【董白伝~魔王令嬢から始める三国志~3】  伊崎 喬助/ カンザリン ガガガ文庫

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“神算の軍師”、きたる!

長安に都を移し、いよいよ“新・三国志経済圏”の構築に乗り出す董白。
必要なものは、塩、そして銀。

そんな折、曹操に仕えた軍師、荀攸が近くに逗留していることを知る。
経済のアドバイザーとしても是非とも味方に引き入れたい董白だったが、荀攸は想像以上の変わり者で――。

涼州、そして益州からの使者団。都周辺で暗躍する“鈴鳴り”の賊。そして、暴走の気配を強める舌の悪癖。
山積する懸案のなか、つながる点が導く真実とは――?

新たなる史を目撃せよ! 打擲幼女の覇道ファンタジー、第3幕!

全部放り出して西域にとんずらする計画もポシャってしまい、本格的にこの三国志世界で漢王朝の相国として生き残りを図らなくてはならなくなった董白ちゃん。
長安を基盤に経済圏を構築して生存圏を確保する、という目標を立ててようやく腰を据えて領地の統治に勤しみだす。一端の乱世における君主としてのデビューと言っては過言であろうか。
ただこれ、文官内政官のたぐいが董白ちゃんの部下には全然いないんですよね。周りは李傕や馬超をはじめとして武官ばかり……言葉を繕わなければ脳筋ばかり。漢王朝の重臣たち、王允をはじめとする連中は獅子身中の虫である以前に名家と儒者ばかりなので、董白ちゃんが推し進めたい経済政策に対しては無知を通り越して穢らわしいものとして認識しているので、役立たず、どころか影に日向に邪魔してくる可能性すらある。
軍師が、軍師がいない! いや、まじでいねえ。三国志といえば、いっそ軍師たちが主役と言っていいくらい百花繚乱の軍師たちが並居っているはずなのに、董白ちゃんの周辺には頭を使える人たちが一人もいないものだから、董白ちゃんが全部一人でやらなきゃならなくなっている。敷いて言えば蔡琰ちゃんが文官として極めて優秀で、実務は彼女で回っている節があるのだけれど、逆に言うと実務以上の政策立案や長期の国家戦略、企画についての相談まではちょっとむずかしい感じなんですよね。軍略に至っては門外漢でしょうし。
軍師が、やはり軍師が足りない!
そんな切実に頭脳担当の配下を欲する董白ちゃんのもとにひょいと現れたのが、自分の暗殺を図って投獄されているという荀攸。いや、キャラ濃すぎないですか、この荀攸。わりと温厚というキャラ付けがされがちな軍師ですけれど、確かに董卓暗殺を図ったりとバリバリの行動派でもあったんですね、この人。ただ烈士というべき姿勢で董白ちゃんの姿勢を詰めてくる彼ですけれど、彼女が真面目に長安周辺の慰撫に努めているのを見て、助言をくれるようになる。
おおっ、ついに軍師参入か!?

ただ、董白ちゃん。あの追い詰められると豹変して自分でも止められない勢いで相手を口撃して叩き潰してしまう、という悪癖がさらに悪化して魔性の女になってしまう、という作用が出てきてしまったために、貂蝉に頼って呪術によって豹変そのものを封印してもらうことになる。
これ、ヤバい時にあの暴走状態によって危地を強引に突破してきた董白ちゃんにとって、切り札を封印する、という意味でもあったんですよね。自分でコントロールできない、というのは確かに怖いし、さらに女を武器にしだした上になんか自分の人格そのものが乗っ取られたみたいな感覚に襲われたら、そりゃもう二度と発動させたくない、と思うのも仕方ないのだけれど、あれこそが今の董白ちゃんを形作ったとも言えたんですよね。彼女が魔王の後継として畏怖されるのは、あの状態の董白ちゃんが暴虐を尽くしたからとも言えるわけで。
あれがなくなってしまうと、どうしても心許なくなってしまう。追い詰められても激高せずにブチ切れもせずに、穏やかに理性的に対処しようとする董白ちゃんは、何をしでかすかわからないヤバさこそなくなったものの、逆にスケールが小さくなったとも言えるんですよね。壁を打破できない惰弱さが垣間見えてしまった、とも言える。おかげで、麾下の兵士たちを含めて交渉相手にも段々となめられだす董白ちゃん。ままならないものである。

ままならなさに苦労しているのは、前回董白ちゃんにスカウトされて部下になった趙雲くんも同様で。
陰キャな彼は念願の将軍候補として董白ちゃんに指名されて、部下も与えられるも、こちらもその陰気さとやる気のなさが部下たちに舐められてしまって、統制もままならずに、はたして自分は将軍の器じゃないんじゃないか、と悩む羽目になる。
そもそも、自分が将軍になりたい、という夢を抱いたのも師匠に言われたからという受動的なものであって、自分が心から欲したものはなにもないんじゃないか、とどんどん後ろ向きになっちゃんですね。元から前向いてたことがないじゃないか、という陰気キャラだったのだけれど、それでも将軍になる、という目標があったのでそれを目指すことが出来ていたんですけどね。
それも、雑に董白ちゃんに叶えられてしまって、当面の目標も見失ってしまって、さらに鬱々と……という負のスパイラル。
ただ、実際には趙雲くん、董白ちゃんからはえらい頼られてて、今長安周辺を混乱に陥れ、彼女の経済政策の障害となり、また彼女を取り巻く陰謀の要ともなってる鈴を鳴らす盗賊団の調査、追跡に重宝することになるんですね。
趙雲くんって、董白ちゃんにとっては初めて得た直臣なんですよね。李傕はあれ、董白ちゃんに幻想抱いていて、董白ちゃんからすれば自分の実態をわかって心酔してくれているかわからない部分があって怖いだろうし。馬超も、どちらかというとあれ董白ちゃんが可愛い女の子だからべた惚れしてる、守護らねば、と思っている感じで、主君として仕えてくれているかというと微妙なところがある。所属としても、涼州サイドとの二足のわらじで、いざとなればどちらにつくかわからない部分があるし。その点、董白ちゃんが自らスカウトした趙雲は、掛け値なしに相国・董白の臣なんですよね。
もっとも、趙雲はそこまで別に思い入れていたわけではなく、自分を評価してくれたから仕えてみた、というくらいの軽さだったわけだけれど……。
件の盗賊、甘寧を追撃していく上で自分の将としての未熟さを痛感し、また自分の夢や志の実際の空虚さを実際に部下を率いて働くことで実感したあとで、それでも頑張ろうと陰キャな彼が思えたのは、董白ちゃんの期待と信頼ゆえだったのです。あの自分を認めてくれる主君を助けるために、自分なんかでも出来ることがあるみたいだし、頑張ろうと、あの後ろ向きな趙雲が思うようになるんですね。
武の才能もなく、内功という気の総量が生来乏しい趙雲は、まさに凡夫。でも、諦めず黙々と努力し続け叩き上げで技を鍛え上げ、超一流の武人に立ち向かえるだけの実力を鍛え上げた彼は、これもうもう一方の主人公と言ってもいい活躍だったんじゃないでしょうか。
溢れんばかりの才能を傍若無人に振り回す甘寧との、ヒリヒリするような殺し合い、真剣勝負。圧倒的に上回る才を、丹念に丹念に折りたたむよに捻り潰していく趙雲の、凡人ゆえの凄みある戦い。
今回は、彼の見せ場たっぷりで、大満足でした。
そんな彼こそが、董白ちゃんを色目で見ず、勝手に飾り立てて信奉するわけでもなく、暴走状態の彼女に魅入られたわけでもなく、等身大で素の董白ちゃんを主君として認め、彼女のために頑張ろうと思って仕えてくれた初めての臣、だったんじゃないでしょうか、これ。

そして、一連の董白ちゃんを狙い撃ちにした謀略の黒幕。これは、さすがにまさかそこか!? と、かなりギリギリまで気が付きませんでした。さすがにこれは予想外だよ!!
いや、これ気づく董白ちゃん、普通に凄いですよ。
あと、馬超ちゃん。もしかして、馬超じゃない可能性あるのか、これ?