【異世界はジョーカーに微笑んだ。】 赤月 カケヤ/かかげ  MF文庫J

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権力を振りかざし偉そうにしている奴らは、全員死を持って償え――。

罪を犯しても裁かれることのない権力者を趣味で殺害していた頭脳派凶悪犯罪者【ジョーカー】は、異世界に転生した。異世界で授かったあらゆるものを騙す【偽装錬金】の能力と、殺人鬼としての異常性。それらが重なり合い、彼は最強の救世の殺戮者となる。
《人は首を切断しても数秒は意識があるという。死の間際に己が愚行を反省しろ》
「第5回小学館ライトノベル大賞」にて優秀賞を受賞した問題作、『キミとは致命的なズレがある』で鮮烈デビューを果たした赤月カケヤが贈る、腐った上級国民は全て駆逐!系ダークファンタジー!!

世には「正義の殺人鬼」などと呼ばれていた彼だけれど、自分でそれを名乗るような厚顔の輩でもなく正義に酔いしれる愚か者でもない。主人公はただ殺人を趣味と公言するように自他共見える社会不適合の異常者である事に違いはない。
実際、彼は正義の味方なんかではなく、弱者を守ったり助けたりするような事もない。やる事と言ったら、復讐の代行くらいのものだ。彼、復讐という行為の正当性について、復讐そのものを借り物の「復讐は無限の連鎖をうむからだめ」みたいな事を言う結奈を論破するために散々に言い負かしていたけれど、さてどこまで彼自身が自分の語った復讐の正当性について信じているのだか。あれは詐欺師の論法で自分も信じていないようなことをさも正しく唯一の解法のように語って相手に有無を言わせなくするだけのもので、とても自分の信念に基づいた思想とか正論を語っているものではなかったですし。まったくもって、騙りである。
彼の場合、だいたいがその騙りなので、正直に本心を口にしている場面がどれほどあるのか。殺人鬼という以前に詐欺師の類なんだよなあ。
そして、彼は誰も救えていない。救おうとしたのかも定かではないけれど、実際問題として彼に関わり好意的に接してくれた人々は、概ね無残な形で惨死を遂げている。おそらくは、彼が亡くした妹にほど近かった少女まで、結局彼は救うことが出来なかった。
殺人という行為に目覚めるのが遅かったために、救えなかった妹の存在はたしかにこのジョーカーに根ざしている。でも、殺人を行うようになっても、結局どれだけの人を助けることが出来ているのか。
彼の中に残り続けているもうひとりの「結奈」もまた、そうしたうちの一人なのだろう。
結局、彼は誰かを幸せにできる存在ではないのだ。それを、彼自身弁えているのだろう。彼が出来るのは、報いを受けさせる事だけなのだ。

極悪非道の人面獣心の悪人どもに、その悪行の報いを受けさせ、彼らが殺した者たちと同じかそれ以上の苦しみと痛みを与えて後悔させ尽くしてから殺す。無残に殺す。人々の尊厳を踏み躙ってきた者に、尊厳を奪い尽くしてやってから殺す。辱めて殺す。絶望させて殺す。
でも、それはそれだけの悪行を彼らが嬉々としてやり尽くしたあとの事なんですよね。それだけの惨たらしい、穏やかで善良な人たちが酷い殺され方をして、残された人々が絶望に打ち震える様子をこれでもかと見せつけられたあとに、行われる始末である。
それを、痛快には思えない。胸糞の悪さを払拭するためのただの憂さ晴らし程度のものだ。気すらも晴れない。それでも、この連中が報いも受けぬまま、後悔も絶望もしないまま、これまで通りに振る舞い続けるのを見せられるよりはよほどマシ。最低限の精算である。後味の良くない、それでもこれ以上悪くならないための一線を画する、という行為だ、これは。虚しくとも、ケリをつけなければ誰も前に進めなくなる、酷いゴミ処理のお話。
それを、ジョーカー自身も決して楽しんではいないのだろう。趣味だと語るし、自身の絶対優位を確信している強者が絶望に顔を歪ませるのを見ることに愉悦を感じるのも嘘ではないのだろうけれど、彼の中にあるのはそういう「楽」ではなく、本質は「怒」の方に見える。
報いは、彼にも訪れるのだろうか。彼の奥底に安らぎを与える可能性があっただろう人物は、妹も「結奈」も結局は踏みにじられてしまった。その彼の心に平穏は訪れるのだろうか。理解者は現れるのだろうか。何の因果か彼の使徒になってしまった元警察特殊部隊の隊員だった坂西結奈は、まあ正直おバカで結構思考も凝り固まってる所もあってジョーカーの根源を揺るがせるものがある娘には見えないのだけれど、おバカであるが故に煙に巻くジョーカーの一番深い部分を直感的に見ている節がある。理解者となり得る可能性も、あるのだろうか。
救いは、彼にもあり得るのだろうか。
なかなか際どいライン上を踊る作品で、色んな意味でドキドキさせられましたが、さて次回以降もあるとしてどこまで攻めるつもりなのか。やっぱりドキドキさせられるなあ、これ。

赤月カケヤ・作品感想