【ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 1】 ハム男/藻 アース・スターノベル

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「何々……終わらないゲームにあなたを招待します、だって」
ヌルゲー嫌いの廃ゲーマー、健一が偶然たどり着いた謎のネットゲーム。
難易度設定画面で迷わず最高難易度「ヘルモード」を選んだら――異世界の農奴として転生してしまった!
農奴の少年、「アレン」へと転生した健一は、攻略本のない異世界で、最強への道を手探りで歩み始める――


難易度ヘルモード、と言っても同じヘルでも種類というか方向性が色々とあると思うんですよね。たとえばシューティングゲームとクトゥルフ系TRPGとでは同じヘルモードでもその意味は異なっているでしょう。RPGでもゲームのシステムの難易度がヘルなのと、ストーリーの難易度がヘルなのとでは全然意味合いが異なってくる。
本作は、というと所謂ゲームシステムの難易度がヘルモードって奴のようでした。人生ヘルモードじゃなくてよかったね! 人生がヘルモードだと、環境そのものが地獄であり主人公の人間性や正気度をゴリゴリと削っていくようなイベントが目白押し。家族は悲惨な死を迎え、幼馴染は惨たらしく殺されて、親友には裏切られて、みたいな展開が生きている上で引っ切り無しに続いたら、廃ゲーマーとか意味ないですもんねえ。
アレンに転生した主人公に課せられたのは、リスクとしてはノーマルモードよりも百倍経験値を必要とするスキル上昇率であり、メリットとしては限界無しの再現の無さ。というわけで、他人よりも何倍も、どころか百倍以上努力しないとマトモに成長できないという縛りを追う事になる。
普通にやってたら、周りの人よりも完全に能力的に劣ってしまってただ生きていくのもハードになる、という意味では確かに難易度高いのだろうけど、元来やりこみ系なだけあってあれこれと手探りで検証をしながらも、ガンガンと経験値を溜めていくアレン。
これ、自分の経験値を溜めていけるのもそれだけある程度生活に余裕があるからなんですよね。身分としては最底辺の農奴という立ち位置なんだけれど、この世界の農奴って確かに権利に制限はあるもののわりと融通きいてるんですよね。パパさんがかなりデキる人で、狩りなどで小作農以外のところで食い扶持をしっかり稼いでいる、というのもあるんですけれど、それでも平民や騎士階級からも虐げられているというわけではなく、農奴もそれなりに権利が与えられている環境はかなり過ごしやすいものがあったんじゃないだろうか。
最初の職業選択での話を聞いていると、上級職については下層身分から主に発言するように設定されているようで、過去にも何人もの剣聖や賢者といった超一流の人材が定期的に下層から排出されているようなので、この世界では農奴や平民でもある程度の地位が保証されているのかもしれない。

何にせよ、主人公は幼さも相まってかなり自由に時間を使える環境にあったと言える。生きるだけで精一杯の環境なら、まず日々生きることを、明日まで生き残ることを優先にして毎日を過ごさないといけなかっただろうし、両親や近隣の大人たちの理解もあったということだ。廃ゲーマーが廃ゲーマーらしく、時間を消費できていた、と言えるのかも知れない。
しかしそれは同時にモラトリアムでもあったのだろう。神様がゲーム運営そのままな活動をしていて、環境設定している世界だけれども、決してゲームの世界ではなくここは人が生きているリアルの世界であり、主人公もまたこの世界で生きる一人の人間だった。決して、アバターでもなければプレイヤーでもない。
その事実をアレンが突きつけられるのは、保護者であり庇護者であった父ロダンが狩りの際に大怪我をして働き手としての力をしばし失ってしまった時だろう。幸い、ロダンたちの親友でもある幼馴染の両親など村の大人たちの援助もあったものの、家族の危機にアレンは強烈に自覚を促されることになる。自分が、父の代わりに家族を守り支えなければ!!
このときに、彼は確かにこの世界に生きる人間として覚醒したのだろう。ヘルモードのゲームを攻略していくための日々ではない、この世界の人間として、この愛する家族の長男として、この世界で生きていくために。家族を守るために、幼馴染の両親たち優しい村人たちの差し伸べてくれた手に応えるため。
スキルを鍛え、強くなる。それ自体が目的だったのが、この時から強くなるのもスキルを鍛えるのも、家族を支えていくために必要な成長、と認識が変わったのだ。まあもちろん、ゲーマー気質は変わらないので趣味的な好奇心とやりこみ癖は全然衰えなかったのだけれど。
それでも、生活に必要なスキルの成長にリソースを分けるようになったし、この時を境にアレンは一気に大人びていくのである。
異世界に来た後世界をゲーム的に捉えて自分を成長されていく作品は数多あるけれど、やっぱりただただ自分本位に強くなっていくものよりも、異世界に転移して、転生して出会った新しい家族をちゃんと愛して慈しんで一緒に笑って喜んで泣いて怒って、と感情を心を分かち合うお話の方が好きなんですよね。家族は、大事にして欲しい。成長も、一人で強くなるよりもそれを喜んでくれる人、褒めてくれる人、一緒に頑張ってくれる人が居てこそ、嬉しいものじゃないですか。
本作はその辺、両親含めて周りの人たちも気持ちの良い人たちで、このちょっと変な子供であるアレンの事も本当に愛して大切にしてくれる人たちなので、家族の為にと奮起するアレンの姿は嬉しかったですし、幼い弟や幼馴染の妹なんかを優しく見守る様子はやっぱり良かったです。

さて、家族の為に頑張りすぎてある意味やりたい放題やってしまったために、領主様に目をかけられて、ひたすら地道にやりこみしてりゃいい環境から飛び出すはめになったアレン。でもまあ、いいじゃないですか。小さな村の農奴として移動もできず同じ視界の中で日々を過ごすのも、ひとつの幸せであり、やりこみし続けることのできる環境ってのは幸せなのかもしれませんけれど、広い世界に出て同じスキル上げでも違うアプローチを見つけることができるかもしれない、という可能性を広げられるというのは、それはそれでゲーマー冥利に尽きるじゃないですか。
というわけで、次回から辺境領主の姫様の従僕編のはじまりである。将来、剣聖な幼馴染との学園生活フラグが立っているだけに、相当の長丁場が目算として立てられてるんだろうか。わりと一巻ごとにサクサクっと進みそうな気もするけれど。