【剣と魔法の税金対策】  SOW /三弥 カズトモ ガガガ文庫

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勇者と魔王、税金対策のために偽装結婚!?

「我が配下となれば世界の半分をくれてやろう!」「え、マジ! わかった!」
とある“奇妙な法則”が支配する世界。勇者と魔王が手を取り合いかけたとき、現れたのは「贈与税がかかります」絶対なる税金徴収者である天使。
そう、この世界の“奇妙な法則”とは、神への“税金”であった。“世界の半分”という莫大な資産にかかる超高額の贈与税に焦った勇者は税金逃れのために魔王と偽装結婚をする!
そんな二人を助けるのは『ゼイリシ』の少女?
お人好し魔王と銭ゲバ女勇者の財産分与と偽装結婚からはじまる、異世界税制コメディ!

国とか魔王軍が、神様に税金払わないといけないの!? しかも、お金で。
いやそれって国民とかからすると、二重課税って事にならないの!? と、思ってしまったのだけれど、話を読んでいくうちに作中の国家や魔王軍は「国」じゃなくて「企業」と捉えるべきなんだな、と理解した。法人税は!? とも思ったけれど、それはそれでちょっと棚上げしておいて、はい。
細けーところはいいんだよ、てなもんである。
つまるところこれ、税制とは単なる理不尽な富の収奪ではなく、社会が叡智を集めて築き上げた誰もが幸せになるためのシステム。徴収と分配の機構なんだ、ということがわかってくる。
ただし消費税、テメーはダメだ!w 
あと、人類の叡智を結集しすぎていて、常人にはまったく理解できない難物になっているので、素人では対処できません。ちゃんと専門家、税理士に頼りましょう、という話にもなっている。
先日、支配というのは本来「配って支える」ことなんだよー、という言説を目にする機会があって、なるほどなあ、と思った所だったのですが、こうしてみると税制というのもまた、再分配にまつわるものなんですよね。単純に税を集めてそれを徴収した人たちに還元する、というところに留まらず。
税天使による税務調査によって発生した魔王軍の未納の税金の追徴課税を解消するために、納税控除が可能になる項目を、税理士の女の子とともに辿っていくことになるんだけれど、その控除内容って大半が経費計上から福利厚生、超過勤務手当といったもので、言わば税金を経ずに直接企業の財産を還元してるから、わざわざ税金を減る必要ないよね、というものなんですよね。これもまた、分配。
途中から、これ税理士の範疇じゃないよね、という国家規模の財務の話にもなってくるのだけれど、ってかゼイリシのクゥ・ジョちゃん、それ財務大臣のお仕事じゃないですか!? というくらいのすさまじい財政出動をやりはじめるのですけれど、彼女の目的こそは「誰もが幸せになれる状況」の構築だという。あくまで「状況」の構築であって、手ずから幸せを配るわけじゃないのですけれど、ある意味「ゼイセイ」と同じ分配のための状況の構築なんですよね。これもまた、言わば「支配体制」の構築なわけだ。
翻ってみると、銭ゲバ勇者メイが漠然と抱いていた大目標ってのは、最底辺の環境で一方的に搾取されていた幼い頃の自分のような人間を減らすために、富がかつての自分のような者にも行き渡るような再分配を行えるような立場を手に入れたい、というものでした。
そんな彼女にとって、魔王による世界の半分上げるよ、というお誘いはある意味渡りに船だったのでしょう。彼女が世界の半分の「支配」にあれだけ拘って、贈与税をかわすために魔王と偽装結婚してでもしがみついて確保しようとしたのは、まあ一度手に入れたものは離したくない銭ゲバ根性もあったのでしょうけれど、それ以上に彼女メイの最終目標にダイレクトに近づけるのが、世界の半分の支配だったからなのでしょう。
もっとも、その支配のやり方を彼女は何も知らなくて、だからクゥや魔王ブルーと一緒に追徴課税の解消のために駆け回るなかで、税理士クゥが教えてくれる税制の実態を通じて、具体的に富を分配するというのはどういう事なのか、というのを体験していくわけですなあ。

その過程で、一緒に駆け回ることで魔王ブルーと親密になっていき、彼の人となりを隣で実感し、また彼と自分が同じ方向を向いて走っていることがわかってきて、と偽装夫婦が段々と偽装じゃなく成っていくラブコメ成分もまた濃厚で素晴らしかったんですよね。
魔王よりも魔王らしいと魔王から太鼓判を押された苛烈過激なワンオペ勇者メイ。彼女もまた、幸せの再分配の当事者だった、というのもお話の妙でありました。
敵の黒幕達の陰謀を打破するきっかけが、魔王ブルーがお忍びで配り歩いていた「不幸をせき止める幸い」のおかげだったんですよね。これも、魔王の支配、の一つだったと思えば面白く。そのブルーの分配が回り回って、みんなの幸せへと還元されていく。メイも、そのサイクルの中に入っていた一人で、魔王が配った幸いのおかげで志を得て、勇者になって、その結果ブルーの元に幸せを運び一緒に受け取る人になる、というのはなんともこう、微笑ましいというか素敵なお話じゃあないですか。

実際の税制がそんな有徳なシステムになっているかというと、まあそこは人間社会の限界とか不具合とか理不尽が相まって、どうしたって機能不全を起こしていて、不満がたまるものになっているのですけれど。現実は厳しい、辛辣。でも理念、そう理念として税制とは、支配のシステム、幸せの分配機構として在るのだと、それを感じることが出来ただけでも、なんか読んで良かったなー、と思える作品でした。
いやほんとにこの理念的なもの、財務省各位には是非とも身に沁みてほしいなあ。

ツボったのが、勇者専用装備が個人専用のために市場価値がまったくなし、資産価値ゼロ! と評価され、芸術品、歴史的遺物としての価値を問われても、人類共有財産なので、つまり勇者へ貸与、レンタル品だから、税の徴収対象には当たりません! と味方のはずのクゥちゃんに無茶苦茶言われてて、メイがへこむシーンでした。いやこれ、ドラクエなどのRPGで専用装備が店で売れないの、そう理由だったからなのか! と、めっちゃ納得した。そりゃ、リース品だったら売っちゃダメだよね!