【天才王子の赤字国家再生術 8 ~そうだ、売国しよう~】 鳥羽徹/ファルまろ GA文庫

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選聖会議。大陸西側の有力者が一堂に会する舞台に、ウェインは再び
招待を受けた。それが帝国との手切れを迫るための罠だと知りつつ、西へ
向かうウェインの方針は――
「全力で蝙蝠を貫いてみせる! 」
これであった。
グリュエールをはじめ実力者たちと前哨戦を繰り広げつつ、選聖会議
の舞台・古都ルシャンへと乗り込むウェイン。だが着いて早々、選聖侯
殺害の犯人という、無実の罪を着せられてしまい!?
策動する選聖侯や帝国の実力者たち、そして外交で存在感を増していくフラーニャ、天才王子の謀才が大陸全土を巻き込み始める第八弾!

大陸の東側を占める帝国と、西側諸国の間でずっと綱渡りを強いられてきたナトラ王国。ウェイン王子の活躍の元、領土も増えて景気も活況を迎え、数々の戦争での勝利と外交交渉で見せた存在感は既にナトラ王国を小国と侮るものは大陸全土に存在しない。ましてや、それを手動してきたウェイン王子を況や。
前回名を成し始めた際におまけで呼ばれた選帝会議と違って、今回のそれはナトラを、ウェイン王子を狙い撃ちにした彼を追い詰めるための招待である。これを断れば、ナトラ王国は帝国側に味方したとして西側全土を敵に回し、しかし会議に出席すればどうやっても帝国との手切れを迫られ西側諸国の尖兵として帝国との敵対を強要される。
まー、どうやったって詰んでる状況なのだこれ。
それを顔色を無くして絶望感に苛まれながら西に向かう馬車の中で鬱屈する、なんて事もなく「コウモリ外交を貫いてやるぜー!」とテンション高々なウェイン王子。いや、どうやったらそんな意気揚々と会議に赴けるのか。まあ、もはや頭の抱えようもなくて開き直ってる、とも彼のキャラクターからは言えるのだろうけれど。本当なら頭抱えてのたうちまわってても不思議じゃないもんなあ。
ただ、今回わりと余裕ありそうだったのは、それだけ想定して会議を乗り切る自信があったからだろう。まあ、いつものように想定外に全部台無しにされてひっくり返されるのだが。

ただ、今回彼を狙い撃ちにした謀略は、ある意味明確な悪意と企図によるものだったんですよね。何気にこれまでウェインを追い詰めてきたどんでん返しって、誰の意図というものではなく偶然の産物だったり関係者の思惑を超えた事態だったり、馬鹿がバカバカしいにも限りある事をひょいっと越えてやらかしてしまったり、複数の意図が絡み合った挙げ句に訳わからんことになってしまったり、と本当に誰にとっても予想外想定外、という事が多かったわけです。
そういう事態って、人の思惑が入っていない分もう道理も何もあったもんじゃないからマトモに対処のしようがないケースだったんですよね。それを人智を超えたリカバリー能力で対処しきった上に逆に利益引っ剥がしてきたのがウェイン王子の凄まじい才覚であったわけです。
今回のある意味ストレートなウェイン王子を狙い撃ちにした謀略って、むしろ思惑が分かっている分彼にとっては対応が容易だったのでは? とすら思えるんですよね。それくらい、どう転がってもウェイン王子が詰んでいるはずの状況が、片っ端からひっくり返されていく様は鮮やかなものでした。
相手の思惑、狙いを読みきった上でそこから仕掛けられているだろうさらなる謀略、そして起こり得る展開を予想し読み切り、対処するどころかそれを利用して逆に全部自分以外の会議参加者に有無を言わせぬ決着へと持っていく。
今回の会議参加者は一人残らず凡人無能はおらず、将来を嘱望された辣腕の政治巧者であり、それ以上の怪人怪物魑魅魍魎たちが揃っていたにも関わらず、である。いや、ある意味全員が無能ではなく有能である、というのはそれだけ彼らの思考を読みやすい、という意味でウェインにとってはやりやすくすらあったのか?
参加者の中でも特に怪物たる一人であるグリュエール王は、もう主導的にウェインにちょっかいを掛けるつもりはなく、変に肩入れはしないものの、ウェインに自由にさせて彼のやらかす事を楽しむ方に好奇心が寄っているようですし、隙を見せれば食いついてくるとは言え大きく見れば味方側と言えなくもないですし、そうなるとやはり相手はカルドメリアとシュテイル、そして聖王シルヴェリオとなるのか。この三人はある意味わかりやすい現世利益や権力とは違った所に重きをなしている節があって、ウェインとは価値観が違っている所がある分、思惑が読みきれないところがありますし。
今回の謀略は、言わば西側諸国、教会としての真っ当な、というとあれですけれど、政治家として順当な価値観に基づく動きであった、というのもウェインが掌の上に乗せやすい状況であったとも言えるのでしょう。
言わば、ウェインの土俵の上だったんだよなあ。
既にウェインの手、というのは帝国中枢や大陸外縁にまで及んでいて、会議に影響を及ぼすためにロワに遠方で動いてもらったり、先に深く関わることになったパトゥーラのフェリテ首長やミールタース市長のコジモにも協力を求めたり、とその手は長く大陸全土に及ぶようになっている。
どうやら今回の会議の結果として、大陸西側の奥地の方にもツテは広がりそうだし。

ウェイン王子の思惑が、帝国側にも西側諸国にも河岸を預けることなく、その間でフラフラと行き来して利益を甘受する事にある、と会議参加者の誰もがわかっている、どころかウェインも堂々と表明、まではしていないもののその思惑を隠しもせずに胸を張っている。
にも関わらず、彼を糾弾しきることも出来ず、彼に旗幟を鮮明にすることを強いることも出来ない。本来なら2大勢力の間に存在する小国なんて、食い物にされ良いように利用されるのがイイ所なのに、主導権を握っているのは明らかにナトラ王国であり、ウェイン王子なのだ。
彼のコウモリ外交を、誰も非難できない、指摘すらし切れない。有無をも言えず、首根っこを押さえられ、彼の思惑に振り回される。何をやっても、その手のひらの上から逃れられないと思い知らされる。
これほど堂々と立場を曖昧にして立つ蝙蝠がいただろうか。
並み居る猛獣猛禽どもに、心底恐れられ戦慄される蝙蝠がいただろうか。
こんな凄まじい暴威を振るうコウモリ外交があっただろうか。
会議は踊るよグダグダに。
何も決まらず進行もせず時間ばかりが無為に流れていくばかりのグダグダ会議。普通なら、誰も目的を果たせない無駄で無能の結果、のようにしか見えないグダグダ会議が、これほど明確な意図を持って引きずりこまれた結果だと、これほど凄味を感じさせられるモノになるんだなあ、と感嘆してしまいました。

とまあ、西側諸国とウェインとの会議における壮絶な綱引き、駆け引きを中心に描かれた本編ですけれど、冒頭では拡大するナトラ王国の中で大陸全土で被差別民であるフラム人がどう影響力を及ぼしていくかでフラム人たちの間で意識の変化があったり、妹姫であるフラーニャが順調に成長することでナトラ王国内でフラーニャ派閥というものが生まれ始めていたり、とナトラの拡大のお陰でまた別の問題が起こり出していることが描かれているのだけれど……。
うーむ。
どうにもね、このあたりってウェイン王子には想定済み、な節があるんですよね。それどころじゃなくて、大陸全土を股にかけてナトラ王国の影響力を拡大させていっているウェイン王子の活動、これってスケール的にマクロに思えるんだけれど……ウェイン王子的には今やってることってマクロじゃなくてミクロな事じゃないのか、と思える所があるんですよね。
彼って、ウェイン王子って、ナトラのために動いてるんだろうか。もう随分昔のことで忘れてしまいそうになりますけど、最初ウェイン王子、この国派手に売っぱらおうとしてたんですぜ? タイトル「そうだ、売国しよう!」なんですぜ?
実のところ、この初志、王子は忘れてない気がするんだよなあ。
そもそも、ウェインはびっくりすることに「王子」であって「王」でないのだ。もうやってることは王様以外の何者でもない権限と責任を振るって負っているにも関わらず。
ここに来てのフラーニャの躍進は、そして彼女がウェイン王子に遺恨ある他国の追放された宰相を参謀に迎え入れたのも、それをウェインが許可したもの、そしてかの宰相がフラーニャを担ぎ上げるつもりであるつもりなのも。こうなってくると、ねえ。
そこに一番重要になってくるのが、なるほどフラム人に秘められた、ニニム個人に秘められているはずの秘密、となっていそうなんですよね。
そもそも、ウェインの初志って一貫して、そう、ニニムについてなんだもんなあ。
会議は踊る、の裏側でこのシリーズの根底に関わるものがついに動き出した気がするぞ。

しかし、馬車で移動してる時、ウェインが眠り込んでいるときのニニムがこっそり甘え尽くしている姿、可愛いなんてもんじゃなかったなあ。ダダ甘えじゃあないですか。
一方で、ニニムの髪染めしてるときの二人のイチャイチャは、二人の中ではイチャイチャにカウントされないという、妹たちに見られても何もおかしいと思っていない、あの甘々な雰囲気。フラーニャがこりゃあ邪魔しちゃいけねえや、と赤面しながら逃亡するのも無理からぬ特別感。
昔からこんなの見せられてたら、そりゃあ妹姫も兄にはニニムしか居ないし許さん、とニニム贔屓になるのも当たり前だよなあ、うん。