【元世界最強な公務員 1.帰還勇者、身分を隠してたのに新人冒険者の世話をすることになりました】  すえばし けん/キッカイキ HJ文庫

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隠遁した元勇者がお世話役……!?

久住晴夏はかつて、地球と繋がってしまった異世界を勇者として救った。その闘いの日々に嫌気がさした彼は、地球に戻った後に安定を求め公務員を目指して就職活動を始める。
しかし、異世界に飛ばされたことで職歴も無し、学校も中退の彼が選べる仕事は少なく、その知識を利用して異世界交流課に勤めることに。
その最初の仕事とは、ワケありな三人の新人女子冒険者をサポートすることで――。
隠遁したい元勇者による、現代バトルファンタジー開幕!

ほぼ4年ぶりくらいの、すえばしけんさんの新作だー! あとがきの書き方だと、別名義でなんか書いてたのではないか、という風にも見えるのですけれど。
今どき寄りのタイトルですけれど、ちょっと世知辛いくらい生活感ある登場人物たちの日常風景に、わりと重めの政治的要因が絡んでいたりするあたりは、変わらぬすえばし作品で染み入りますわー。
主人公にしてもヒロインにしても、そして敵役にしても一人ひとりじっくり寄り添ってその心の在り方を浮き彫りにしていく描き方は相変わらずなんですよねえ。そして、自分そんなキャラ描写が好きで好きでたまらなくて、この作者さんのファンであり続けてるわけです。
もう好き。

今回の話の主人公である久住晴夏は、異世界で邪竜を倒した元勇者。普通の異世界召喚ものと違って、異世界と地球が繋がった上に日本の地方都市が崩落のような形で異世界に落ち、凄まじい数の死者行方不明者を出し、異世界に遭難する形で大量の日本人が異世界に放り出された、という大災害になってるんですね。
ハルカは、その災害で家族を失い、紆余曲折あって適合した神具を使って、その災害を引き起こしたという邪竜を倒した人物であり、ノインの名だけが知られる謎の勇者、だったわけです。
本名名乗らなかったのはファインプレイなんだろうなあ。お陰で、再び異世界と日本が繋がってゲートが固定された際に、誰にも気づかれずに日本に戻れたのですから。
下手に有名人、それも戦略兵器に匹敵する勇者としての力を持った個人、となるとまともな人生は送れなくなりますし、個人情報特定された人間がどうなるか、昨今の情報社会では明らかですからねえ。
軽い感じの話だと身分とか英雄勇者だった事実を隠して隠遁するのって、奥ゆかしさとか実力を隠して過ごす俺カッコいい、という感じの代物でしたけれど、重めの話となるとガチのリスク回避だったりするんですよね。そうでなくても、有名税とか力あるものの義務とかで片付けるには面倒どころじゃない事になりますし。自己承認欲求とか英雄願望とか目立ちたい気質がなかったら、持て囃される毎日というのは本気で苦痛でしかないので、正体を隠して生きるというのは結構切実な面も大きいと思うんですよね。これは、物語のタイプにもよるんでしょうけれど。

ただ、本作においては……これらとはまたちょっと理由が違うんですよね。
これが明らかになった時には、ちと絶句してしまいました。ハルカが元勇者という正体を隠し、さっさと日本に逃げ帰ってしまったのも、これは無理からぬ事ではなかったでしょうか。彼本人が語る内容から推察するしかないですけど、当時は精神的にもほんとにギリギリ一杯だったんじゃないでしょうか。
というか、神具に適合して以降、よく持ったなあ、と。この事実をよく受け止められたなあ、と。いや、今も受け止めきれていないのかもしれませんが。
邪竜討伐の旅、あんまり仲間が居た様子もありませんし、実質妹の玖音との一人旅だったんじゃないでしょうか。ほんとにメンタルよく持ったなあ、と繰り返しになりますけど。
彼当人の責任なんて一切ないはずなのに、彼はすべての責任を背負って生きていく羽目になったのですから。

でも、彼が世界を救ったのは、事実だったんだなあ。ハルカはそのことに何の意味も価値も見出していなかったわけだけれど、三人の新人冒険者との交流が彼に違う見地を与えてくれたということなのか。

バイト生活に汲々としていたハルカが、募集を見つけて応募したのは公務員と言っても市役所の非常勤職員。それも、異世界との交流プログラムで市に常駐することになった新人の冒険者三人の案内役で、まったく戦闘とかとは関係ないお世話係みたいなものでした。
その新人たち。エウフェミア、リュリ、マリナの三人は、多少経験のあるリュリを除いて、冒険者になりたて。実力を見込まれて送り込まれてきたのではなく、あくまで市の交流事業のシンボル的な扱いだったのですけれど、それぞれ邪竜との戦争の様々な形の被害者でもあったわけです。
あの戦争で人生に大きな影響を受け、戦争が終わった世界でそれまでと違った生き方を得ようと、このプログラムに応募してきた子たち。それぞれ志があったり、家族の生活のためだったり、平和になったが故に放逐された身の上だったり、と事情は様々だったのですけどね。
最初はそれぞれが抱えている事情なんかわからないので、第一印象から深くまで踏み込まない段階でのコミュニケーションから受けるそれぞれのイメージなのですが、これが付き合えば付き合うほど目まぐるしく印象が変わっていくんですよね。
人となり、というのは絶対にシンプルでは収まらない。若くとも十数年の歩んできた人生に基づく、様々な側面がヒトには根付いている、というのがなんとなく伝わってくるんですよね。覗けば覗くほど、色んな顔が見えてくる。こういう幾層も重ねたようなキャラクター付けと、それを一枚一枚広げて様々な方向からヒカリを当てて見え方を変えていく、キャラの掘り下げ方はこの作者であるすえばしさんらしさが色濃く出ていて、なんとなく染み入ってしまいました。
それに、三人が影響を与え合うことで三人娘たちは新しく違う自分を見つけたり身につけたりしていくわけです。刻々と成長もしていくわけだ。
特に顕著なのが、対邪竜の兵器として扱われてきたが故に、戦闘狂という側面ばかりが磨き上げられ、それ以外の情緒がまったく育っていなかったエウフェミアでした。
いや、ここまでガチの戦闘狂って珍しいくらい、強さ以外に何の価値観も持っていないエゲツない子で、それを温厚でぽやぽやしたキャラクターでキレイに覆い隠していた、色んな意味でヤバい子だったのですが、この子が他の弱っちくて何の関心も持っていなかったはずのリュリとの衝突から、自分の中に芽生えた経験のない感情に戸惑い、そこから手繰り寄せて一つ一つ階段を登っていく様子は感慨深いものがありました。

そんな三人娘の現状というのは、ハルカが邪竜を倒して世界を救ったことによって発生したものであるんですね。邪竜を倒した後すぐにとっとと異世界から帰ってきてしまったハルカにとって、邪竜を倒すことというのが清算であり、証明に過ぎずにその後のことなんて何の意味も見出していなかった彼にとって、彼女たちはある意味自分が成したことの結果そのものだったわけです。
自分がやったことの影響を、彼はこの仕事を通じてはじめて目の当たりにして実感することになったのでした。勇者なんて、自分で名乗ったわけではなく、すべてが終わったあとで誰かが勝手につけた称号。世界を救った自分は、しかし誰も救ってくれなかった。
でも、自分が救った世界で救われた人がいる。救ったはずの世界で苦しんでいる人たちがいる。自分が成した事を仰ぎ見て、それを追いかけている人がいる。その先を、未来を自分の力で掴み取ろうとしている人がいる。
その事実は、誰も救ってくれなかった勇者の心を、確かに救ってくれた。

後始末で戦後処理が多く絡むお話でしたけれど、それ以上に終わった後にしっかりと前に進めるようになる、未来に向けた話だったんだなあ、と。それを、戦って勝ち取るのではなく、隣人となった異世界の人たちとの交流で、寄り添うことで紡いでいく。育てていく。
そんな噛みしめれば噛みしめるほど味わい深さが滲み出してくる、そんな逸品でありました。
堪能した!!

しかし、あのリュリの意識高い系キャラは面白かったなあ。何気に現代地球の科学技術への理解や習得も柔軟で早いし、意識高いが故に自分にも他人にも厳しくてほかを置いてけぼりにしそう、に見えて急き立てながらも他の二人とちゃんと歩調をあわせる機微もありますし、キャラがわかってくればわかるほど頼もしく思えてくる良いキャラでした。
エウフェミアの方はもうすげえ、としか言いようがないヤバい子でしたけれど。いや、あのぶっ壊れ方はほんと凄いよなあ。なまじ、傍目にはまともに見える分、余計に。インパクト大でした。


すえばしけん・作品