【物理的に孤立している俺の高校生活 3】  森田 季節/shirakaba ガガガ文庫

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残念系異能力者でも友達と文化祭回りたい!

波久礼業平には友達がいない……わけでもない。むしろ、あわやぼっちで過ごすと思われた夏休みを人研メンバーとともに無事乗り越え、本人はなんとなく成長した気さえしていた。
しかし、業平の持つ異能力「ドレイン」はもちろん健在で、オン・オフができるようになったわけでもなんでもない。やっぱり学校レベルで物理的に孤立している。せつない。
それでも、これなら二学期の文化祭も乗り切れると安心していた中、同じく不遇な異能力に悩む高鷲えんじゅから脈絡もなく連絡が来る。
「男友達作り、早くしないとまずいことになるわよ。うちの高校って修学旅行が二年生の二学期途中にあるから」
いやいや、そんなこと言ったってお前も人研メンバー以外の友達いないじゃんと思う業平だったが、高鷲の言葉は確かに事実。蘇る中学時代のトラウマ。現状、限りなくぼっちな二人は、売り言葉に買い言葉で「文化祭が終わるまでに友達を作れるか」勝負をすることになってしまう。
お互いこいつにだけは絶対負けないよなと思うのだが……あれ、そもそも友達ってどうやって作るんだ!?
残念系異能力者たちだって友達と文化祭を回りたい! 大人気青春未満ラブコメ第3弾!!

友達ってどうやって作るんですか?
いや、真面目な話、学生時代友達どうやって作ったか、とか覚えてないですよ。何となく喋ってたら一緒に遊んでいたらいつの間にか友達になってた、て感じですよね。友達になってください、友達になってよ、みたいに直接言葉にして「友達」という関係になった事はなかった気がする。
でも彼ら、業平と高鷲にとっては友達という関係はそんなに簡単でも軽いものでもなかったのだ。これまで友達という存在が出来なかったコンプレックスもあるのだろう。でも、それ以上に友達という存在に対して真面目なのだ。真剣なのだ。何となくいつの間にかなっているものではなかったのだろう。それこそ、彼氏彼女の関係に勝るとも劣らない、人生における重大事だったのだ、友達を作るという事は。
もっとも、彼氏彼女の関係ですら人種によっては気軽にホイホイとくっついたり離れたり何となくで始めたり終わらせたりしてしまうものなのだけれど。
人間関係というものは本当に人それぞれで同じ名称の関係ですら中身は、いや中身ではなく受け止め方、というべきだろうか、受け止め方が全然異なってきてしまうものなんだなあ。
文化祭の折に、人研部以外の友達をどちらが先に作るか、という勝負をはじめてしまう業平と高鷲。それからのこの二人のノリはというと、完全に男女交際の相手をゲットするつもりみたいな本気度、真剣さなんですよね。形は違えど、仲の良い友達とどっちが先に恋人を作るかの勝負をガチではじめてしまった、みたいな感じになってるんですよね。
そう、冗談ではなくガチで。だから、勝負しているはずなのに、業平ときたら高鷲がクラスの女の子となんだかうまくいきそう、性格に大変問題のある高鷲でも何とか友達になれそうな雰囲気、というのを見て取った途端、内心で応援し始めてしまうのですよ、こいつ。
勝負を忘れているわけじゃないんだけれど、高鷲に感情移入してうまく行ってほしいと本気で祈り始め、便宜だって図り始めてしまう。
イイ奴なのだ。拗らせているけれどこの男、いいヤツなのだ。
その業平も、生徒会から応援できてくれた大福という男の子と、これまでになく自然に気負いなく会話できることで、これ友達になれるんじゃないか、と浮かれだしてしまう。いや、いいんですよ。友達になれそう、と思うことになんの悪しきもない。
実際この大福、いいヤツなんですよ。1メートル以内に近づいた他人の生気を吸い取ってしまうという「ドレイン」の異能を持つがために、タイトル通り物理的に孤立してきた主人公。物理的のみならず、やっぱり近くとヤバいということで心理的にも距離を置かれ、場合によっては拒絶されてきた業平くん。でも大福はもちろんちゃんと距離には気をつけているけれど、業平がドレインという異能を持つ事に対しては常にフラットな対応で、同情も嫌悪もなく、自然とそういうものとして捉えた上で自然に付き合ってくれる人だったんですね。
別に内心で違うことを考えていたりとか、なにか企んでいたり、とかいうこともなく、本当にただいいヤツだったのです。
ただ、彼はそういう業平みたいな人間とも何の偏見もなく付き合える人だからこそ、他人との距離感が軽い人でもあったんですね。人と人が繋がることに、深い意味も重たい価値も特に見いださない、普通に仲良くなって簡単に恋人という関係を作ることの出来る人種だったわけである。
業平とは、どこか価値観が異なっている相手。
軽々に、あの娘なら付き合えそう。別に好きじゃなくても告白されたら、相手が可愛いなら付き合うよ、という大福に違和感を感じてしまう業平。相手に対して、それは真剣じゃないんじゃないか。真摯じゃないんじゃないか、と考えてしまうわけだ。
でも、それはちょっとした価値観の違いなんですよね。どちらが悪いとか間違いだとかいうわけじゃない。はじまりのきっかけや態度が軽いものでも、友達として恋人として付き合いだしたら何かが変わってくるのかもしれない。そもそも、軽い関係ってのが悪いかどうかって話もある。軽くて、なにがダメなんだ? そういう関係も、あっていいじゃないですか。
そういう事は、業平もちゃんとわかってると思うんですよね。彼が、嫌な思いを感じてしまったのは、実は大福に対してじゃないんですよね。好みの問題というのを踏まえた上で、そういう人との接し方が好きではない、と業平は感じたその時に、彼は自分を省みるのである。
あれ? 大福のそういう人との接し方に嫌悪を感じている自分は、大福のことを友達になれるようn相手か「品定め」していなかったか? と。大福が、あの娘なら付き合えるんじゃないか、と思っているのと同じように、こいつなら友達になれるんじゃないか、と打算で考えていなかったか、と。自分のことしか考えずに、友達を作りたいと大福をはじめとする周りの人間たちを選別の目線で見ていなかったか、と。

ちなみに大福くん、業平がどもりながらもそういう見方はよくないんじゃないか、相手に対して失礼じゃないか、という言葉にちょっと驚きながらも真剣に受け止めて、確かに自分も親しい人をそんな風な見方で言われたらあんまりいい気分じゃないよね、と反省してくれるんですよね。
特に何の気もなしに軽く雑談めいて喋っていた内容に、そんな真面目なトーンで反駁されたとして、反発したりドン引きしたりするのは論外としても、曖昧に流してしまったりなんか悪いこと言っちゃったかなと取り敢えず謝ったり、というくらいの対応は珍しくないと思うんですよね。
彼のように、本気でちゃんと考えて、良くなかったと謝ってくれる人は決して多くないと思う。大福くん、マジでいいヤツなんだよなあ。
でもあそこで、迷いどもりながらも、ちゃんと苦言を呈することの出来る業平もまた、大した人だと思うんですよね。それも、大福のことをそれはダメだろうと否定的に思いながら、じゃないんですよね。あそこで彼は、自分を省みて、自分もまた大福以上に失礼な事を考えながら彼に近づこうとしていた、と恥じ入りながら、その大福に対して苦言を呈するという事に何様だとさらに恥じ入りながら、それでも告げているのである。
あの違和感から嫌な気分を感じてしまった場面で、一方的に相手の上位に立った気になってしまうのではなく、そこで自分を省みる業平が。恥じ入りながら、それを自分の中に押し込めてしまうのではなく、相手に告げることの出来た彼が、本当にえらいと思うのですよ。
敬意を抱く。

そして、高鷲もまた、無意識に友だちになろうとしていた娘にマウントを取ろうとしていた事に気がついて、咄嗟に身を引いてしまうんですね。彼女の場合は、ココロオープンという目を合わせると自分が心のなかで思っている事が全部テロップに出てしまうという異能のせいで、相手との関係が決定的に壊れてしまう事を怖れてしまった、というのもあるのだけれど。
業平にしても高鷲にしても、本当に友達という関係に対して真剣だからこそ、真面目だからこそ、その関係に対して真摯すぎるほどに誠実足らんとしてるんですよね。異能のせい、というのも大きいでしょう、適当にこなせない不器用さ、というのもあるのでしょう。性格がこじれてたり捩じれてるのもまあ致命的ですよね。
でも、この誠実さは、真面目さは敬したい。これはたしかに意識高い系の範疇なのかもしれないけれど、胸を張って意識高い!と言ってもいいんじゃないかしら。
それでも、二人はこれまで、ずっと人間関係に惨めな思いをしてきた。異能によってハンデを負って、寂しい思いをしてきた。こうしてみると、誰よりも相手のことを理解しわかっている二人なんですよね、高鷲と業平は。だからこそ、勝負しているのに相手を応援してしまう。挫けそうになっている高鷲を、一生懸命フォローして自分たちは同盟者じゃないか、と背中を押す業平はお世辞抜きにカッコいい……いや、カッコいいというのとは違うかもしれないけれど、高鷲にとっては彼の必死さは胸が一杯になるものだったんじゃなかろうか。

お互いに支え合って、友達作りという一歩を踏み出せた業平と高鷲。そこで友達作りの勝負をなかった事にしないあたりがさすが高鷲えんじゅ、と思う所だけれど……。この勝者の権利を保留にしたの、あとあとに大きな影響をもたらしそう。業平への命令権。この文化祭の中で生まれた二人の間の「空気」の様子に、本当に「ここぞ」という場面が巡ってきそうで、ちょっとワクワクしてしまうラストでした。