【僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない】  紙城 境介/羽織 イオ 星海社FICTIONS

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本格ラブコメ×本格ミステリ、開幕!

生徒相談室の引きこもり少女・明神凛音は真実しか解らない。
どんな事件の犯人でもまるで神様の啓示を受けたかのように解ってしまう彼女は、無意識下で推理を行うため、真実に至ることができた論理が解らないのだった。
伊呂波透矢は凛音を教室に復帰させるため、「彼女の推理」を推理する!

『継母の連れ子が元カノだった』の紙城境介が紡ぐ新たなる勝負作!

紙城先生、ほんとジャンル問わずに上手いよなあ。【継母の連れ子が元カノだった】が代表作となった紙城先生ですけれど、その書籍デビュー作は「ミステリー」でした。それもファンタジー世界における魔法を使った殺人事件、千年の因縁と祈りを紐解く超歴史的殺人事件というミステリー。
これがまためちゃめちゃ面白い、という以上にストーリー展開にしても演出にしても凄く巧かったんですよねえ。
そして再び今作にてミステリー作品と来た。体裁こそ日常や学生生活の中で生じた謎を解く日常ミステリーですけれど、本作が生半可なミステリーと異なっているのはあらすじからも明らかでしょう。
これは犯人や真相を推理するミステリーじゃない。過程をすっ飛ばして「天啓」によって導き出された真実、その真相に至るために演算されたはずの「推理」を「推理」するミステリー。

明神凛音は真実しか解らない

計算機に数字を打ち込めば、計算式をすっ飛ばして答えが出てくるように。
コンピューターに数値を入力すれば、その過程を内的に処理して答えだけを出してくれるように。

凛音は自分でもなぜ解ったのか解らないまま答えを導き出してしまう。それが真実、でも真実を証明するすべはどこにもなく、過程がわからない凛音自身にもそれを証明する事は出来ない。
なかには凛音に超常的な能力があると思い込み、それを「天啓」と呼んで神からの託宣や預言のようにありがたがる者すらも身内から出てしまう始末。
しかし彼女の能力はそんな神がかりのものではなかった。ただ、得られた情報を無意識下でスーパーコンピューターが演算するように超高速で処理し……瞬時に推理していただけ。いや、その能力ですら余りにも人間離れしていて、人間はそれを認められない、人の社会はそんな形で導き出された真相、答えを受け入れられるように出来てはいない。
そのため明神凛音は人の社会から孤立していた。自分のあり方が誰からも受け入れられず、理解されないと諦めていた。当然だ、明神凛音自身ですら自分の「天啓」を理解できなかったのだから。
どれだけ真実を話しても誰も信じてくれない、誰も話を聞いてくれない。
そうして世界と自分とを隔てて引きこもろうとしていた彼女の前に、一人の少年が現れて自分は弁護士志望だと告げた上で言ったのである。
弁護士とはこの世で最も、話が通じる人間のことだ、と。

推理の工程を、語らなければならない。答えへと至る筋道を示さなければならない。彼女が言う「自明の理」を、誰にでもわかる形で解き明かさなければならない。

そうして二人の事件簿がはじまった。明神凛音の誰にも理解できない「推理」を「推理」する謎解きが。
それは通常のミステリーとは真逆の工程をたどる。まず、答えが提示され、そこからなぜその答えが導き出されたのか、明神凛音に入力されたであろう「情報」を、真相に至る材料となった情報の収拾とブラッシュアップを行い、真相から逆算して「情報」を当てはめ、答えに至る筋道を、方程式を構築していく。
これがまた、べらぼうに面白い。通常の謎解きの工程を辿らないので、思わぬ展開、思わぬ思考の方向性、思わぬ発想気づきが思わぬ所から飛び出してくる。
ただ得ただけでは意味を捉えきれない情報材、それがどんな意味を内包しているかを読み解いていく、それが連鎖的に繋がっていく。
そうして見事に論理的に「推理」が構築され、明神凛音が明示した「真相」に至ったときの痛快感。なるほど、これは方程式だ。穴埋めのパズルだ。

それに。
答えを出した明神凛音が、お手並み拝見とばかりに高みの見物、をしてるわけじゃないんですよね。
真相を、犯人を暴いた張本人である凛音も、自分の「推理」がどういう筋道を辿ったかまったくわからないために、立場としては透矢と同じなんですよね。なので、透矢と一緒に自分の「推理」を推理していく相方となりコンビとなり、相棒となっていくんですね。
さらには、真相に至る「推理」の形に辿り着いた透矢に疑義をただす役回りすら担うことになる。
自分の出した答えを証明してくれる透矢に、なんでそうなるのか、なぜそんな風に考えられるのか、なんでそんな答えに至ったのか。わからないこと疑問に思ったこと理解できないこと、それを透矢に問いただして、理解を、納得を得ていくのである。
これ、考えてみると錯綜してるんですよね。倒錯、と言ってすらいいのかもしれない。この瞬間、伊呂波透矢という少年は明神凛音当人よりも明神凛音の思考を、考えを、無意識の領域を、明神凛音の一番奥底を理解している、掌握している、把握している、という事なのですから。
自分自身よりも自分のことを「解っている」男の子。どれほど鋭く瑕疵と思われる部分を突いても、疑念を生じさせても、彼は明朗に自分の無意識下の思考を正確にトレースして語ってくれる、話してくれる、証明してくれる。
彼こそが、明神凛音を暴き出してくれる。解き明かしてくれる。
この時明神凛音が感じている感覚は、いったいどんなものだったのか。想像するだけで、ゾクゾクしてくれるじゃないですか。
そもそも、諦めきっていた彼女を動かした透矢の言葉がまた必殺なんですよね。きっと彼女の頑なになっていた心に残っていた柔らかい部分をブスリと貫く一言だったでしょう。あまりにあまりに強力な言葉。これ以上強力な「口説き文句」はなかったでしょう。
このジゴロめ。
まあ常々凛音が告げる「気持ち悪い」というセリフもわりと本音な気もしますけどね。いや、実際その日の出来事を詳細に日記として記録してるとか、それも周りの状況や人の反応、行動を正確に記録してるとか。
彼の過去の経験が、彼に強烈な弁護士志望という動機を与えたのと同時に、「証明」という行為に対する執着、執念を産んだ結果、というのもわかるのですが。
客観的に見て気持ち悪いですww

まだラブコメ方面は心の側に踏み込む度合いが少なく、ミステリーの謎解きに寄った構成でしたけれど、結構無造作に凛音に致命傷めいたクリティカルを繰り出してますし、チビギャルこと紅ヶ峰亜衣との微妙な距離感……紅ヶ峰が自分の複雑な気持ちを質しきれずにかなり不安定な攻め方してるのを透矢がまったく理解していない、という微妙さですけれど、この人間関係の描写の妙は紙城さんの得意とするところですから、これからの展開はそれはもう期待大です。
凛音からして、この計り知れないキャラは面白すぎますからね。この娘、ひそかに蛮族だろw