【〆切前には百合が捗る】  平坂読/ U35 GA文庫

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美人小説家と家出少女の日常系百合ラブコメ!

「〆切直前に遊ぶゲームって、なんでこんなに楽しいのかしら……」
家出少女の白川愛結は、従姉妹の白川京の紹介で、人気作家、海老ヒカリの世話係&監視役のバイトをすることになる。
原稿をサボってゲームをしたり釣りや旅行に出かけるヒカリに翻弄されながらも、そんな日常に幸せを感じる愛結。
一方ヒカリも、突然始まった愛結との同居生活の中で、これまで感じたことのない気持ちが芽生えるのだった。
社会から排斥された少女と、容姿才能家柄すべてに恵まれながらも自堕落に生きる小説家、二人の関係の行き着く先は……?
"普通"に生きにくいすべての人に贈る、珠玉の日常系ガールズラブコメディ、誕生。

家出娘というから、もっと不良じみた理由とか自由を求めて家を飛び出してきて、なんやかんやと作家先生の家に上がり込んで、そのフリーダムさで引っ掻き回して引きこもりの固定されがちだった作家生活を破壊して、という想像を勝手にしていたのだけれど、白川愛結が家出するに至った理由が本気で深刻だった! 
いや、これは家出と言っていいのか? 現代では家出としか言いようがないのかもしれないけれど、出奔とか絶縁に等しいものですよ。もう家に戻るという選択肢がない、実家や故郷と縁を切るに等しい二度と戻れない家出じゃないですか。
友人や家族との関係が破綻するに至った理由こそが、愛結のセクシャルマイノリティ、自分がレズビアンである事の告白でした。どれほど口で理解を示していても、それも所詮他人事だからこそ。自分の寛容さを表現するためにあれこれと理解あるような事を宣う人は多いですけれど、いざ自分が当事者になると関係者になると途端に嫌悪と拒絶を示す人の何と多いことか。あくまで少数であるだけで正常の一つであり当たり前の一つである事を理解しようとしない人は決して珍しくない。
そもそも考え方自体が古臭い家族にも自分を全否定され、強固な偏見に居場所を失って家を故郷を飛び出さざるを得なかった愛結が頼ったのは、東京で働く従姉の白川京でした。
って、京!? 【妹さえいればいい】のメインキャラクターの一人だった白川京!? しまった、妹さえの方、あと数冊のところで積んじゃってた。あれからどうなってるんだ!? 幸い京が正式にライトノベルの編集者になっている事以外はあちらの作品については特に関係ある話は入ってこないので、あっちをさっぱり読んでいなくても途中で読むの止まっていても問題なさそうなんですけどね。
そう言えば、作家先生の海老ヒカリこと海老原優佳理は【妹さえ】の終盤に出てきた新人賞受賞作家たちの、その次の世代、次の新人賞の大賞受賞者で尊敬する作家がカニらしいのですけどね。エビのくせにカニを尊敬しているのか。
ともあれ京は自分を頼ってきた従妹を、担当作家の一人でありまともな生活を遅れていないヒカリのもとに住み込みバイトとして送り込む。わりと思いつきみたいに決めちゃったように見えるけれど、前作から京を知っている身からすると、かなり深刻な事情を抱えている風情の親戚の子を考えなしに他人に預けてしまうような女性ではないと知っているだけに、いやそれどころか非常に面倒見が良い上に人間関係にも敏い人で海老ヒカリのみならず、社会不適合者も含む変人クリエイターと何人も深い交流をして信頼関係を築いてきた人物だけに、愛結をヒカリの元に送り込んだのも何らかの考え、或いはそうした方がいいという感覚があったのでは、と思えるんですよね。これは前作を知っているがゆえのキャラに対する信頼なのでしょうけれど。
さても、そうやって生活サポート、家政婦めいた仕事を振るという名目でヒカリのマンションに住み込むことになった愛結。東京に来た際に勢いで派手な服装や髪型を決めた愛結ですけれど、本来は古風な家柄故に礼儀作用や花嫁修業として家事一切を厳しく仕込まれている少女であり、どちらかというと固い真面目寄りの娘であり、だからこそ自分の性向についても深く悩んでしまった所もあるのでしょうが。
ともあれ、最初に想像していたようなフリーダムさで相手を振り回すのは、飛び込んできた家出少女の方ではなく、むしろ飛び込まれた作家先生の方だったのです。
そうですよね、平坂先生の描く作家なんてどいつもこいつも、アレですもんね!
自由人、或いは自堕落民なヒカリ先生に振り回され、からかわれしながらも、その実家で鍛え上げられた家事能力と生来の几帳面さ、ひたむきさで一生懸命ヒカリに奉仕するなかで、美しくも優しく、自分を東京という知らない世界に、都会に、大人の世界に連れ出してくれるヒカリ先生にどんどんと惹かれていく愛結。
一方の優佳理の方も、いつも可愛らしい反応を見せてくれて無垢に自分に懐いてくれる愛結に、今まで知らなかった感情が芽生えてくるのを自覚し始める。
優佳理の方が抱えている闇もこれ、相当なものが伺えるんですよね。複雑な家庭環境ながら、過剰なほどの愛情を注がれて育ってきた優佳理。その家族からの愛情を疎んでいるわけではないのだろうけれど、どうにも彼女は他人からの干渉を鬱陶しいと思っているようで究極的に他人を必要としていない人のようなんですね。
それどころか、他人から求められる事を拒否しているような向きも伺える。新人作家の時代に、相当なことがあったようなのだが。
だからなのか、衣食住に満たされた彼女は本質的に何も欲していない。誰にも何も求めていないし、逆に自分を重く見られる事も何かを背負わされる事も嫌っている。作家としての活動も、どこか本来海老ヒカリという作家が必然的に書かざるを得ない方向性をあえて無視して逆方向に進んでいるように見える。
白川京は、そのへんどう考えているのだろう。愛結を送り込んだのも何かを期待しての事なんだろうか。ヒカリ先生の内側を垣間見ると、この人に担当編集として信頼されるのってかなりの難事であったことが想像できるんですよね。京が担当する前に、海老ヒカリという作家としてズタズタになる何かがあったと思しきことが伺えますし。
遠慮なくズケズケとヒカリ先生に言いたいことを言ってガンガン背中蹴っ飛ばして急き立てているように見える京ですけれど、まだ本当の意味では踏み込まずにじっくりと様子を伺っている段階なのではないかしら、今のこれ。編集者として、海老ヒカリに賭けているという凄みすら見える白川京の姿からみると、今の海老ヒカリはどうにも全力ではないように見えるだけに。
踏み込んでいない、という意味では愛結もまた海老ヒカリの最奥には足を踏み入れていないと言える。まだ愛結は海老ヒカリという外側しか見ていない、見せてもらっていない、というべきか。
最初の分岐点に気づいて、愛結との決別を怖れて愛結の内側に踏み込んだのは海老原優佳理の方でしたが、いざ二人の関係がより深いものに変化した以上、愛結もまた海老原優香理の闇に触れざるを得なくなってくる。
本番は、これからなのだろう。
わざとかき分けているのか、愛結視点のパートだと作家先生はヒカリと呼称されているのだけれど、作家先生視点の方だと自分のことは優香理と表記されてるんですよね。一人称ではなく三人称の作品なので、地の文での事なのだけれど、この書き分けを明確にしているのはちゃんとした意味が込められているんでしょうね。
果たして、この地の文の書き分け部分が変化する時が訪れるのでしょうか。いずれにしても、二人の百合生活の本番はこれがスタート。自堕落が、堕落しきった生活!にならなければ良いのですがw