【ワールドエンドの探索指南(あるきかた)3】 夏海 公司/ぼや野 電撃文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

ついに垣間見えた、世界の真実とは――ボクと彼女のサバイバルファンタジー

地図と周囲の風景が違う? 探索を続け町を進行するタイキとヤヒロは、世界への違和感を強くしながらも、高層ビルの立ち並ぶ繁華街へとたどり着く。無数の落書きに迎えられたここは、どうやら2つの勢力が縄張り争いをする、戦場の真っただ中のようだ。
〈天文館〉と〈果樹園〉という二つの部隊は戦闘を繰り広げ、究極の〈秘宝〉を探し求めているらしい。そんな中で、双方に和解を呼びかける勢力、〈灯台〉に所属する陽羽里クイナと出会う。
目指す〈ミハシラ〉へは繁華街を通過しなければならず、タイキは両陣営とクイナを前に選択を迫られ──。

エグいなあ。黒幕の人、目的は自身が語ってくれていましたけれど、あれで一応本気で善意なのかも。いや、みんなを見下し嘲弄に染められているそれを善意と言っていいのか。結局、ゲートの保持が目的なんだからそんなはずないよなあ。
にも関わらず、さも自分は善意で彼らを妨害していたんだ、なんて事を平然と笑みすら浮かべて宣ええる時点でその性根は最悪である。
だいたい、ただゲートを保持するため爆発を阻止するのならやり方はいくらでもあったんですよね。なのに、わざと関係をこじらせるように誘導し、本来理性的なリーダーに率いられた穏当な集団を敵意どころじゃない憎悪というマイナスの感情に染め上げて、人間の醜い面を引き出すように誂える。あとは、見ているだけで殺し合いだ。目的を達するための殺害ではなく、殺すための殺しを行わなければ気がすまないまでに両陣営の精神を汚染する。目的を達成するためには不必要なそれは、悪趣味以外のなにものでもない。

そも、振り返ってみると最初に与えられた「天文館」と「果樹園」という集団の情報からして悪意たっぷりだったんですよね。どこの戦闘狂で人でなしの集団か、というような言い草でしたし。
しかし、実際に問答無用で殺されかけた挙げ句に同じ目にあった人からの中立の立場を装った立ち位置からの冷静な、これまで彼女が経験した実際に見聞きして両陣営と交渉した結果から抽出された情報、という形で出された話は実感とともに真実味があったんですよね。
タイキたちが両陣営のリーダーに直接対面しにいく、なんて真似をしなければ、実像はわからなかっただろう。
実際、完全に冷静さを失っている現場最前線を何とかくぐり抜けて、両陣営の幹部たちが集まる指揮系統の中枢までたどり着いて見ると、聞いていた話とまた随分と違ってきているんですね。
また、両陣営とも敵対するに至った理由を聞いていると、明らかになんかおかしい。いや、当事者からしたらそれ以外に真実はないのだけれど、第三者の立場から見てみるとどうにもおかしい。
ただ、これに気づけるのはやっぱり第三者ならでは、なんですよね。
だからか、早々に彼女がタイキたちに接触してきたのは。
予期せぬ形で、この状況に介入してくる第三者が、彼女がお膳立てしていた状況を台無しにしていた危険性に、速攻で気づいていたのかもしれない。でも、まずいちばん最初に接触することで一方的な情報を与えて誘導することは可能だし、そうでなくても近くにいればタイキたちが介入して変化する状況を、即座に修正することが出来る。狡猾だ。
話してみてわかるのだけれど、天文館、果樹園双方ともグループを指揮するリーダーが優秀なんですよ。単に能力が優れているというだけではなく、理性的でここまで憎悪が循環する状況でありながら、暴力だけに丸投げしてしまう思考放棄に逃げない粘りがあったんですよね。他人の話を聞くことができ、冷静さを失わない。人望も厚くカリスマもあり、半ば統制を失いながらもそれでもグループを崩壊させていなかったのはそれだけ手腕が優れていた、というのもあるのでしょう。
逆に言うと、これほどのリーダーに率いられながらも、彼らはほぼ一方的に良いように弄ばれてしまったわけだ。黒幕の悪魔的な人心操作の技術を感じさせられる。それも、最小の介入だけで、だ。

では、そんな彼女の正体はなんだったのか。
一応、彼女自身が全部タイキたちにバレたときに語ってくれているのだけれど、前提となる情報が殆どないだけに、彼女の立ち位置はよくわかんないんですよね。
そもそも、タイキとヤヒロはもともとどういう存在だったのか。彼らはどうして今、ここにいるのか。若者の姿で、ここにいるのか。かつて、彼らに何があって、今この状況におかれているのか。
断片的に夢という形で過去の様子を垣間見ることが出来るのだけれど、断片的すぎてやっぱりわからない! 世界の本当の姿、というのも今まで見聞きしてきたものに、ここで体験したものを含めてもやっぱり判断材料が少なすぎるんですよね。
具体的に語れるものが、今の所殆どない。

ただ、タイキとヤヒロは記憶のない昔から、分かちがたく離れがたい存在だった、という事だけは実感できたのだ。それがなんという関係なのかはわからない。兄妹なのか、恋人なのか、親友なのか、好敵手なのか。
死なば諸共、が一番二人を言い表している言葉だ、なんてヤヒロが言ってたけど、それって敵対している関係性の人間が、負けそうなときに地獄まで道連れにしてやるー、と相打ち覚悟で挑んでくるような状況を指すことばで、一蓮托生とはまた違う気がするのだけど。
なんにせよ、運命共同体。そう言い表せる関係だと、二人で実感して納得して受け入れて、それを良いと思えたのだから、それで十分なのかもしれない。
特にヤヒロは、その魂が欲していたものはタイキと一緒にいる、ということだけで十全だったみたいだし。今が、彼女にとって望み叶った状況なんですよね。振り返ってみると、タイキと出会ってからのヤヒロってなんか常に上機嫌、だった気がするぞ。

世界の真実の核心に迫ったようで、実のところ何がなんだかさっぱりわからないままではある。ミサキたちの正体と目的についても、前巻の最後にちらっと触れられたところから殆ど進展していないし。果たして、話はここから進むことが出来るんだろうか。次巻が出るなら、ありがたいのですけれど。