【真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 6】 ざっぽん/やすも 角川スニーカー文庫

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ヤランドララとの再会に喜んだのも束の間、謎の老婆ミストームに関わる因縁から大国の軍船、最強アサシンの襲来とゾルタンは未曾有の危機に直面する。
だが、襲撃者達は知らない。この地には世界最高峰の勇者達がいることを――。
卓越した英雄の力を発揮するレッドとルーティ、伝説の暗殺者と対峙するティセ、更にリットは加護の力で狼の知覚能力を宿らせて!?
「ほら、せっかくの機会だし狼リットちゃんに触れてみない?たまにはイチャイチャしましょ!」
騒乱巻き起こる辺境の地。しかし、決して侵されることのない二人の幸福は続いていく。
冬の夜、月光降り注ぐ大地の下でのんびり過ごす第6弾!

ヤランドララの人生が波乱万丈過ぎるw
いや、この人主人公にしたら相当にダイナミックな大河小説が描けるんじゃないだろうか。【流血女神伝】の主人公であるカリエも斯くやというジェットコースター人生っぷりである。ただヤランドララの場合、全部自分の思うがままに走り回っている、という様子なので激動の運命の船に乗せられて振り回されて、という風情ではない。海賊になったり、傭兵団を率いたり、ただでさえ人間よりも長い寿命のエルフだから、普通の人が一生かけてやる事を一通りやったら次のことをはじめてしまう、という軽快ぷり。自由奔放でもあり、勝手気ままでもあり、エルフの長い人生をこの人は常に全力疾走で突っ走ってる感じだなあ。落ち着きがさっぱりないぞ。
さてもヤランドララが隠れてなにかやっていると察したレッドたちが、面倒事に巻き込まれていそうな彼女を助けるためにあれこれと調べ回った結果、現在ゾルタンを混乱の渦に陥れいている大国からの要求にミストーム師とヤランドララが関わっていることがわかってきて。
と、レッドたちも渦中の出来事に首を突っ込む事にはなるんだけれど、あくまでヤランドララの手助けという体であくまでサポート、という姿勢なんですよね。ゾルタンの混乱を治める為の施策と要求への対策はルーティーとティセにほぼ任せているのを見ると、お兄ちゃん本当に妹離れしたんだなあ、とちょっと感心してしまった。ゾルタンに来てからルーティーが精神的にも安定して勇者の加護の衝動からも守られている事もあって、常に見守っていないとという心配がなくなったのもあるのだろうけれど、ルーティーに任せておけば大丈夫という信頼の厚さもまた伝わってくるんですよね。
妹の傍らにティセという能力的にも人格的にも信頼でき信用でき、妹を任せられると頼みに出来る相手がいてくれているのも大きいのでしょうけれど。兄はどうやったって兄にしかなれず、友達にはなれないですもんね。これまでの勇者パーティーの面々は頼もしくはあっても仲間でしかなく、勇者ではない妹としてのルーティーを守るのはどうしたってレッドのやるべき事だったのだけれど。
初めて出来た妹の同世代の友達という存在が、それだけレッドを安心してルーティーから目を離すことの出来る要因になったんだろうなあ。と、レッドのあの小さな暗殺者の少女へ向けられる絶大な信頼感を見る度に思うわけで。
妹たちだけでなく、レッドの様子を見ているとゾルタンの市長をはじめとした幹部たちへの評価も非常に高いものがあって、あんまり自分やリットが本格的に介入する必要性を感じていないようなんですよね。任せておけば大丈夫、と言わんばかりに。なので、絡んでくる暗殺者やら襲撃者なんかは撃退しつつもサポート役に終始している感じで、余裕があればリットとイチャイチャしているのんびりっぷり。襲撃者への探査のためにリットがなった獣人化も、あんまり切羽詰まっていないのでケモミミプレイの材料にしてしまってて、ええんかいそんな使い方w

しかし、こうして見るとミストーム師は故国での立場を捨てて新たな自分の人生をこのゾルタンの地で歩み始めたという意味で、レッドたちの正当な先達とも言える人だったのか。
考えてみると、レッドやリットの考えるスローライフって立場や加護の衝動なんかの強制的な押しつけを廃して、自分で選んだ生き方を自由になしていく、というもので別に平穏で平和な時間を保たないとスローライフじゃない、というわけじゃないんですよね。
ティセにスローライフするのに不殺を貫くことを課しているわけじゃないよ、とレッドが言ったようにスローライフのためにあれやこれやと縛りや戒めを作ってしまうのは本末転倒って考えているのでしょうね。ミストーム師の引き渡しを阻止するためにあれこれと手助けするのも、ミストーム師やヤランドララが友人であるというのも大きな理由なのでしょうが、彼女たちが過去のしがらみに囚われて自由を失ってしまうことに自分たちを重ねて忌避感を感じたのもあるのではないでしょうか。
束縛も強制も忌むべきこと。ゾルタンという辺境の地は、そういう縛りから逃げ出してきたアウトローたちの土地ですけれど、自由に生きることを望んだ者たちの土地でもあるわけだから、レッドたちにとって流れ着いた場所から、もうだいぶ思い入れある自分たちの街、という意識が強くなってるんじゃないでしょうか。このゾルタンという自分たちが暮らす地を誇らしく思う場面も増えていますし。軍船による海上封鎖によって必需品の入手が困難になりそうだったところを、自給自足の手伝いに奔走したのも、ちゃっかり儲け話を作るという目的もあったわけですけれど、ゾルタンの住人としてなんとかしたい、という他人事じゃない身内のことという感覚がありましたもんねえ。
というわけで、全体を見るとゾルタンが危機に陥り戦闘も増えてバタバタしている風雲急を告げる状況ですけれど、レッドたちとしては一貫してスローライフしてると見るのが正解なんでしょうなあ。

ちょっと面白かったのがティセが所属している暗殺者ギルドで、これって殺し屋の仕事の仲介、という面ももちろんあるのだけれど、それ以上に暗殺者たちのための組織だったんですねえ。加護の衝動という呪いのようなものがある世界特有の組織のあり方というべきなのでしょうか。暗殺の実行それ自体よりも、暗殺者としての衝動を解消させるために仕事を供給するという仕組みなんですなあ。だから、内容は非常に厳選されますし利益よりも暗殺者側の方に配慮が行き届いていますし、任務の数も衝動を解消するのに必要最低限に絞られている、という。互助組織は互助組織なんですが、面白い在り方だなあ、と。ティセが自分の暗殺者という職業自体には忌避感や嫌悪感を抱いていないのも、組織に対して忠実なのも、こうしてみると納得なのでした。