【魔界帰りの劣等能力者 4.偽善と酔狂の劣等能力者】 たすろう/かる HJ文庫

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最強のランクDがスルトの剣をぶっ潰す!!

『スルトの剣』の首領ロキアルムによる最悪なショーは開始された。召喚された万を超える妖魔の軍勢が、ミレマーの七つの主要都市に襲いかかる。
家族が夢見た祖国、その未来が壊されるのを前に、自らの無力に涙するニイナ。
その姿は祐人が本気を出すには十分すぎるほどの理由だった!!

「お前の計画はこの劣等能力者の……このたかがランクDの偽善と酔狂で! 跡形もなくぶっ潰してやる! 」

最弱劣等の魔神殺しが無双する、大人気異能アクション第4弾!!


伊達と酔狂で戦争をやっていたのは【銀河英雄伝説】のダスティ・アッテンボローでしたか。対して、この堂杜祐人は偽善と酔狂で戦うのだという。でも、彼のそれを偽善と自嘲するのは流石に卑下が過ぎるだろう。彼のそれを酔狂というにはあまりに真摯で直向きすぎる。
義を見てせざるは勇なきなり。
ミレマーという国を救うために、多くを費やし自らの人生を焚べた二人の男の戦いは、彼らの戦いに共感し臥薪嘗胆耐え続けた同志たちの忍耐は、胸打たれる尊さでした。これを義と言わずして何という。でも、これがこの国の中だけの事で完結していたのなら、余計な手助けは必要なかったでしょう。彼らの戦いは彼らのものでもあったのですから。
でも、スルトの剣というよそ者が、この国の人達の思いも事情も何も汲まず、徹底的に無視した上ですべてを踏み躙ろうとしたことは、まさに彼らの戦いを穢すものでした。理不尽で、悪意にまみれた醜い欲望の発露でしかありませんでした。
彼らの悪意に、志半ばに無念に倒れる人が居て、本来流すはずではなかった悲しい涙を流す娘がいました。いつか、別れ離れた行道が交わり、少女には実の父と育ての父という尊敬できる二人の父親が出来て、二人に共に可愛がられ慈しまれるときが来るはずだったのです。
辛い思いを乗り越えて、悔しい気持ちを克服し、約束を遂げて、報われるべきときが、彼らには来るはずだったのです。
それを、あまりにも一方的で自分本意な正義で虫けらのように踏み躙った。それを怒るのに、理由が必要でしょうか。当たり前に抱くであろう当たり前の義憤であり、怒り。これこそ、正しき怒りというやつなのでしょう。
尤も、祐人が自分の行為を偽善と酔狂と称したのは、そんなツマラナイ理由で虫けらのように踏みにじられる無念さを、黒幕に味わわせてやりたい、という想いからのようにも見えたので、決して本気で言っているわけではなかったのかもしれませんが。
でも、あれだけ怒り心頭で激高しきっている姿を見て、偽善や酔狂と思う輩はそうはいないんじゃないだろうか。
怒りという感情は、それだけ火のように激しいものだけにその生々しい激烈さを文章に乗せるのは、案外と難しかったりする。言葉の上では怒っているのはわかっても、その声色を、声の震えを、怒りのあまりの抑揚の欠如を、言葉の中から感じさせるような「生の感情を乗せる」というのは、絶妙なニュアンスを台詞をはじめとする文章に込めることが必要なんですよね。
どうしてそんな感情を抱くに至ったのか、というバックグラウンドをそれまでに積み重ねて起爆剤として溜め込む、というのも勿論必要なんだけれど、それだけではやっぱり爆発の火力が足りなくなってしまうのである。
だからこそ、怒りの表現は、特にこいつは絶対に許さない、という頭が真っ白になるような凄まじい感情を溢れさせた描き方は、描き切られた時にその熱量は読み手にまで火を付けるのである。
そしてその怒りが正しく振るわれ、相手がこれ以上無く徹底的に無様にやられるカタルシス、痛快さ。黒幕のロキアルムがまた、見事なくらいのやられ役というのもあったわけですけれど、今回の祐人の戦いには実に良い「怒り」がノッていました。
神獣連中はせっかくの出陣だったのですけれど、相手が数多いとはいえ雑魚妖魔というのもあってか、こっちはちょっと思ったよりも目立たなくてちょっと勿体なかったかも。驚き役が異能を知らない普通の将兵だと、彼らがどれだけ隔絶しているかというのがわかんないですしねえ。戦闘シーンもあんまりなかったですし。

しかし、またぞろ祐人があの自分の存在が忘れられてしまう、人との縁を消費する力を使ってしまったわけですけれど、縁深い人はもう忘れる事無く覚えていてくれるので、むしろ祐人の正体が他に知られないようになる助けになってるみたいなんですよね。機関にも忘れられているし、今回の大事件を解決した人物が誰なのか、捜査の手もこの場合かなり強引に絶たれてしまう事になるでしょうし。祐人自身は特に工作しているわけではないのに、彼の存在が秘されていくという。
一方で、誰もがその存在を忘れ去り覚えていないにも関わらず、ミレマーで共に彼と戦った人たちの心のなかには、確かに掛け替えのない戦友として顔の見えない誰かの姿が心に焼き付いている。忘れていても、決して忘れられない英雄の雄姿。図らずもそれが裕人のヒーロー性を色濃くしている一因にも見えるんですよねえ。

にしても、なんか、この祐人忘れられ事件の一番の被害者が、本人の祐人じゃなくて彼の日常パートをサポートしてくれている親友の一悟というのがかわいそうと言うかなんというか。純粋に友情から、彼の無断欠席をフォローしてくれていただけなのに、この扱いはちょっとかわいそうだぞw
彼、マリオンと瑞穂が襲来してきたときも、幼馴染の茉莉との間に仲裁に入らされて場合によっては祐人よりもひどい目に合いそうなんですよねえw なんか、そういう星の下に生まれてそう。
ってか、祐人はマリオンと瑞穂が自力で思い出してくれたの嬉しかったのはわかるけれど、唯一祐人の事を忘れずにいる茉莉が起点に思い出してくれた一悟や静香とはまた別に、茉莉関係なく起点なく思い出してくれたから特別!みたいな言い方をしてしまったら、そりゃ彼女らいい気分なっちゃうじゃないですか。この微妙に口がうまいというか無意識にノセてしまうところは禍の元ですよ、うん。
しかし、瑞穂とマリオンはともかく、ニィナまで引き続きヒロインとして参戦というのは予想外でした。そこまで深い付き合いでもなかったですし、現地のゲストヒロインという立場かと思ったのに。ここまで片っ端から出てくるヒロイン拾って落とさないようにしてたら、ちょっとヒロインの数がえらいことになりそうなんですけど。同居の神獣たちだってたくさんいるのにねえ。
次回以降、瑞穂たちに学校と住所を教えてしまった以上、襲来してくるのは間違いないでしょうし、そうなると今まできっぱりと分けられていた異能者パート、学校パート、自宅パートがついに合流することになるのでしょうか。どう顔を合わせても修羅場になりそうw