【江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる】  七沢 ゆきの/ファジョボレ 富士見L文庫

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歴史好きキャバ嬢、伝説の花魁となる――!【コミカライズ連載決定】

●第5回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞作●

歴史好きなキャバ嬢として活躍していた杏奈(あんな)は、ある日目覚めると花魁・山吹(やまぶき)に成り代わっていた!
現代に戻れないと覚悟した杏奈は、知恵と気っ風の良さで江戸の憧れである花魁の頂点になることを決心する。
しかし直後に、人気を競う花魁に、客から贈られた大切な着物を汚される事件が起こる。その馴染み客は数刻後には来楼予定。汚された着物を着れば機嫌を損ね、言い訳すれば格を落とす。"山吹"の危機に、杏奈は古典から学んだ教養と接客の機転で応じ……?
山吹花魁の伝説、ここに開幕!


この杏奈姐さん、ナンバーワンキャバ嬢として接客の粋を極めているだけでも並外れているのに、元レディースの総長として喧嘩無双してるわ、ちゃんと大学入ってるどころか主席で卒業してる学歴無双だったりというだけでもいい加減役満なんだけど、トドメに歴女なんですよね。
それも並の歴女ではなく興味ある分野だけ詳しいとかじゃなくて、時代背景からがっつり勉強してその時代の知識そのものを吸収してしまったような歴戦の歴女である。ってか、これだけ江戸の風俗や社会情勢や庶民生活の知識や各地の大名の歴代藩主を軒並み覚えてたり花街のしきたりやらに詳しい知識を頭に詰め込んでるって、もう完全に専門家じゃないですかー。さすがは金貯めて史学部に入り直して研究者になろうとしていた根性の持ち主だけありますわー。
この江戸時代に目覚めて、わりと即座に覚悟決めたのもそれだけ肝据わっているというのもあるのだけど、それ以上に「推し」の歴史上の人物やそれに連なる一族の人に直に出会えることに興奮して、イケイケで花魁道極めようとしてるんですよね。生きてる「推し」ってフレーズは新鮮でした。こりゃ、骨の髄まで歴女だわ。
そして何より、性格がイケメンなのがモテる証拠でもあるのです。元ヤンという度胸とキャバ嬢としての愛嬌が相まって、気風の良さと侠気で鳴らす姉御肌の花魁として一世を風靡するのです。
実際、鉄火山吹なんて異名がついて、お武家さん、それも大名クラスを中心に大人気になってしまうのである。それ以上に、この手の姐さんというのは同性にも慕われるタイプなので、禿の双子とは姉妹のように仲睦まじく山吹の方は双子をこの上なく可愛がり、双子の方は一途に慕うという関係になるのが凄く良いんですねー。
陰湿な嫌がらせをしてくる同輩の桔梗花魁とも、正々堂々花魁として彼女の負の感情を叩き潰してみせることで、彼女にまとわりついていた陰の気を吹き飛ばしてしまうのである。
こういう後腐れのない清々しさが山吹花魁の持ち味なのでしょう。これ以外にも迷惑な客なんかもバシッと派手に一発かましながらも、相手を追い詰めること無くむしろ引き立たせることで見事に清算して、より良い関係を導き出しているあたり、ただの鉄火肌じゃないんですよねえ。結構な気遣いの人でもある。誰しもが認めるカッコいい女性なんだなあ。
この当時の花魁というのは、アイドル的な持て囃され方もしていたものですから、江戸の女性たちにも人気になってしまい、押しかけファンまで出てきてしまうのには思わず笑ってしまいましたが。

江戸時代の、それも吉原という花街を舞台としているだけあって、ただの時代劇とは別格とも言える独特の世界観が存在しているのですが、それを見事に解りやすく描き出しているのには感心させられました。一章ごとに30近い注釈解説がついてくるのですが、これのお陰で隠喩や知らない風俗、言葉遣いなんかもすぐに理解できてありがたかったです。それだけ注釈が必要なくらい、かなり深度の深い江戸の知識が散りばめられているのですけれど、そういうのを上手いこと説明文にせずに物語の中に挟み込んで、しかもすっと理解できるように周りの状況や話の運び方なんかも工夫されていましたし、その上で注釈を置いてくれていたので、ほんとわかりやすかった。この巧みさはかなり瞠目に値するんじゃないでしょうか。正直、結構知らないことも多くて勉強になりましたし。
花魁が主人公なのに、やたらと殺陣が必要な大立ち回りがたびたびあるのは、さすがに大変そうと思いましたけど。幾ら元ヤンとはいえそんな喧嘩ばっかりしてられないでしょうに。
あと、松平のお殿様が典型的なバカ殿なんだけど、どうにも憎めないキャラになってて可愛いというかなんというか。でも、こんなおバカでちゃんと大名やってけるんだろうか、心配になってくるぞw