【幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い】 すかいふぁーむ/葛坊 煽 富士見ファンタジア文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

幼馴染との甘々でじれったい両片思いラブコメ!

学内でも人気の美少女で、遠い存在となった幼馴染の高西愛沙。康貴は愛沙の妹、まなみの家庭教師という形で再び接点を持ち始め……、愛沙の本当の気持ちを知ることに。甘々でじれったい両片思いラブコメ!

幼馴染と言っても、幼少の頃からずっと密接な仲を続けてこられた関係なんてものは珍しいくらいで、男女の差異を意識しだす思春期に一緒にいる事が恥ずかしくなったり、同性の友達との付き合いで距離を置いてしまい疎遠になってしまう事は決して珍しくないだろう。
そこからもう一度昔みたいな気のおけない仲に、というのは案外難しかったりする。作中でも当人同士が述懐しているけれど、どれだけ家族ぐるみ家族同然に過ごしてきた仲だと言ってもどうしたって幼馴染というのは他人同士でもあるわけだ。だから、一度距離をおいてしまうとすぐに元通りの関係には戻れない。一度疎遠になった幼馴染同士は、どうやったって以心伝心なんて訳にはいかないし相手のことなら何でも知ってる、なんていう幼馴染独特の特異なアドバンテージは失われてしまっている。
だから、一つ一つ手探りで取り戻していくしかない。それも、お互いが心から望んでこそ出来うる話。
本作は、そんな一旦疎遠になってしまった幼馴染同士が、もう一度昔みたいな関係を取り戻すまでのお話だ。そのプロセスをじっくり、というほど丹念ではないのかもしれないけど、一足飛びにはせずぎこちなくも距離感を取り戻していく様子が描かれている。
まあでもこれ、妹ちゃんのまなみの要所要所での好救援がなければ、とてもじゃないけれど復縁なんか出来なかったでしょうね。康貴にずっと好意を失わずに胸に抱き続けていたものの、それを伝える事もできないまま刺々しい態度に終始してしまっている愛沙。そんな愛沙の態度にどんどんと心の距離を遠くしていく康貴。特に康貴の方は思春期に関係をからかわれて距離をおいてしまった際に向こうからも突き放されるような事もあり、自己防衛的に愛沙と自分とは縁が切れてしまった、という風に感じている節が見受けられたんですね。成長するに連れてどんどんと美人になり、余計に違う世界の住人のように感じるようになり遠い存在になっていく。そんな幼馴染に対して、康貴のそれはもう「無関心」に近いものになっていたように見受けられる。鈍感を通り越して、無関心だ。愛沙の人間関係にも興味なかったようだし、友人から愛沙の異性関係について自分がちょっかい出してもいいのか、と突かれた際も随分と冷めた返答をしている。どうでもいい、という発言ではなくちゃんと愛沙と友人の相性を想像して答えているあたりは、本当に興味も関心もない他人と考えていたわけじゃあなく幼馴染としての親しみあっての事だろうけど、本当にそれでは「ただの幼馴染」だ。鈍感というよりは異性として無関心、と言った方が当てはまる。
愛沙の方はずっと「康貴に嫌われているんじゃないか」と心配していたようだけれど、実のところこれもっと深刻な状況だったんじゃないだろうか。
妹まなみが康貴を自分の家庭教師として乞うて自分の家、つまり自分と姉である愛沙のプライベート空間に招くことで、途切れていた縁を無理やりつなぎ直してくれなければ、これ本当にただの幼馴染、どころじゃなく昔幼馴染だった人、で終わってしまう所だったんじゃないだろうか。
このあとも、終始まなみは二人の仲を取り持ってくれる。最初無関心で積極的に愛沙と元の関係に戻ることも考えていない康貴に、拗れまくって素直になれない所じゃなくまともにコミュニケーションも取れない姉。そんな二人にアドバイスして、背中を押して、機会を作って、シチュエーションをを容易して、と傍から見ると妹ちゃん頑張りすぎである。まなみ本人も康貴には兄以上の好意を抱いているにも関わらず、シスコン気味なのか姉のことが好きすぎてついついキューピッド役に奮起してしまう妹ちゃんの健気さが何とも愛おしくなってしまう。
さすがにそんな妹の献身的な努力を姉として愛沙もちゃんと理解し感謝していて(もっと感謝しまくって五体投地しても足りない気がするけれど)、不器用なりに頑張り拗らせていた気持ちも立て直して愛沙なりに自分から距離を詰め、元の関係あるいはそれ以上を取り戻そうと踏み込んだことで、ようやく康貴の方も愛沙の事を意識しだし、かつて彼女に抱いていた気持ちを思い出していくことになる。
きっかけが訪れたわけだ。
そうなると話は早い。実のところ、二人の距離を妨げていたのは本当に二人の気持ちだけ、だったんですよね。周囲は家族や友人関係を含めて二人の関係を隔てたり邪魔したりするどころか、むしろ暖かく見守ってくれている。愛沙の交友関係であるカースト上位の面々もグループ外の存在だった康貴が愛沙と密接な関係になっていくのを邪魔に思わず、むしろさり気なくフォローしてくれたりと普通にいい奴らなんですよね。家族に至っては元々家族ぐるみで付き合っていたせいか、むしろ押せ押せですし。
というわけで、後半あたりから急速に遠慮とぎこちなさを解消していく二人はどんどんと仲睦まじい関係になっていく。愛沙はまったく好意を隠さなくなり康貴に我儘を言ったり素直に甘えたり、とだだ甘になっていき、康貴もかつて彼女に抱いていた好意を今新たに湧き立たせて、彼女の自分に向けてくる一挙手一投足に胸を弾ませ心踊らせるようになる。
しかし、未だどこかでかつて距離を置かれ距離を置いてしまったあの時の心のひっかかりが、康貴の中でブレーキとなって残っている。期待するな、望むな、と心のどこかで一線を引いてしまっている。それは自分を守ろうとする防衛線なのだろう。しかし怯懦でもある、臆病でもある。
それはあれだけお膳立てしてくれているまなみに対しても、勇気を出して踏み出した愛沙に対しても、ちと情けない。
彼はまだ、自分から何もしていない。与えられたものを享受してばかりだ。今彼はスタートラインに立ったばかりとも言える。ここから、自ら号砲を鳴らせるのか。彼には奮起を期待する。