【氷の令嬢の溶かし方 1】  高峰 翔/加川 壱互 モンスター文庫

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「私に構わないでください」
ぶっきらぼうながらも、世話焼きな火神朝陽と心を閉ざし、他者を寄せ付けないことから"氷の令嬢″と呼ばれる氷室冬華。
マンションの隣に住んでいるとはいえ、関わる機会がなかった二人だが、朝陽のお節介から冬華との関係性に変化が訪れ……。
第8回ネット小説大賞受賞作! じれったくも甘酸っぱい遅効性ラブストーリー

明確に他人を拒絶している相手と仲良くなるのは概ね難しい。彼女、冬華の場合は特に言葉にして自分と関わるな、と一線を引いている人物である。態度や物腰から誤解を受けて孤立している、という訳ではない以上、バッサリと仕切りを立てられているのに、それを押しのけたり迂回してわざわざ嫌がっているのに接触を図ろうとするなんてのは、普通は嫌がられる。
そして、主人公の朝陽はそういう強引なタイプではない。世話焼きなどと言われるけれど、要らないと言っている相手の言葉や意思を無視して余計なお節介を焼くような人間ではないという事だ。
だから、朝陽と冬華が関わりを持つようになったのは、本当にタイミングの問題なのである。タイミングが合った、それが運命的に二人を結びつけてしまった。
他人を拒絶しつづける冬華をして、どうしても独りではどうしようもなかったタイミングで朝陽が行き会ってしまった。正直、朝陽が行ったことは本当に常識的な範疇だったと思う。無理押しはしなかったし、心から拒絶されたら、或いは手を貸すことが本当に必要じゃない状況だったら、彼は手出ししなかっただろう。その意味では非常に抑制の効いた良識的な対応だったと思われる。
問題は、冬華が一人暮らし生活に盛大に失敗していた、ということで。冬華自身もどうやらいっぱいいっぱいで、これダメなんじゃないかしら、と自覚せざるをえないタイミングだった、という所なんですよね。だから、心から拒絶出来ずに精一杯の拒否や遠慮も強がりの範疇に終始してしまった。実際、体調を崩して朝陽の前で倒れてしまった以上、限界を振り切っていた事はバレてしまっていたわけですし。
それでも、冬華が熱で倒れた場面で朝陽が行き会ったという場面以外にも、幾つかの出来事が重なったことで冬華が強がりを押し通すことができなくなった、という意味でも、朝陽がこれはちょっと手助けしてあげないとちょっとヤバそうだ、と思わざるを得ない状況になってしまった、という意味でも、タイミングが合ってしまった、と言わざるを得ないんですよね、これ。
もしこれ、ちょっとずつでもタイミングがズレてたら、お隣同士とは言え彼らの間に縁は生じなかったでしょう。氷の扉に生じた亀裂の隙間から、朝陽がヒョイッと中を覗くことも、冬華がおずおずと顔を出すこともなかったでしょう。
そう考えると、なかなか運命的じゃないですか。

そうして生じた縁、或いは恩と義理によって、二人の間に少しずつ交流が増えていく。交流が増えれば、お互いに知ることが増えていく。冬華がわりと見栄っ張りだったり、勉強が教え上手だったり、逆に料理のセンスが皆無だったり。美味しいものを食べさせてあげると表情が和らぐこと。笑うと、ふわりと暖かな雰囲気をまとうこと。
冬華がなぜ、他人をあそこまで拒絶していたのか。学校でも人を寄せ付けず、孤高を保っていたのか。その理由はまだ明かされない。
でも、少しずつちょっとずつ、彼女のこわばった頑なさが溶けていく。一緒に過ごす時間が段々と居心地良くなっていく。柔らかくなった彼女の顔を見つめていると、胸の鼓動が高鳴っていく。自分の顔が熱くなっていく。
それはもう、誰がどう見ても恋じゃないですか。
両親が営むレストラン、ドレスコードが求められる超一流の三ツ星レストランであるそこに、両親から友達を連れてこいと招待されて、朝陽は冬華を誘って冬華はそれに行きたいと応えて、二人で訪れることになる。
時はクリスマスイブ。そんな日に高級レストランで二人でディナーを、というシチュエーションの意味を見いださないことがあるだろうか。
招待状のメールを見て行きたいと言ったのは冬華の方だ。でも、朝陽の方もイブの日に彼女とディナーを楽しむことを選んだわけで。
おまけにクリスマスも二人で過ごして、プレゼントを交換して……。
一般的に、ただのトモダチに過ぎない男女が二人きりでクリスマスイブとクリスマスを一緒に過ごしたりはしません、しません。
朝陽の方はもう完全に意識しまくっているわけで、冬華の方もわざわざ自分の方から誘ってクリスマスとイブを共に過ごしたという時点で、なにもないはずがない。書き下ろしの短編を見たら、もう彼女の方も完全に満更じゃないようですし。
あとは時間の問題……のはずなのですが、ここでほとんど事情がわからない冬華の家庭のことが関わってくるのでしょうか。もう氷の方はほぼほぼ溶けてしまっている気もするのですけれど。