【川上稔 短編集 パワーワードの尊い話が、ハッピーエンドで五本入り 1】  川上稔/さとやす(TENKY) 電撃文庫

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WEB限定!! 『境界線上のホライゾン』の川上稔が贈る珠玉のラブコメ短編集・第3弾、今回は「尊い」編!
・『君が手を離さない』
 「憶えてる?」「憶えてない」洞窟の中で目を覚ました男女。記憶を消された二人に対し、外の世界は終わってるのかと思えばそうでもなく。では何故、という疑問に、君と僕の不慣れな生活がやがて小さな答えを導いていく。

・『化け物のはなし』
 「あなたは 誰?」あるところに化け物として怖れられている少年がいた。そんな彼の下に届いた一枚の手紙。「ごめんなさい」――少年はその言葉が嫌いだった。そこから始まる化け物と天使の話。雪の降らない海辺の町で起きた、これは誇りの物語。

・『最後に見るもの』
 「見えてますの?」二級傭兵として各地を転々としていた僕の前に現れた美人のゴースト。彼女は司祭である僕の姉に頼まれて、僕を連れ戻しに来たらしい。帰路に着いた二人が明かすお互いの秘密。極端な選択はいけないと思います……!

・『ひめたるもの』
 「貴様を下選と呼んで良いのは、私だけだ」ある王国に偉大で聡明な王がいた。しかし王の側にいる少女の秘書官は、王の言行に一度も首を縦に振ったことがなかったという。読後にタイトル確認必須の、不遜な王と、いい性格した秘書官の物語。

・書き下ろし短編『空と海を結ぶもの』
 「ねえ、傍に行っていいかしら」狭い海を挟んで対立している二つの国。それぞれの国に住む、接点の無い筈の二人が、ある夜に出会ってしまった。その逢瀬の果てにもたらされる結末とは?

 川上稔が贈る、最高にハッピーで尊い珠玉のラブコメ短編集! 書き下ろし含む5本の他に、BONUS TRACK『コガレ』を収録!

今回に関しては前回の短編集と違って、厳密にはラブコメではない作品が多めだと思う。もっと直球にラブストーリーしてる印象がある。
愛の、物語になってるんですね。
それが、尊い! 今回のテーマは「パワーワードの尊い話」なわけですけれど、本当にもう「尊い!」と、読み終えた後に拳握り込んで「尊いぃぃ!」と声を絞り出してしまう程には尊い!


個人的には最初の『君が手を離さない』もいきなりガツンと来るラブストーリーでめっさ好きなのですけれど、最後の書き下ろしの『空と海を結ぶもの』がちょっと最高すぎて、キュン死してしまいました。
『君が手を離さない』は、目を覚ました時記憶を喪っていた男女二人のお話。目覚めた時、自分に関する記憶の全てが消えてしまっていたのだけれど、二人は手を握り合っていました。強く握って握り返していたのでした。
何もかもを喪っていた二人ですけれど、まっさらな再起動の中でその「手を握り合っていた」という事実が何も残されていない彼らの、唯一確かなものになっていた事が、その後彼らのゆったりと流れていく穏やかな日々の中で定まっていくんですね。
徐々に、世界が置かれていた状況が明らかになっていき、おおよそこの二人の男女の立場がどういうものであったかも見えてくるのですけれど、当人達はそんな世界の情勢などは無くなった記憶とともに遠くに置き去りにして、迎え入れてくれた開拓村の中で日々を過ごし、仲を深めていくのでした。そんな二人の最初からあった絆こそ、離さなかった手。記憶を無くす前の彼らが、まっさらになって始める自分たちに託した最後の贈り物。そして今、その手は握られ離れない。
ハッピーエンドぉぉぉ!! と、思わず悶絶してしまうほどの、完膚無きまでの美しいハッピーエンド。そうだよ、これこそが額縁に入れて飾りたいハッピーエンドなんだよぉぉ!!

『空と海を結ぶもの』がまた最高で、最高なんですよね。
戦争のさなか、敵同士でありながら巡り合ってしまった男女、と聞くと戦争モノの一つの定番なのですけれど、本作の珠玉なところが、その男女が人間ではなく片や無人機のAI。片や無人戦略潜水艦のAIという、両者ともが自我を持ってしまった機械知性というところなんですよ。
機械と人間のラブストーリーというのはこれまた定番としてあるものですけれど、AIとAIのラブストーリーですよ。もうなんじゃこりゃーー! てなもんじゃないですか。
戦闘不能に陥って着水した無人機を見つけた潜水艦が思わず助けて、それをきっかけにはじまるラブストーリー。そんな一機と一隻が戦闘の合間に指揮所誤魔化してランデブーして、逢瀬を重ねるわけですよ。潜水艦の方が海底ケーブルから配信データを拝借して、音楽や映画一緒に聞いたり見たり。マニュピレーターで機体をさわさわしてイチャイチャしたり、直接機体連結してデータ復旧して助けたときのことを人工呼吸とかキスとか言って照れ照れしたり。お互い示し合わせてデートの待ち合わせしたり、こっそりネットワーク介して無人機の基地に忍び込んで無人機の待機状態(寝顔)盗み見たり。
恋人かっ! というくらい、イチャイチャしてるですよ、この一機と一隻。
交戦する2つの国で、双方で唯一自我を持つAI。その二人、敢えて二人と書きますが、この二人の正体もまた無人機にまつわる真相が明らかになることで察せられるのですけれど、わかったらわかったでこれがまた運命的なんですよね。この二人のAIが戦場で出会ったことそのことがまた運命的でドラマティックで。尊い!!
戦争が終わろうというそのときに、終戦によって全てを喪ってしまう一部勢力が死なば諸共と起動してしまった破滅へのカウントダウン。それを止めるために行われる最後の戦闘。そして、彼女のもとに駆けつける彼。最後のダイブ、そして愛の言葉と抱擁のシーン。もう映画化していいんじゃないですか、これ。あのシーンの美しさが極まりすぎてて、尊すぎて、このシーン見直すたびに泣けてきてしまうのです。
そして、ちゃんとハッピーエンド! ハッピーエンドなんだよぉぉ!!

『最後に見るもの』とか、これ川上さんらしい作品と言えるのかもしれませんね。ゴースト、幽霊をあの世のものとかこの現世には居てはいけないものではなく、そこに在る存在として描く一方でそれが自分の死を通り抜けてきた者である所を忘れていない所なんぞ。
『化け物のはなし』など、実験作の色が濃かったですし、『ひめたるもの』も多くを物語らず行間から感じ取ってほしい、というような感じのする話で、なかなかじっくりと読み込み、自分のなかで消化する必要を感じる話の多い、と思える短編集でもありました。その意味では、また前作のラブコメ短編とはまた色合いが違ってきてるんですよね。色々と挑戦してくるなあ、川上先生は。大ベテランもイイ所なのに。

でも、総じて尊かった。尊みをこれでもかと味わえる短編集でした。これが、これが尊いってことだよぉ!!
いやもう本当に『空と海を結ぶもの』はAI萌えとしてもちょっと最高すぎて、好きすぎましたわ。