【亡びの国の征服者 2 ~魔王は世界を征服するようです~】 不手折家/ toi8 オーバーラップノベルス

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少年は歩む。
亡びを見据え、生きる道を――

家族の愛を知らぬまま死に、“もう一つの人類"の侵略に脅かされる王国で新たな生を受けた少年ユーリ。
彼は騎士家の名家であるホウ家の跡取り息子として、王女であるキャロルや魔女家の生まれであるミャロらと共に、騎士院での生活を送っていた。
そしてユーリは生まれて初めて、“もう一つの人類"――クラ人と出会う。
亡命してきた宗教者であり、クラ語講師であるイーサ。ユーリは彼女からクラ語を学びながら、「敵国」への理解を深めていくのだった。
数年の時が流れ、ある目的から学業の傍ら事業を興すことを決めたユーリ。前世の知識を元に植物紙の製品化を目指す彼は、協力者を得ながら試行錯誤を繰り返していく。しかし事業が成功した矢先、王都を裏で牛耳る魔女家の魔の手が迫り……!?
のちに「魔王」と呼ばれる男は、静かに、しかし確実に覇道を歩む――。
「小説家になろう」で話題の超本格戦記譚、待望の第2幕!
一巻では情報としては流れてきつつも、ユーリの実感としてはまだ得られていなかった騎士家と魔女家という両輪の上に王家が立っているというこの国の構造、その実態がこの王都では、この国を形作っているのか、どのように横たわっているのかを目の当たりにすることとなる。
また、遠い外国の話であったクラ人と呼ばれる異人種の侵攻によって、次々とシャン人の国家が滅ぼされていて、今その侵攻が隣国であるキルヒナ王国へと及ぼうとしている現実がユーリの前に突き付けられる。
もっとも、このクラ人たちの侵攻を自分事として危惧している者は王家や政治を担う魔女家を含めて殆どおらず、武官である騎士家ですら危機感を有しているとは言えないのだけど。
この段階で、既にクラ人の侵攻が避けられないこと、それどころか自国シヤルタもまた他のシャン人国家と同様にクラ人国家群によって亡ぼされるだろうと想定しているのはユーリだけなんですよね。
彼だけ、と言ってしまうのは極言かもしれないけれど、この国の要人たち、いや商人から一般庶民にいたるまではあまりにも長い間内向きにしか政治も武力闘争も行ってこなかったが為に、完全に国際感覚というものを失っているようなんですよね。その最たるがシャン人国家において文官系氏族を意味する魔女家と呼ばれるものたちで、シヤルタにもいくつかの魔女家が権勢を誇っているのだけどこれが完全に悪徳商人と腐敗官僚とヤクザを合体させたような存在で、国益を全く考えずに一族の益しか考えていない連中なんですね。国を富ますなんて全く考えていない、ただ家を栄えさせ、他家を蹴落とし陥れ、出る杭は片っ端から打ち込む事に躍起になっている国の癌であり寄生虫なのである。
その権益を守るためなら何でもするという姿勢は、非合法活動や謀略、暴力も厭わずこの国の健全な経済活動は魔女家によって妨げられている、と断言していいのだろう。発展や革新に至るだろう事業なんかも、片っ端から利益だけ吸い上げられて毟り取るだけ毟り取ったら後腐れないように徹底的に潰される、といった感じだし。
国そのものから活気が失われているように見えるのは、このせいなのだろう。
ユーリは、いくつか自分で商売を立ち上げることで、この魔女家というこの国に蔓延る悪徳と直接対決する事になる。とはいえ、真っ正直に正論振りかざして突撃するようなアホとは程遠い人種なんですよね、この少年。
まず、彼ら魔女家が口出しできないような制度を、王家を通じて構築し、権力を振りかざしての無体には、騎士家の名家であるホウ家の嫡男という立場を利用して振り払い、有形無形の嫌がらせは此方も武門の家らしく影に日向に叩き潰し、それでいて自分の商社を立ち上げた時には実家の紐付きになって変な方向から干渉を受けないように、自分の裁量に首を突っ込まれないようにホウ家には関与させないようにしてたりするんですよね。起業のための資金はほぼ自分で稼いだもので賄ってますし、人材の方も自分のツテで集めて回っている。
これに関しては、ホウ家を継いだユーリの父であるルークが、ユーリを信頼して好きなようにやらせてくれているから、というのも大きいんですよね。元々、ホウ家から一度は距離を置いていたからか、ホウ家至上主義なんて考えからは程遠い父親ですし、ホウ家を絡ませずに自分の権限でやりたいという息子に全然干渉してこない、というのはありがたいお父さんですよ。これで息子を放任しているのか、というといらんことを告げ口されて心配になって何をやってるのかを問いただしてきたり、というのはあるのだから、父親としてちゃんと息子のことは心配してくれていますし。それで、筋道立てて説明したらちゃんと理解してくれるんですから。
ユーリが醒めてるようで、この父親の事を滅茶苦茶尊敬しているのは、ルークが学生時代、騎士院をやめることになった事件の内実を聞いて、もう随分と昔のことなのにやたらと熱くなってその話を教えてくれた人に食ってかかってしまった事からも何となくわかるんですよね。よほど好きで尊敬してなかったら、そんな過去話で熱くならないですよ。
ともあれ、ユーリは学業の方はとっとと単位取れるところは取ってしまって、暇だからと商売はじめて自分の知識の中から使えるものをどんどんと利用して、商社を立ち上げて資金を稼ぎ出し、また商船持ちの商人と仲良くなることで、外地へも食指を広げていくわけです。
これに関して、ほとんどの人はユーリの金儲けを暇つぶしとは言わないけれど、シヤルタ王国という狭い範疇の中での事だと考えているしこれに関してユーリはまだあまり何も語らないのだけれど、リリー先輩に天測航法のための六分儀の開発を依頼したときに、はっきりと語っているんですね。このシヤルタ王国は近いうちに亡びる。その崩壊に巻き込まれないためには、海を超えてクラ人国家群の手の届かない所まで逃げるしか無い。そのための資金稼ぎであり、ホウ社の設立であり、幾つもの発明品の開発なのである、と。
これは、この異世界が地理的には地球とほぼ変わらないものであり、西の海を隔てた向こうに新大陸が存在している、と知っていなければ出来ない発想ではあるのだけれど。
いずれにしても、この段階から既にユーリはもう、国の滅びを前提に動き出しているのである。
王都に出てから、同じ学生の仲間たち以外にもクラ人の言葉以外にもその文化や国家の内実、クラ人の原動力の一つである宗教などについても詳しく教えてくれることになるクラ人の亡命者にして教師であるイーサ先生や、商船を駆りクラ人国家にまで商売しにいく商人のハロル、ホウ社の幹部として植物紙の生産をはじまりに組織を取り仕切ることになる辣腕の商売人カフ、そして時計職人の子であり機械系の職人でもあるリリー先輩、というユーリの人生においても後々まで深く関わることになる友人、恩師、仲間となる人物と出会い、またキャロルやミャロといった子供時代からの友人たちとは更に親密に交流を重ねて、まさに青春を謳歌しているというべき次第だろう。輝かしき青春時代だ。
しかし若く未来に希望を抱いて走るような青春とは裏腹に、ユーリの根底には先に語ったような迫りくる亡国に対する備え、抗い、それを妨げようとする旧弊との饐えた匂いのする暗闘が横たわっている。
ユーリの前世、研究者だった男の半生が語られるのだけれど、そこには身近な人からの裏切りがあり、怒りを原動力とした戦いがあり、すべてから解き放たれた自由があり、その果ての虚無感があったわけです。そして、彼は孤独だった。
ユーリの根底に、どこか乾いた風が吹いているように見えるのはこの前世の孤独があるのかもしれません。一方で、この生で彼は家族からの愛情に包まれ、友情と親愛を交わす友達がいて、目的をともに走れる仲間たちがいる。
今の彼の奥底に、闇はないはずです。乾いた価値観と醒めた意識が根ざしていて、それが彼に無邪気に未来を信じるなんて真似を許さないのだとしても、彼が戦う理由には温かい熱がある。まあいまいち、見る目がないというか、ミャロの性別自分だけが全く気づいていなかった事に人生最大級の衝撃というかショックというか、自分だけなの?という焦りが、鈍いというか変に彼の間の抜けた部分を垣間見せてくれるんですけどね。そういうのも織り交ぜての、複雑な人間性の質感がユーリという主人公の魅力なんだろうなあ。
ミャロの祖母と面談しての、ヤクザの事務所に連れ込まれたみたいになった時の、あの後ろでソロムの爺さんがやりたい放題やっているのを振り返りもせずに、不敵な笑みを浮かべたまま椅子の上で足を組んで脅されたはずが逆に脅しにかかっている様子なんて、十代の若造どころじゃない貫禄でまさに魔王さま、という風情の格好よさだったんですけどねえ。いや、魔王というよりもマフィアという感じだよな、あれ。

なんにせよ国際情勢と国内情勢が詳らかになってきた上で、キャロルを通じて王家ともよく関わるようになったユーリ。騎士家の嫡男という立場もあって、魔女家の領分にも首を突っ込み、と学生身分でありながらもうその他大勢の一人、なんてわけにはいかなくなってきたよなあ、これ。
既にこの段階で、キャロルの王配候補筆頭という扱いになりつつありますし。まあ、あのお互い遠慮も何もないキャロルとの親密な関係を目の当たりにしたら、ねえ。普段は男女のそれの気配はまったくなく、悪友みたいな付き合い方ですけど。
でも、書き下ろしでのキャロルの下町探訪にユーリが付き合う話なんぞは、完全にデートでしたしねえ。デートにしたら危ない所に首突っ込みすぎですが。ってかユーリってホント場馴れしてるというか、普段から悪所にも出入りしてるしこれどこでも生きていけそうな強かな処世に長けた人物なんだよなあ。
ってか、意識もせずにそういう事言うからなーこの男。いや、ユーリの場合しれっとちゃんとわかって言っていても全然おかしくないんだよなあ。そういう男なのだ。