しろクラウディアの方に自覚も何もあったもんじゃないので、むしろクラウディアの認識の方を察して無自覚の好意には気がついていない、というきらいもあるんじゃないか、と。
ただまあ、このオリビアとアシュトンとクラウディアのトライアングルは、天然に鈍感に無自覚というポンコツ揃いのお陰でお互いの関係を深く考えることがないゆえか、距離感に遠慮がなくてほんと仲良いんですよね。大人の酸いも甘いも噛み分けた仲の良さ、というよりもどこか幼さすら感じられる子供同士の純粋な仲の良さ、というふうな感じで。アシュトンもクラウディアも本来は年齢よりも大人びた性格の若者なんだけれど、天真爛漫なオリビアに引きづられたというか染まったというか。上司と部下でありながら、同世代の友達という側面を深く内包している密接な関係になってるんですよね。見ていても微笑ましいというか、いいなあと思えるトリオで。これ、見方によってはアシュトンくん両手に花なんだけど、不思議とそうは見えないのよなあ。
まあアシュトンとクラウディアは特に、なんだけれど、身近に接した人たちとこうして心寄せあえる関係になれたからこそ、ソフィティーアの勧誘を蹴っ飛ばせたのでしょう。
オリビアにとってゼットの存在は絶対で、彼を探すことこそが至上命題だったはず。王国軍に参加したのも、ゼットを探すためという理由だけで何の思入れもなかったはずなのに。そもそも、死神のゼットに育てられた自分と「人間」とはどこか別の存在として分けて見ていたオリビアが、今こうしてゼットを探すよりも優先したいこと、彼を後回しにしても一緒に居たい人たちが出来た、というのは何とも感慨深いものがあります。
面と向かって、君たちが大事、と言われたアシュトンやクラウディアもこれ嬉しかったんじゃないかな。どうしたって人外とも言える力を振るうオリビアは、まともな人間からは忌避されそうなものだけれど、オリビアの無邪気さとこんな風に衒いなく率直に偽ることなく心ぶつけてくるものだから、どうしたって恐れを抱けないんですよね。
第8軍の指揮官に任命されて離れてしまいましたけど、元々所属していた第七軍のパウル将軍以下の幹部のおっさん連中が揃って、オリビア居なくなって寂しい、と愚痴こぼしてあっているのを見ても、戦力云々だけじゃなくてオリビアってムードメーカーでもあったし、老若男女問わずに部下からも上司からも好かれ親しまれてマスコットめいた扱いもされてるんですよねえ。
これだけ特異で異常な存在でありながら、こういう風に好かれるのはやっぱりあの天真爛漫な性格ゆえなのでしょうなあ。七軍のオットー副官とか本気で怒ったクラウディアとか、無敵に思えるオリビアがガチでビビって頭上がらなかったり、という隙があるのもむしろ親しまれる理由なのかもしれません。
ただ彼女を強大な戦力、としてしか見ていないメキア神国の者たちがオリビアを引き入れようとしながら、一方で畏怖を押さえられずにオリビアを一人の少女として見ることをしないのがまた対照的だったりするんですよねえ。

さて、帝国の侵攻をオリビアの活躍に寄って辛くも退け、なんとか体制を立て直すことに成功し、逆に帝国に対して乾坤一擲の大勝負に打って出た王国軍。
その要となるのが、オリビア率いる新設第8軍。いやこうしてみると、オリビアの武力をただ利用して使い倒してやろう、みたいな考え方じゃなくて、適切に最大戦力を運用しようという戦略を立てて実行する王国軍の将軍たち、みんなホント優秀ですし人格的にも他人の足を引っ張るようなのが居ないんですよね。或いはこれまでの激戦で淘汰されたか。オリビアがどれほど強くても、周りが足を引っ張って力を発揮できない、というような場面を殆ど見ることなく、自由奔放なオリビアの理解者が部下にも上層部にも同僚にも揃っている、というあたりにオリビアの快進撃の大きな理由が伺えるのではないでしょうか。いくら彼女でも周りに足引っ張られて思うように動けなかったら、力をどれだけ発揮できるか。こうしてみると、随分とオリビアが恵まれているのがわかります。そういう立ち位置を自分で築き上げてきた、とも言えるのでしょうけど。

一方で帝国の方はというと、内部で不穏な動き在り。これまで人知れず暗躍するに留まっていた宰相がついに動き出したことで、迷走がはじまっているんですよね。帝国軍の支柱というべき人物が、突然排除されたりもしていますし。動乱の種が芽吹き始めているさなかに、王国軍の攻勢がはじまったわけで、果たしてこの作戦、成功するのか。
オリビアに相対するのは帝国最強の蒼。ついにはじまる頂上決戦、ということで次回への引きに際しての盛り上がりとしては十二分。というか、ここで切るのは何ともいやらしいじゃあないですか。続きが出るのを待つのがまた長く感じてしまいますなあ、これ。
うん、面白かった♪