【亡びの国の征服者 3~魔王は世界を征服するようです~】  不手折家/toi8 オーバーラップノベルス

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隣国に迫る戦火。
少年が託された使命は――

家族の愛を知らぬまま命を落とし、異なる世界で新たな生を受けた少年ユーリ。
彼は騎士家の名家であるホウ家の跡取りとして入った騎士院で、王女のキャロルや魔女家の生まれであるミャロらとの交流を深めていた。
学業や訓練の傍ら、ホウ社での製紙業を成功させ、さらなる事業拡大を目論むユーリ。
全てが順風満帆かに見えたが、ユーリの目はやがて来たる祖国の亡びへと向いていた。
そして自分や大切な人々が生き残るための一手――“新大陸の発見"を目指し、ユーリは遠大な計画を推し進める。
そんな中、隣国であるキルヒナ王国に“もう一つの人類"であるクラ人の侵攻が迫っていた。
そしてユーリは女王から、隣国の戦争とキャロルに関わる一つの“厄介ごと"を頼まれることに……?
のちに「魔王」と呼ばれる男は、緩やかに、しかし確実にその運命を辿りつつあった――。
「小説家になろう」で話題の超本格戦記譚、戦火が忍び寄る第3幕!

これ、斗棋戦決勝戦の顛末はある意味象徴的なのかもしれない。
ホウ社の社長として、魔女家の強欲さ傲慢さと相対してきたユーリは魔女家のやり口というのを嫌というほどわかっている。だから、自分の名誉を投げ売っても相手と妥協できるラインを探るつもりでアプローチしていたにも関わらず、相手には全く伝わらなかった。
魔女家の卑しさと愚かさが、ユーリの想像を遥かに上回っていたわけだ。だからこそ、ユーリは利益調整のための妥協も融通も放り出して、文字通り正面から相手を叩き潰した。その程度の相手でしか無ったわけで、相手は魔女家の中でも劣悪な愚物にすぎなかったのは間違いない。
ただ、彼女が理由はどうあれユーリの想像を上回った、或いは下回ったのは確かだ。それは彼女が愚かだったから、とも言えるのだけれど、それ以上に品性の下劣さ、魂の腐敗からくるものなんですよね。そして、その魂の腐敗は有能さ無能さ関係なく、魔女家の宿痾だ。シヤルタ王国の7大魔女家のみならず隣国のキルヒナ王国の魔女家など、既に滅びたシャン人国家全体に跨る「魔女家」という存在、そこに属する者たちがもうどうしようもないくらい根から腐り始めている。
シャン人国家の成長を妨げ、社会の熟成を妨げ、今国どころか種をも滅ぼそうとしている。
それをユーリはわかっているようで、想像しきれていないのではないだろうか。図らずも、隣国への観戦武官として次代の国を担う若者たちを経験を深め箔をつけるために派遣しようという女王に対して、ユーリが抱いた危惧と重なるように。
でもそれは仕方のないことでもある。魂から腐った者の頭の中など、まともな人間なら想像だに出来ないからだ。どれほど賢明でも柔軟でも、いやだからこそ想像も予測も想定も出来ない。その腐敗に毒されなければ、その頭の中はどうやったって共有できないのだ。
ミャロも魔女家の出身だけれど、彼女はその意味ではどうしたって魔女家の人間とは言えないんですよね。
ミャロの両親の話を見ても、魔女家の女というのが本当にどうしようもないのがわかってしまう。
自分たちが幸いを得るためならば、何をしてもいいと考えているような奴ら。そのためなら罪悪感も抱かず、他人を虐げ陥れ不利益を見舞うことを当たり前と考え疑いもしない奴ら。逆に自分がそれをやられることをどうしても許せない奴ら。目先の幸いに飛びつき、その結果どうなるかなど何も考えていない視野狭窄した連中。それが魔女家というものだ。
ミャロもユーリも、それをちゃんと頭では理解しているし、実に現実的な対処、対策をとっていると言える。でも、本心から理解できない存在を、本当の意味で想像する事はどうしたって出来ないんですよ。
斗棋戦決勝でのユーリの小さな失敗は、ユーリ自身備えをして対策もしていたことから思惑違いにも当たらない範疇でしたでしょうし、それも相手の度し難い愚かさから生じた錯誤であって、取るに足らないものだと捉えていたのではないでしょうか。
どれほど悪どくても、悪どく狡猾だからこそ、有能辣腕の魔女家とは既得権益者ではあるものの、だからこそ話し合える、利害調整が出来る、と考えていたのではないでしょうか。
でも、こればっかりはどうしようもないもんな。想像だに出来ないことに、どう対処すればいいのか。決して、ユーリの甘さが招くことではないと思うんですよね、先のことは。
だからこそ、斗棋戦決勝の件は象徴的とも言えるのではないでしょうか。

さても、ユーリが運営する事業は、半ば大博打に近かった船舶による貿易の成功によって莫大な利益を得て巨大な商業力を持ち始める。キャロルの親友という王家に近い立場と有数の将家の嫡男という立場は、既存の勢力を脅かす新たなパワーと成り得る所まで来てしまっているのですが、ユーリの頭の中では既にシヤルタ王国の未来は非常に危ういものになっている。
クラ人国家の連合が着々と侵攻を続けて、今隣国を崩壊させようとしているとき、この国はもう持たないと思っている。彼が事業を大きくしようとしているのは、将来国が滅びる時に親しい者たちを別の大陸に逃がすため、という確固とした目的があるわけですけれど、国家の寄生虫である魔女家には国が滅びる、今のこの社会が消えてなくなるなんて想像も出来ない、今まさに隣の国が崩壊しようとしている最中にも関わらず。だから、メキメキと勢力を拡大するユーリの事業について、本来なら訳のわからない方向から危険視していっている。その錯誤が、致命的になるその運命の一歩が、このキルヒナへの観戦武官としてのユーリやキャロルたちの派遣になるわけだ。
正確には、その際に起こってしまった出来事により生じるものが、なんだけれど……。

16歳から18歳という一番の青春を過ごす時代。傍目よりもむしろ心中でこそ斜に構えすぎてるユーリだけど、傍から見るとこれ恋愛に対して潔癖、なのかしら。ドッラ相手に下世話な話していてキャロルからキレられるあたり、決してそんな事もないと思うのだけれど。あんまり現状では興味がない、という風に見るべきなのか。でも、彼の心中での皮肉屋めいた物言いってのは、どちらかというと偽悪的なものだとも思うんですよね。自分はまあこんなやつだ、というユーリの自分自身への思いから来ているような物言いであって、果たして他人の目からみるとどうなのか、て話ですよね。
ミャロは随分とキレイに見すぎている気もするけれど、彼の誠実さと情の厚さは、当人が思っている以上のものがあり、彼と親しくしている者たちはそれを快くも重く受け止めているようにも思う。
実際、人望はかなり厚いと思うんですよね。
なので、ユーリは自分自身が思っている以上にキャロルの事も大事に想っている。
それが一番わかってそうなのが、ミャロなのがなんともはや。彼女はそれをしっかり受け止めているようだけれど、それこそが彼女の献身性だよなあ。健気すぎるくらい、というのはユーリも危惧するところだけれど。その態度は親友というよりも相棒と言うよりも信奉者に近いところがあるんですよね。
だからこそ、まあミャロとキャロルが今、親友として胸筋を開くような関係、ミャロが自分の両親のことを、自分の在り方そのものをキャロルに打ち明けるような関係になっている、というのは感慨深いものがあります。本当の意味で自分の全部をさらけ出しあって打ち明け合うような関係ではないですけれど、そんな全部繋がってしまったような関係というのは、いざという時雁字搦めになって動けなくなる所もあるだけに、嘘も思惑も孕んでいるからこそ相手のために動ける関係というのは、それはそれで親友同士と言って過言ではないのではないでしょうか。
この関係だからこそ、ミャロはユーリよりも何よりもキャロルの意思を優先する決断を取れることになるわけですから。


というわけで、着々と近づいてきた戦争の影に、自ら踏み込む羽目になったユーリたち。
この世の地獄を垣間見る、その時はもう間近。