【転生王女と天才令嬢の魔法革命 3】  鴉 ぴえろ/きさらぎ ゆり 富士見ファンタジア文庫

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転生王女と天才令嬢は今、二人の未来のために向かい合う。

アニスフィアが王になる。姉弟喧嘩から狂いだした歯車。疲弊していく王女を隣で見続けたユフィリアは、彼女のため一つの決意をする。だが、それこそがアニスフィアにとって譲れない一線で――

前回、アルくんに言って聞かせて全部空回りしてしまった説得が、今度アニスが次期国王となってしまった事でそのまま返ってきてしまった感がある。彼女は弟に諭しこう語った。人生を楽しめばよかったのだと。
でも今、王にならんとするアニスはそれを楽しめただろうか。
彼女が身体を張って止めようとしたアルによる既存の社会の破壊。それを彼女は自分が王になることによって、自ら行うことになってしまった。それは魔法を使えない身と貴族の存在を無にする革新たる魔学を伴う以上、逃れられない必然だ。アニス自身が既存の社会の在り方を破壊する存在である以上、彼女が王となるということは既存の社会の否定になってしまう。しかし、王の成りてが他にいない以上、選択肢は存在しない。父たる国王は緩やかな変革を諦め、アニスは覚悟を決めた。
アルが叫んでいたじゃないか。魔法は呪いだ、と。国王となることは生贄になることだ、と。
今、アニスが王になるということは、アルとは形が違うとは言え国の生贄になるということ。彼女の自由が失われてしまうということ。彼女が憧れ追い求め続けた魔法は、きっとアニスにとっての呪いになるだろう。
アニスは立派な王になるだろう。反発から多くの血が流れ破壊が伴い国の在り方は変わり、しかし彼女はやり遂げるだろう。
でも、そこにアニスの笑顔はない。アニスの幸せはない。
人生を楽しめ? かつてアニスがアルに語った言葉だ。それを今、彼女は自分に告げることが出来るだろうか。言われて、それを受け入れられるだろうか。きっと、絶望に嗤うに違いない。

この巻では、弟に替わって王座を継ぐことになったアニスの心情が深く深く語られている。
彼女がいかに自分を殺し、王になる覚悟を決めたのかを。
そして、そんな無理を重ねて本当の自分を仮面で塗り固めていくアニスを目の当たりにして、打ちのめされていくユフィの無力感を。
ユフィは、アニスとアルの姉と弟の衝突に際して、結局大したことは何も出来ないままだったんですよね。傍観者とまでは言わないまでも、彼女としては何も出来ないままだった、と思う所は強かったでしょう。アルがああいう結末を迎えてしまった理由の一旦は自分にある、という自責も募っていた。
そこに、アニスがアルと同じ繰り返しになろうとしている、二の舞になろうとしているのを前にして、再び突きつけられるのである。正しい貴族としては、そんなアニスを支持して支えなければならない、という事実に。国のため、アニスには立派な王になってもらわなければならない、と彼女が受けた教育が物語っている。でもそんな正しさが、アルを潰してしまった。アニスを傷つけてきた。今更に、あの太陽のような姫の輝きが失われようとしている。アニス女王が国を照らす代わりに、アニス自身の輝きは曇り果ててしまうだろう確信がある。それを再び傍観しようというのか。
葛藤する、苦悩する、現実は揺るぎもせず選択肢の無さを突きつけてくる。
ここでユフィもアニスも、自分の本心と、感情とこれでもかというくらいとことん向き合うことになるんですね。義務や責務、仕方ないという諦めの向こうに押し殺した本当の気持ちと。
これ、本当に作者である書き手が登場人物たるアニスやユフィの心情と本気で向き合った結果だと思うんですよ。複雑で時に矛盾していて相克しているもどかしいくらい揺れる剥き出しの感情が、ぶちまけるように書き殴られていくのである。それは、アニスとユフィが本音でぶつかり合うことで、さらに加速していく。衝突してぶつかってぶつかって、気持ちをぶつけ合うことでその更に奥の思いを暴き出し、掻き出して、掘り出して、剥き出しにしていくのである。
それは、書き手側から与えられた、被せられた、着せられたものではあり得ない生々しい感情なんですよね。キャラクターに問いかけて問いかけて、様々な方向からアプローチして探って確かめて返ってくる反応を拾って、かき集めて、そうして形にしていったもの。
どうして? どうしてそんな風に思うの? どうしてそんな風に行動していたの? なんでそんな事を言ったの? なんでその人にそんな素振りを見せたの? そうやって問いかけて問い詰めて、心のウチを確かめていく作業。断片を分析し、そのキャラクターそのものをバラバラにして解体して、明らかにしていく作業。曖昧模糊として形にならないものを、丁寧に磨いて磨いて、言葉にしていく作業。文章にしていく作業。それは深い深い水の底に息を止めて潜っていくような、苦しくて辛くて、気が遠くなるような作業だ。でもそれによって聞こえてくるのは、そのキャラクターの生の声。与えられたセリフではない、そのキャラの境遇、性格、歩んできた人生、積み重ねてきた経験、周りの人達との人間関係。そういった複雑で重厚に入り組んだ構成の奥底で育まれたものを汲み出した、本物のそのキャラの声だ。叫びだ。
アニスの悲鳴も、ユフィの祈りも、王妃の涙も、確かのその人の心からの声なのだ。
よくぞここまで、と思えるほどの心情描写でした。生の声だからこそ、ダイレクトに心を叩いてくる。こんなにガンガン叩かれたら、痛いですよ、熱いですよ。辛さも苦しさも悲しさももどかしさも、全部ダイレクトに伝わってくる。
よくぞ、ここまで描いたものです。キャラクターに向き合ったものです。剥き出しになるまで、掘り下げて掘り起こしたものです。
凄かった。
いやもう、アニスにしてもユフィにしても、気持ちが器を満たしきってしまって、ダバダバと溢れかえってしまったのは嫌というほどわかってしまったので、ユフィがアニスに対してああなってしまったのも、なんかもう仕方ないと言うか当然というか必然に思えてしまいました。あそこまで感情を注いでしまったら、もう性別とか関係ないですよね。ユフィの方、なんかこう染まってしまったというか、塗り替わってしまったというか。決め込んでしまった分、食らう側になってしまった感がありますが。これ、攻守完全に交代しちゃってますよね。

話的にはここで最終回でもおかしくないくらいだったのですが、一部終了という形で二部以降も続けていくつもりみたいなんですが……そうなったらなったで、何を見せられることになるんだろう。
それが怖くもあり楽しみでもあり……。