【完全無欠の新人魔術生 伝説の最強魔術師、千年後の世界で魔術学校に入学する】 五月 蒼/ nauribon 角川スニーカー文庫

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魔神を討伐した六英雄の1人である魔術師・ギルフォード。魔神との戦いで瀕死の重傷を負ったギルは永い眠りにつき――目覚めた時、何故か千年が経過した上に若返っていて!?
千年前とは違う平穏な日々や常識――本来は秘匿するべき『特異魔術』をひけらかす魔術師達に戸惑うギル。それでも、「俺たちが手に入れた平和なら、謳歌しても文句はないよな」第二の人生を楽しむべく、最高峰の魔術学校に難なく入学し、常識外れの言動と能力で数々の伝説を打ち立てていく! 
名門魔術学校での青春、そして謎の組織・アビスの暗躍――最強魔術師による新たなる王道魔術学園ファンタジー、開幕!!

いやいやいや、ギル君きみってば千年間ずっと眠ってて起きたら千年経ってたんだから、千年分ずっと生きてたみたいな時間感覚は持ってないよね!? 
なんか鼻の穴膨らませて千年ぶりにどーのこーの、と宣う場面が時々あって、こいつちょっとノリだけで生きてる瞬間があるぞ、と苦笑してしまった。
かといって調子に乗ってるわけでもないんですよね。実のところ、タイトルみたいな完全無欠とかの最強感はギルくんあんまりないんですよね。結構迂闊というか、気が付かないうちに間合いの内側に入られてて「いつの間に!?」とか驚いているシーンが結構あるし、敵の気配や攻撃に気づかないで隙をつかれるシーンなんかもあったりして、物心ついてからずっと戦場に居たみたいな人生歩んできていた割には「普通」なんですよね。あんまり化け物じみたところがない。
実際、学校に通いだしてからはクラスでも最強格ではあるのは間違いないのだけれど、桁違いとか次元違いという感じはなくて普通に優秀、叩き上げの地に足のついた強さ、という感じなんですよね。
他にこの千年で魔術が全体に衰えた、とは一概には言えずにある面では千年前よりも秀でてたり進化していたりする部分もあり、千年前の魔術師であるギルが一方的にマウント取れるわけではないようで、またこの現代にもギルが瞠目し太刀打ちできるかと考えてしまうような達人もいて、決してギルが図抜けて突出している、というわけではないのである。
でもそれが逆に良かったのかな。変に増長せず能力に関してはフラットで客観的な見方をしているし、隔絶した力の持ち主というわけでもないので周囲と意識や認識の壁や隔意が殆どないんですね。
なので、等身大の年頃の男の子として普通に同世代の男女と交流を育んで、普通に青春を謳歌しているのである。元々、仮死状態になった時も21歳とまあ大人というには中途半端な歳だったし、目が覚めた時に身体が幼児に戻っていたときもそれからずっと森暮らしで変にスレるコトもなかったせいか、精神年齢が見た目相応なんですよね。なので、同年代と過ごしてても上から目線にならずに、同じ目線で騒ぎはしゃぎ、暴れて遊んで、うんギルを千年守ってきたクローディアが千年前には出来なかった青春を堪能して、友達作って楽しめ、と送り出してくれたのを、ちゃんと叶えてるじゃないか。
ドロシーをはじめとして、学園で出会った同世代の魔術師たちは若者特有のギラギラした輝きを有し、思春期特有のざわめきを心のなかに内包し、闇と光を持て余している、まさに青春まっさかりの少年少女たちだ。難関のエリート校に自ら飛び込み、狭き門をくぐり抜けて、それぞれに目指すものにしがみついてでも辿り着こう、叶えようと滾らせている若者たち。同時に、繊細で傷つきやすい心に痛みを抱えながら歯を食いしばって耐えている十代の少年少女でもある。
みんな、自分のことで精一杯で必死で懸命で、だからクラスでも最優秀なギルの力はただただ「すごいすごい」と遠巻きに称賛するものではなく、現実の脅威であり目の前にそびえ立つ山であり、でも食らいついて追いついて乗り越えるものだという姿勢なんですよね。これ、このギラギラした意欲的な若者たちの姿にはついつい惹かれてしまう。
でも、張り合うだけじゃなくてちゃんと友達として心許しあい認め合い、だからこそ負けたくない、というライバル関係にちゃんとなっているの、好きだなあと思うんですよね。ギルの方もそんな初めて出来た同世代の友達たちを見下しも見縊ってもいなくて、その直向きで正々堂々と貪欲さに目をキラキラさせている。いい関係じゃないですか。だからこそ、ギルの最強を隔絶したものにしなかったのは、こういう学園モノの物語としては良かったと思うんですよね。
また一方で、アビスという謎の組織の暗躍が学園の内部に忍び寄り、実際に犠牲者も生まれ、と緊張感あるミステリー風味の要素もあるんですね。いったい、誰がアビスの関係者なのか。何気に誰がそうであってもおかしくない、身近な人物にも「?」がつく怪しい動きや引っかかる描写が撒き散らされてて、なかなかそっち方面でもグイッと興味を引っ張ってくるんですよね、面白い。
ぶっちゃけ、ギルと今回一緒に戦ったドロシー以外は全員怪しい要素があるんですよねえ。
こういう面でも次回に読みたくなる期待を持たせてくれていて、なかなか楽しみな新シリーズでありました。
でも、こういうタイトルだと他と似たような単語を組み替えただけで差別化できなくて、すぐにタイトル思い出せなくなって埋没してしまいそう。まあ、そんなの今どき本作に限らないんだけど、特に本作はタイトルと内容があんまり合ってないだけに、もったいなあと思ってしまう。