【魔女に育てられた少年、魔女殺しの英雄となる】 クボタロウ/ ファルまろ 角川スニーカー文庫

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異世界に『忌み子』として転生してしまった少年アルは両親に捨てられてしまい、拾ってくれたのは『禍事を歌う魔女』と世界から忌み嫌われる女性であった。愛情を与えてもらった少年は【魔女】を殺すことを誓う――。

タイトルからすると、随分と悲劇的な顛末を予想させるものでしたけれど、もっと穏やかな内容でしたね。と、油断させておいてどうなるかはわかったものじゃないのですが。
何しろ、話が全然進まなかったからなあ。
タイトルでいうところの【魔女に育てられた少年、魔女殺しの英雄となる】のうちの【魔女に育てられた少年】までで終わってしまった感じで。
魔女メーディと狼のヴェルフに拾われて育てられた少年アル。本当に赤ん坊だった頃に捨てられたアルにとって、メーディはお母さん以外の何者でもないはずなので、お姉さんを主張する魔女さまには多分に無理があると思われる。と、イイたい所なのだけれど、転生者として赤子の頃から意識があったアルにとって、メーディは家族であってもそれほど「母」を意識させるような存在とは認識していないみたいなんですよね、彼の様子を見ていると。
そもそも、魔女のことを名前で読んでいる時点で、母親とは思ってないですよねこれ。メーディとしてはそのあたりでおかしいなあ、と気づいていてもおかしくはないと思うのだけれど、本当に気づいていなかったのか、アルの事を可愛がるのに目いっぱいでそれ以外に意識が向かなかったのか。
ともあれ、メーディは拾った赤子に情を移しまくりヴェルフと共に過保護なくらいに愛を注ぎまくってアルのことを育てていく。この赤子が忌み子であった事が彼女の罪悪感を掻き立てた、という事もあるのかもしれない。何しろ、この国で忌み子という概念が生まれてしまったのは魔女のせいでもあったようだから。
そうして彼らはお互いに秘密を抱えたまま、それでも家族として暮らしていく。アルは自分が転生者で赤子の頃から明晰な意識があり、前世の記憶があることを。メーディは自分が魔女であることを。
もっとも、それがこの家族のすれ違いの発端になる、という訳ではなかったのだけれど。
アルは転生者であることが知られることで忌避される事を恐れていたけれど、秘密にしている事自体に罪悪感に苛まれ、結局決壊するようにとある事件をきっかけに告白してしまうわけですけれど、それが家族の絆に罅を入れるなんてことは全然ありませんでしたし。
ふむ、こうしてみるとアルって素直で善良な子なんですけど、素直でいい子すぎてダークサイドがなさすぎるんですよね。もうちょっと性格悪い部分とか、癖があった方が自分にとってはとっつき良かったかもしれない。比べてメーディの方はわりとショタ好き面のダークサイドがだだ漏れで欲望に素直というか逆らえない面が続出するので……うん、これはこれでダメな人ですね。
ともあれ、アルの人となりにまつわるエピソードは純真なものが多くて、逆に起伏が少なく感じるんですよね。旅先で出会う冒険者のアランや、商人の娘のソフィアなんかもとてもいい人なんで、上積みの部分で噛み合ってしまってアッサリと良い形で話が転がっていきます。それ自体、爽やかで穏やかで苦い部分のない良い話ではあるのですけれど、同時に味気ない盛り上がりにいささか欠けるように感じるもので、自分にとってはちょっと薄味だったかなあ、と。
彼がメーディが実は昔話で忌まれる魔女その人だった事を知り、その災厄の逸話が誤解でありメーディの人となりが当時から変わっていない愛すべき人だと確信した上で、魔女メーディその人を殺すのではなく、自分はその魔女の逸話を、信じられている魔女の伝説を殺して、メーディを苛む記憶を消し去ろう、そう決意するわけですけれど、そこに至る過程もアルが素直で純真で善良であるが故に悩みも葛藤も迷いもせず即座に決心するんですね。いや、愛する家族の、大事な人のことだから迷いもしない、というのはそれはそれで大切な事なのかもしれませんけど、溜めらしい溜めもなく、ストンとあっさり決めてしまったなあ、と。
それに、彼女の過去については実際何が起こったのか、何が原因なのか、何もかもさっぱりわからないのです。メーディの意図したものではなかった、というのは彼女の寝言から推察されるくらいで、本当に何も情報がない。その段階で走り出してしまうのは、それもメーディに相談とか話もせずに自分の目標を決めてしまうのは、この子の道はその素直さそのままに真っ直ぐで逸れる分かれ道も、思わず立ち止まってしまうような所も先の見えない曲道も、あまり無いのかなあと思ってしまった。
と、この一巻がちょうどそのアルが自分の歩む道を決めてしまったところで終わってしまったので、え?そこで終わるの!? と、面食らう羽目に。
プロローグにしても、もうちょっと舞台設定とか登場人物の配置が揃えられてから、なんじゃないだろうか。だいぶスロースターターというか、話始まらなかったですよ?
とりあえず、テーマというか話の前提となる「魔女を殺す」の意味が明らかになったので、それをどうやって成すかも全く決まって無くて、方法についても随分とフワッとしたものしか考えてないみたいでちょっと不安。兎にも角にも次回以降はどういう話になっていくか、はわかってくると思うのですけれど。