【妹さえいればいい。10】  平坂 読/カントク ガガガ文庫

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妹がいる生活、はじめました。

ついに千尋の抱えていた大きな秘密が、伊月たちの知るところとなってしまった。千尋から事情を聞かされ、表向きはそれを喜んで受け容れた伊月は、これまでどおり那由多とイチャイチャしたり、千尋を可愛がったりして、妹がいる生活を満喫する。『妹すべ』のアニメも好評を博し、招待された台湾のイベントでちやほやされるなど、売れっ子作家としても満たされた日々を送る伊月だったが……? 一方、重荷から解放された千尋にも、新たな物語が始まろうとしていた――。大人気青春ラブコメ群像劇、運命の第10弾登場!!

ウチの弟が妹だった件について。
改めて伊月のお父さんが奥さんを喪い傷心しながら幼い息子のために一心不乱に働く中で、今の新しい奥さんに出会うまでの回想を見せられたのだけれど、伊月パパも、千尋のお母さんである義母も真面目な人なので、千尋の性別を誤魔化すなんて非常識なこと余程のことがないと一蹴してただろう事がよくわかる。
それだけ、伊月のデビュー作の衝撃がよほどの事だったのだろう。まあ、性別を偽るのは伊月に対してだけで、学校など公共の所では普通に女の子として過ごしているのだから、書類を偽装したりという危険な行為に手を染める必要はなかったので、親側のハードルは低かったのだろう。
ただ、千尋は学校に通う制服はともかく、普段は外出する時なんかでもユニセックスな服装を心がけてただろうから、結構大変だったんだろうな。まあそれが日常と化していたから、はじめのころはともかくいい加減慣れてはいたのだろうけれど。
しかし、パパの回想を見ると伊月との断絶はかなり厳しいものになってますね。新しい奥さんとの出会いを中心に描いているので、息子に向ける気持ちなんかはあまり描かれていないから、なのかもしれませんけれど、パパの方には伊月を放置していたという自覚は殆どないようでしたし。

さて、千尋の性別がバレた、じゃなくてあれは千尋が我慢しきれずにバラしてしまった、が正しいか。ともあれ、ついに千尋が弟ではなく妹だと発覚する……この作品が【妹さえいればいい。】というタイトルであることの意味を思えば、妹バレというのはこのシリーズはじまった当初から最大の山場であり最大の修羅場、と目していたものでした。
ただシリーズはじまった序盤の頃の狂的な妹属性だった伊月と違って、今の彼は小説家として幾つもの経験を経て、ついにアニメ化という目標まで達成するに至り、自分の中の妹狂いをある程度飼い慣らして小説にアウトプットする事が出来るようになっているかに見受けられていました。
さらに、私的にもカニ公と正式に交際をはじめ、恋愛感情も健全に進捗させ、彼女への愛情に小説家としてのコンプレックスも自分の中に呑み込んでおけるだけの制御が叶うようになっているようでした。
さらに、千尋との関係は年単位で密接に積み上げられ、再婚の連れ子同士という関係は今や父と疎遠になっている以上、唯一の大切な家族、という認識に至るまで育つものになっていました。
千尋が、自分が弟ではなく妹なのだと我慢しきれずに暴露してしまったのも、家族ゆえの距離感だったのでしょう。彼女なりの親愛であり、兄への我儘で甘えでもあったわけだ。それが出来るほどの距離感になっていた、とも言えます。
伊月の人格的にも、千尋との関係としても、この上なく安定を見ていたのが現状でした。
ここまで安定していると、とてもじゃないけれど弟が妹だったという事実を突きつけられたからといって、そうそう揺らぐものではないんですよね。今更、修羅場になりようがなかった、とも言えます。
だから、千尋の暴露が大した騒ぎにならず、知らなかった面々を仰天はさせたものの、ある意味伊月たちを驚かせただけで終わったのでした。拍子抜けなくらい、そうだったのかー、で終わっちゃったんですね。
これまでのシリーズの積み重ねて、前述した安定性について実感していた読者側の身としても、そのあっさりとした特に波乱もないまま終わってしまった展開は、まあそうなるな、という妥当と感じる反応で得心のいく結果だったと思います。
むしろ、変に拗れずに安堵した、と言ってもいいかもしれない。
だから、ラストの展開には「そう来たかー!」と思わずのけぞってしまいました。うん、そっちは不覚にも想定していなかった。
なるほど、これは「安定」していたからこそ、千尋の性別告白が伊月が致命傷になってしまったのか。小説家としての伊月が安定してはいけなかった部分まで、見事に真っ当に安定してしまったのか。それは、千尋が本物の大切な家族になっていたからこそ、でもあるのか。
これはちょっと……どうしようもないんじゃないか? 現実の妹と願望の妹はまったくの別物、と頭じゃなくハートと下半身で感じることが出来るようにならないと、もう無理でしょう。
というか、これはもう性癖を推進力にして感性を変換器にして書いていたがゆえの躓きか。
原因が明らかなのに、対処の方法がまったく見当たらない、というのがこれは辛いなあ。伊月も八つ当たりなんか出来ないだろうし。カニとの関係も順調だったのに。
取り戻すのか、それとも一から全く別物になるか、それとも潰れるのか。小説家としての岐路に立たされた伊月の明日やいかに。

ちょっと驚きだったのだけど、千尋……気になってるのまさかその人なの!? これも全然想定してなかったんだけど。
そしてえっらい実感の篭もってる台湾レポート。これ、実質ノンフィクションじゃないんですか?
前にもラノベ作家が主人公の作品で海外のイベントに招待される話見ましたけれど、ほんとにVIP扱いで大歓迎されるんですなあ。