【涼宮ハルヒの直観】 谷川 流/いとう のいぢ 角川スニーカー文庫

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おかえり、ハルヒ! 超待望の最新刊、ここに登場!

初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。
だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。
ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ?
天下無双の大人気シリーズ第12巻!


2011年6月に出た【涼宮ハルヒの驚愕(後)】以来の新作となる【涼宮ハルヒの直観】。
挿絵のいとうのいぢさんの画集に掲載された特典小説に、今はなき小説雑誌ザ・スニーカーの特別復活号での掲載作品、そして書き下ろしとなる【鶴屋さんの挑戦】の三編からなる一冊である。
タイトルの「直観」ってあんまり見ない言葉だなあ、と調べてみたら「推理をせずに、論理に寄らず、パッと感覚的に本質を捉えること」みたいな事が書いてありました。
推理しないんだって。
ちなみに【鶴屋さんの挑戦】は鶴屋さんが送ってきた謎を、SOS団が顔を突き合わせて謎解きする話である。ハルヒもちゃんと推理に参加している。
さても、それでタイトルを涼宮ハルヒの推理などにせずに直観と敢えて対極に近い単語を配置したのはどういう意図なんだろう。
すべての謎が解き終わったあとにキョンと古泉くんが総括的に今回の一件を話している際に、またぞろハルヒの願望による世界の改変について言及されているのだが、そこで仮説としてハルヒの無意識が推理の答えを、物語の展開を直感的に変容させる可能性について語られている。
物語の内部の人間にも関わらず、だ。
ここが着地点なんですよね。
冒頭から古泉くんとミス研のTさんによるミステリー小説談義。その中で語られるミステリーという題材に向けたメタ的な取り組み方、後期クイーン問題とか読者への挑戦状とかですね。あれはミステリーという題材にどう取り組んでいくかの入門みたいなものであると同時に、直後に送られてきた鶴屋さんからの謎解きの取っ掛かりでもあり手がかりでもありヒントにもなっている。伏線と言ってもいいか。
それは直接的な謎を解くための手掛かりにもなっていると同時に、謎解き問題の内容だけではなくそれが鶴屋さんによってなぜSOS団に送られてきたのか、というもうひとつ大きな括りとなる部分をも示唆していた。お話の複層的な構造を事前に最初のミステリー談義の中で提示していた、とも言えるのか、これ。それにとどまらず、さらに大きな枠である「涼宮ハルヒ」という存在の特性、世界を改変する能力が今回の一件にどのような作用を起こしていたかの可能性についての言及という形で、さらにこの話の複層性を印象づけることになっている。
……でも、「読者への挑戦」はなかったんですよね。古泉が談義の中で触れていた「読者への挑戦」に関する話の引用からすると、「それ以前の解決が総て偽りである」という可能性の排除。つまり改変はなかったことを意味しているとも……いや、なんかわけわからんくなってきた。
ともあれ、今回の話はストレートに謎解きの過程と解答編を楽しむと同時に、謎解きを行うに至った背景をさらに踏み込んで解いていく話を堪能するのが一番わかりやすい所なんだろう。やたらと長い冒頭のミステリー談義については、あれ捉え方に寄って幾らでも多義的に見ることが出来るとも思うので、存分に穿ってあれこれと先の展開と照らし合わせつつ、当てはめたり関連付けたり意味を解釈したりしてみると面白いんでないだろうか。
論理的に整理して推理していくのもいいし、漠然と全体を捉えて直観的に感じてみるのもいい。ミルフィーユみたいに幾つもの層を重ねて出来ているような話ではあるけれど、まとめて一個の話として捉えるのもありなわけだ。食べてみればどちらも一口。
元々谷川流先生は【涼宮ハルヒ】シリーズじゃない方のもう一つのシリーズ【学校へ行こう】ではSFミステリーともいうべき作品を手掛けているので、こういう日常ミステリー系で攻めてこられても違和感を感じないどころか、むしろやりたい事詰め込んできたなあ、と感じた次第。と思ったらあとがきでもそう書いてあるしw
ちなみに、私の直観はエピソード2の温泉のシーンで登場人物については「あれ? この人じゃね?」と感じ取っていた。いや、エピ2の中の台詞とこの【鶴屋さんの挑戦】のキャラ配置から感じ取ったものだけに、小説というジャンルのメタ的に推理した、ということになるのだろうか。直観とは違うのだろうか。
わからん!
ともあれ、この幾つもの層を重ねたような話の構造は、感覚的にそそられるものがあってそういう方面的にも面白かったなあ。そういえば最近、がっつりとしたミステリーはあんまり読んでなかったなあ、と振り返ってみたり。【探偵くんと鋭い山田さん】くらいじゃなかろうか。あれも日常ミステリーだけど。

ほぼ十年以上ぶりとなる久々の涼宮ハルヒとしては、違和感なく読めたけれど、以前と変わりなくと言えるのかというと前の読感とかそこまではっきり覚えてないからなあ。
古泉くんが、結構感触違っていたかもしれない。この人、結構お喋りであるのだけれど、自分の感情や考えている事はその口で語るばかりで、外側からはあんまり伝わってこない印象だったんですよね。必要以上は前に出ず、黒子に徹して胡散臭い愛想笑いに終始している。その意味では、【七不思議オーバータイム】の彼なんかはイメージそのままの古泉くんでした。
でも、【鶴屋さんの挑戦】だとキョン視点ではあるんだけれど、口以上に表情や態度が雄弁に見えたんですよね。思ってることが意外と顔に出てたような、態度から透けてみえたような。ミステリー談義もあれ、わりと本気で語っていたように見えましたし。ほんとに好きだろう、ミステリー。
長門の方も今回はかなり反応が顕著で、能弁だったように思う。
それに、いつも強引にみんなを引っ張り回すハルヒだけれど、今回は鶴屋さんからの挑戦を受けて、みんなで考え考察する、という構図だったせいか、えらい受け身だったんですよね。そのせいか、ハルヒが引っ張る後をみんながその背を見ながらついていく、という形ではなく、みんなで卓を囲んで顔を突き合わせて、意見を交わし合いながら、というものだったせいか、なんかどっしり落ち着いていたなー、と。
これも、ある種の年輪というか、年季が入った、という類なんですかね。ハルヒが落ち着いた、ってわけじゃないのですけれど。話そのものが落ち着いた、というような。まあ、題材が題材だったというのもあるわけですから、何とも言えないのですが。
何気に、今後についてもキョンが色々と考えているようなので、一応シリーズ続きというか締め方は考えていて取り組む気はある、という事なのかしら。
……佐々木さん、全然まったくこれっぽっちも出てこなかったよぅ。
みくるちゃんは、何年経ってもみくるちゃんでした。揺るぎない癒やし系だなあ、この人わ。