【限界超えの天賦は、転生者にしか扱えない 2 オーバーリミット・スキルホルダー】  三上 康明/大槍 葦人 富士見ファンタジア文庫

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お嬢様に迫る危機を払いのけ、全知全能者として世界を救え!

全知全能の天賦珠玉を手に入れてから4年ーー。成長したレイジはラルクの情報を求め、貴族のお嬢様・エヴァの護衛の任についていた。幼き彼女に迫るは魔の手、レイジは命を賭し彼女を守り切ることができるのか!?

全知全能者ってまたこのあらすじ、強い言葉を使うなあ。確かあらすじ限定で、本編ではこんな風な書かれ方はしていなかったと思うけれど。
こういう風に書かれると、それこそ神様みたいな強大な力を振るえるみたいに見えてしまうけれど、全知全能というにはだいぶ機能も弱いし限定的だし、何よりレイジは「森羅万象」の天賦珠玉に依存することも驕ることもなく、うまく利用することで自分を研鑽することで、「森羅万象」に頼り切りにならない、場合によっては使えない場面でもなんとか出来るように頑張ってるんですよね。
もともと謙虚であり善良な子ではありましたけれど、こういう直向きな所はやはり最初に出会ったダンテスさんたち「銀の天秤」の影響は大きいのでしょう。
彼らの優しさ、心の健やかさに助けられ、守られ、救われたレイジにとって、彼らは恩人である以上に憧れであり、彼らのような在り方こそレイジの人生の指針になっているのではないでしょうか。
それが、「冷血卿」と呼ばれるスィリーズ伯爵とその娘であるエヴァとの関わり方に垣間見えるような気がします。
襲われていたスィリーズ伯爵を救った縁から、エヴァの護衛に雇われることになったレイジ。情報の扱いに長けたスィリーズ伯に報酬として姉と恩師の孫娘にまつわる情報を引き換えに、彼の依頼を受けたレイジにとって、最初はエヴァの護衛というのはまあ仕事にすぎなかったわけです。
まあ仕事に過ぎないというのは言い過ぎで、まだ12歳の少女を守るのにビジネスライクも何もなく、もとより聡明で良い子であったエヴァを危険から遠ざけるのに否応などあるわけがなく、身を入れて彼女の護衛に徹するレイジなのですけれど、エヴァという少女の魂の輝きはそんな気持ちの入り方じゃ全然足りないものだったんですね。
一つ経験を得るごとに、見違えるように大きく翼を羽ばたかせていくエヴァ。その心の成長は、見る人の鼓動を激しく高鳴らせてしまうような、そんな素晴らしいもので、見守るレイジをして思わず魅入られてしまうような、夢中にさせられてしまうような、そんな眩しいくらいの輝きだったのです。
そんな今鳥かごの巣の中から飛び立とう、羽ばたこうとしている雛を目の前にしたら。
かつて、鉱山から逃げ出して右も左もわからなかったレイジを拾い、救って、守って、導いてくれたダンテスさんたち「銀の天秤」のように、レイジもまた憧れ尊敬する彼らの姿に倣うことに何の躊躇いもなかったのではないでしょうか。
純粋に、この姿以上に心の美しく強い少女と、不器用に娘を愛する父親を応援してあげたい、彼らがより良き未来へ歩めるように細やかでも手助けしてあげたい、と善良なレイジが思うことは自然ではあったでしょうけれど、かつて庇護される側だった自分がしてもらった事を、この素敵な父娘に同じようにしてあげたい、そう倣うことで「銀の天秤」の人たちに胸を張れる、そういう思いもあったんじゃないかなあ、と。
幼い頃、レイジはずっと守られる側でした。姉ラルクに対しての親愛の想いも、ずっと自分を弟と呼んで庇い守ってくれたことへの感謝が多分に含まれてるんですよね。そして、「銀の天秤」のメンバーに対してもそう。
四年という月日が流れ、レイジは大人と言うにはまだ幼いけれど、少年と青年の境というくらいには大きくなって、無力であった悔しさを乗り越えるように強くなりました。
そうして今、一人の少女と一人の父親の人生の岐路に関わり合うことになった時、レイジはかつてと違って今度はそっと手を差し伸べて支える側になれたのです。
尊敬と憧れ、親愛に満ちた最愛の人たちに倣うように、四年という月日は一人の少年にそれだけの人としての大きさを蓄えさせてくれたわけです。
エヴァは立派でした。大人でも心折れそうな大きな事件、災厄の渦中をくぐり抜けながら、むしろ蛹から羽化するように、父であるスィリーズ伯爵の予想を遥かに上回る形で、レイジの期待を軽々と飛び越えるように、目覚ましい成長を遂げていく。それは、レイジが手取り足取り引っ張ってのことではなく、全部彼女自身の意思であり勇気であり思慮であり、自立した決意でもありました。
レイジは側で見守り続けただけ。そっと手を差し伸べて、支えただけ。それこそが、エヴァにとってかけがえのないものであったとしても、主体は常にエヴァにあったんですよね。
個人的に、ラストシーン。レイジとエヴァが手をつなぎ父親という庇護の鳥かごから出て夜明けの静かな街を歩いていくシーン、とても美しくて心に焼き付いています。
そして、そのまま二人で自由な空に旅立つ、のではなく、ここでレイジが繋いでいた手を離す展開には驚愕と言っていいほどの驚きと同時に、感動のような想いが湧き上がったんですよね。
この別れと旅立ちは、ボーイ・ミーツ・ガールとしても父と娘の物語として最上級の美しい情景だったように思うのです。
いつか再び出会ったとき、今よりももっと素敵で幸せな二人になれることを約束するような、皆の未来を祝福するようなお別れ、そんなシーンでした。

スィリーズ伯爵家での経験は、レイジという人間の心に大きく真っ直ぐな柱を立たせるものだったように思います。伯爵とエヴァだけではなく、この聖王国で幾多の出会いを得ることになるのですが、なんていうんだろう、そうして出会った人たちは聖王陛下をはじめとして人間的にも魅力的な人たちでしたし、エヴァと同じように幼子から自覚を持って一廉の大人へと成長しようという眩い子供たちの姿もあり、名もなき一騎士や使用人でありながら人としての良き姿、心すくような在り方を見せてれた人、親愛や友誼を交わしてくれた人が沢山いて、レイジの人生の中でも最良のひとときであり思い出と成り得る時間だったんじゃないでしょうか。

また、このクルヴァーン聖王国で対することになった大事件。天賦珠玉と、調停者と呼ばれる世界にまつわる秘密に関わる出来事は、この世界そのものがなにか一筋縄ではいかない大きな思惑、そして想像を絶する仕組みによって成り立っている事が垣間見えて、なにかとてつもない事が動き出しているという感覚と共に物語が動き出したという雰囲気が走り始めるんですよね。

……しかし、素晴らしきは大槍葦人先生のデザインですよね。このレイジの衣装とか、なんかもうカッコいいとか通り越して、呑まれそうです。エヴァのドレスも、そこらのドレスとは一線を画していますし、ファンタジーとしての奥行きへの味わいが半端ないですわー。

そしてゼリィ姐さんのダメ人間っぷりがちょっと好きすぎるw 
レイジくん、結構ダメ人間好きでしょう、君w