【生活魔術師達、ダンジョンに挑む】 丘野境界/東西 宝島社

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エムロード王立魔術学院は戦闘魔術科、召喚術科、精霊術科、錬金術科、呪術科、心霊術科、生活魔術科などといった科によって、将来王宮や軍、院などに進む人材を育成する学校だ。そんな学院で一番人気の戦闘魔術科の圧力によって、生活魔術科は今年の予算をたったワンコインにされてしまう。真っ当に活動するための予算を手に入れるため、今まで学院内で行ってきた活動を止め、金策に走ることにした生活魔術科の生徒達。続々と勤め先が決まっていく中、ケニー、ソーコ、リオンの三人は手っ取り早く大きな稼ぎを得るべく、危険の溢れるダンジョンに挑む!ケニー達がバカにされてきた生活魔術を使って大きな成果をあげる一方で、生活魔術師達に去られた学院では様々な支障が出始めていて…。学園サクセスファンタジー、ここに開幕!

これ、まんま生活魔術科って学園のインフラ担ってるじゃないですか。魔術学院という社会を支える基盤。これが止まると、何もかもが動かなくなる。
生活家電が全部止まってしまうと思いなセエ。
収納スペースが全部なくなると思いなせえ。
必需品の供給が停止し、必要なものが必要な時に必要な場所に来なくなる。自給自足じゃないけれど、何から何まで自前でしなきゃいけなくなる。
学校なんかで、本来やるべき学術研究や訓練に費やすべき時間を庶務・雑務・事務・生活行動エトセトラエトセトラに費やさなければならなくなる。甚大なコストの増大であり、プロフェッショナルでありスペシャリストであったインフラの担い手を欠いた以上、どれほど尽力しても作業効率精度は旧来のものから遠くなる。
必要必需は普遍になるほど目立たなくなり、存在感は希薄化していく。あって当たり前のものを人はありがたがらないけれど、あって当たり前なものほど無くなると困るどころじゃなく機能不全に陥ることを、人間どうしても認識できないんだよなあ。
しかもこれ、生活魔術科の学院内での活動って義務でも責任を課せられた業務でもなく、研究成果の確認と実践を兼ねたボランティアっぽいんですよね。食堂なんかはちゃんと利益あげてるみたいだけど。そりゃ、予算削られたら活動自体を停止しないと損するばかりだし、犠牲を払って奉仕する義務なんかどこにもない。
これまでだってずっとやってたんだから、これからもやりなさいよ。それが当たり前だったんだから、続けるのが当たり前でしょう。やらないとみんなが困るんだからやらない方が悪いじゃないか。金は払わないけど。報酬は出さないけど。
こういう考え方、多かれ少なかれ根付いちゃってるんですよね、世間様には。人間、当たり前にあるものに、金やコストをかけることを無駄遣いだと考えるところがあるし、コストは削れば削るほどよいことだと思ってる。それでサービスの質が低下するのを当然とはまったく思わないのだ。理不尽だと考えるし、努力が足りないと罵倒する。邪悪であり陰謀だとすら考えるのだ。

いやこれ、なかなか皮肉っぽいテーマが根底にありますよね。
いわゆる「ざまぁ」が今回にあるお話ですけれど、その対象である戦闘魔術科の指導教官や考えなしにエリート風吹かせている学生たちは特別な存在じゃなく、回り回って軽薄な世間そのものの映し鏡みたいなものなのでしょう。
大きな声を張り上げればその意見が通り、見栄えのよい成果ばかりが持ち上げられる。
地味な基本や基礎は疎かにされ、取り扱いばかりが難しいハイエンドばかりが取り上げられ、それを使えることがトロフィーになる。使えたからなんやねん。それをどう使うのか、どう活かすのか、どう還元していくのかも、研究開発のうちでしょう。
生活魔術科というのは、誰でも使える生活に根ざした魔術を覚えるカルチャースクールみたいな学科などではなく、むしろ最先端技術を普遍的に使えるものに手順や効率、コストを簡略化したり、限定的だった使用目的を異なる発想で多方面に広げて新たな使用法を開発したり、とある意味時代の最先端を突っ走っている学科でもあるんですよね。
基礎部分の蓄積が半端ないものだから、あらゆる分野に対する深い学識やノウハウが集積されている。一時的に転科してきた他学科の学生たちが、カー先生の指導でこれまで伸び悩んでいた部分を克服したり、自分の本来得意としていたものを認識できたりしたのは、基礎研究のたゆまぬ推進によってそれだけ各分野の大元となる部分への理解が日々深まっているから、なんでしょう。
即座に実績になったり実益が出る研究だけじゃなく、基礎研究は大事よ、というお話でもあるのか。

ただ、メインの主人公となる生活魔術科の生徒たち。ソーコ、ケニー、リオンの三人はというと、明らかに生活魔術云々のレベルを逸脱した独自の魔術を扱っていて、これ生活魔術の範疇に入るんだろうか。入れていいんだろうか。
とはいえ、能力が突出しているのみならず、頭の回転は早く権威に屈っさず、相手が教師だろうとえらいさんだろうと、鋭い舌鋒と正論と皮肉を武器に正面からぶっ飛ばし、同時に巧妙な交渉と根回しで実益を掻っ攫う強かな一面も兼ね備え、と痛快な面々でもあるんですよね。
リオンがパーティーの良心を担っているおかげで、アクの強いソーコとケニーとバランスも取れていて、強権的で厭味ったらしい教師や学園の風潮に対して、ビシッバシっと良い一撃を食らわしてやる展開でもやりすぎずいい意味で皮肉と愛嬌があって、気持ちのよい痛快さを感じさせてくれる作品でありました。
かーなり面白かったので、以降の続刊も一気に買い揃えてしまいました。買っちった!
なので、ぼちぼち読んでいくつもりです。