【オーク英雄物語 2 忖度列伝】  理不尽な孫の手/朝凪 富士見ファンタジア文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

オークの英雄は次なる花嫁候補を探すためエルフの国へ――

『大切なもの(童貞)』を捨てるため、旅をするオークの英雄バッシュはエルフの国を訪れ、衝撃の事実を知る。「異種族との結婚がブームらしいっす!」英雄は千載一遇のチャンスを掴むことができるのか……。

長寿を誇るエルフですら、生き残っているものは最長老含めて全員戦時中の生まれで戦争がはじまる前の世代が残っていない、って本当に長い間戦争やってたんだなあ。
お陰で戦禍によって種族としての伝統文化的な蓄積も消え失せてしまい、エルフ特有の選民意識、上から目線の排他主義も、マウント取るための根拠となる知識も何もかも喪われてしまったために、変なプライドの高さも解消されてしまった、というお話は面白かったなあ。
また千年も経てばプライドもすくすく育つに違いない、とは明言されているものの、今のエルフたちは謙虚に自分たちから喪われたもの、足りないものを認めて、足場を固めようと精力的に動いているわけで、良い意味でさすがは森の賢人、という立ち居振る舞いである。
というわけで、短期的に人口を増やすために他種族との婚姻を推奨するお触れが出されたこともあり、大規模な結婚・出産ブームが訪れているエルフの国にナイスなタイミングで入国することになったオーク英雄のバッシュ。
オークとエルフと言えば不倶戴天の敵同士、とも言える種族関係なんだけれど、前のヒューマンの国もそうだったけれど戦時中の遺恨は極力残さずに平和になったんだから、新しい関係を築こうよ、という考えになっているのは正直感心してしまう。
もちろん、オーク種族への警戒や忌避感はあるんだけれど、バッシュが普通の態度取っている限りは変なイチャモンとかも付けてこずにちゃんとした旅人としての対応してるんですよね。
最初に不老長寿のエルフですら、戦前を知らないほどに続いていた大戦争だったんだなあ、という感想を持ちましたけれど、それほどの戦争が終わってエルフですら知らない平和が訪れた、というのはどの種族にとってもとてつもなく偉大なことだという認識があるのかも知れません。どの種族も、ひとりひとりからこの平和を何としてでも続けていきたい、という心構えみたいなものを感じるんですよね。そのために、戦時中の各種族が他の種族から抱かれていたイメージを根底からひっくり返すようなイメージチェンジを皆が自ら図っている。エルフたちはその点、特に顕著ですけれど、他の種族も多かれ少なかれそういう面が見られるんですよね。
バッシュも彼個人として特に気をつけている部分はありますけれど、オーク種族としてもオークキングからの命令として、他の種族が禁忌としているような行為については行わないように改善を志して、意識改革を進めていて、他種族との融和を図っているんですよね。バッシュだけが異端、というわけではなく、あくまで彼は最先端ではあるけれどオーク種族の方針の上にあるわけで。
それに対して、ヒューマンやエルフなんかもオークという種族の性質に深い理解を示していて、彼らの譲れる部分譲れない部分に対してちゃんと認識していて、尊重もしてくれている。だからこそ、オーク側からの歩み寄りについてもしっかり受け止めてくれてるんですよね。
バッシュがどれだけジェントルマンな態度に終始していても、それを理解して許容してくれる下地が他の種族になければ、忖度なんてしてくれませんからね。
こうしてみると、各種族ともに折角辿り着いた平和を維持するために、凄く意識を働かせて努力している様子が伺えるんですよね。それだけ、皆が平和を望んでいる、という風にも取れるわけだ。

バッシュの嫁取り行脚は、何の因果か、この戦後の平和の中に再び芽生えかける種族間の不和を解消し、再び戦争に発展しかねない発火点を、ボヤのうちに消化してまわる火消しの役回りになっているんですよね。おかげで、オークの英雄だったバッシュはどんどんと全種族にとっての英雄、平和の守護者になっていっているのがなんとも面白い。
本人、そんなつもりないのにね。
ただ、本人にそんな高尚な目的はなくても、バッシュの人格そのものが皆から敬意を抱かれるのにふさわしい紳士であり誇り高い戦士であり誠実な男性であることは疑いようのない事実なので、彼が英雄であるのは誤解でも勘違いでもない、というのは錯誤のポイントがこの手の勘違いものとは違っていて面白いなあ、と。

そう言えば、今回のヒロインであるサンダーソニアも、かなりバッシュと似た立ち位置で忖度を受ける側なんだよなあ。当人は紛れもなく英雄たる心ばえの持ち主なんだけれど、誤解や勘違いから色々と忖度されてしまい、生き遅れて相手にも恵まれない、というあたりなんぞは特に。
秘術によって延命していて、エルフの中でもガチの最長寿なロリババアでなおかつメスガキ属性、という所は大いにポイント高いですよ、サンダーソニア。
一巻のヒューマンのヒロインと違って、ソニアさんはキャラの濃さといい立ち位置といい、この人が目下のメインヒロイン筆頭候補っぽくて、今後も登場してきそうなのでちょっと楽しみ。いや実際、この人がヒロインでいいんじゃないだろうか。ただ、今の所バッシュとの絡みはまだ限定されてるんですよね。クライマックスで共闘していましたし、戦時中には因縁もあり、と下地はあるんですけれど、落ち着いている時に普通に会話する機会なかったもんなあ。
ただ、バッシュと普通に話をするようになってしまうとそのままゴールインしてしまい兼ねないので、そのあたり難しいところなのかも。