【時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん】  燦々SUN/ももこ 角川スニーカー文庫

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ただし、彼女は俺がロシア語わかることを知らない。

「И наменятоже обрати внимание」
「え、なに?」「別に? 『こいつホント馬鹿だわ』って言っただけ」「ロシア語で罵倒やめてくれる!?」
俺の隣の席に座る絶世の銀髪美少女、アーリャさんはフッと勝ち誇った笑みを浮かべていた。
……だが、事実は違う。さっきのロシア語、彼女は「私のことかまってよ」と言っていたのだ!
実は俺、久瀬政近のロシア語リスニングはネイティブレベルなのである。
そんな事とは露知らず、今日も甘々なロシア語でデレてくるアーリャさんにニヤニヤが止まらない!?
全生徒憧れの的、超ハイスペックなロシアンJKとの青春ラブコメディ!

日本全国浚ってみても、ロシア語のリスニングなんか出来る高校生とか普通居ませんよね。そりゃ身近にロシア人の親族がいるとか、ロシア関係の仕事に親がついているとか、住んでる土地がロシアと近い北海道とか日本海側だったりすれば存在する頻度は跳ね上がるのでしょうけれど、そういうのとは全く関係ない普通の街の中の目立たない高校生の中に紛れてる、とか思いませんよねえ。
油断ではあるが、仕方ない油断ではある。
でも、理解できないからってわざわざ言葉にして声に出して言ってしまう、というのはこれ一種の精神的露出なんじゃないだろうかw
見えないと思って、チラチラと思わせぶりにスカートめくって見せたりするのと同じよう、というのはさすがに語弊があるかも知れないけれど、聞かれちゃマズいこと、恥ずかしくてたまらないことをわざわざ言うことで精神的な高揚を得ている、悦に浸っている、ドキドキしている……ハァハァしている、というのはちょっと「性癖」に足を突っ込みかけている気がするぞ。
そして、それをちゃんとリスニングしているくせに知らんぷりしている主人公。
「はぁ? なんだって?」というラブコメにおける最近だとちょっと古典的な手法に位置づけられるようになってきた「突発性難聴」を、外国語を理解できないフリをしてわからないフリをする、という形で再活用してきたのには、そういうやり方があるのかー、と思わず頷いてしまったり。

バレバレの態度以上のもう誤解のしようもないくらい直接的な異性としての好意が込められた言葉、それをずっと聞かされていたら、そりゃあ意識もするし気にもなる。どれだけ唐変木だろうと、男の子なら美少女にデレデレしたセリフを呟かれ続けていたら普通好きになります、そういうもんです。真理です。
とはいえ、あからさまな好意にホイホイと食いついてしまわないのは、彼の性格故なのでしょう。性格というよりも経験か、現状の倦怠によるものか。
今は全然やる気というものを放り投げちゃっている政近なんですけど、彼ってよくよく話を聞いているとかなり意識高い系なんですよね。なんか彼の中の基準値が高すぎるのか、人とは能力に相応しい高尚な理念をもって働くべき、みたいな考えがどこかにあるようなんですよね。そうでない人間を見下しているというのは一切ないので決して嫌なタイプの人間ではないのですけれど、地位の高い人間はそれに相応しい能力と意識を持つべきという、これは彼の理念なのか家庭環境から植え付けられた常識なのかわかりませんけれど、そういうものが根付いているようなんですよね。そんでもって、彼の中の理念とか標準値からすると、久瀬政近という人間は責任を追うべき立場に立つような高尚な人間ではない、と位置づけられてしまっている。なまじ、周りに彼の理念に相応しい高い能力と意識の持ち主、単純に優れた人物が多かったからだろう。筆頭が、彼が中学時代に生徒会副会長を務めた際に会長をやった幼馴染の周防有希なんだろうけど。
ともあれ、そういう考え方やそれに基づく周りの人間との相対性が政近の自身の評価を著しく引き下げているように見える。もっとも、周りの人間からすると彼の「人を使う」能力は極めて優れていて、彼がいるだけで物事がスムーズに運んでしまうのはちょっとした魔法を見ているかのような鮮やかさですらある。見るべき人はそれをちゃんと見ているし、彼の優れた所も知っているのだけれど、当人だけがわかっていないんだなあ。
アーリャなんか、コンプレックスすら抱きそうなくらいなのに。
彼女の場合は自身が優れていたが故にか、他人を動かすことが上手くできず、むしろ自分が全部やったほうが速いという考え方になってしまったが故に、色々と物事を上手く進められない人間になってしまってるんですね。自覚はあるけど修正はきかない類のものである。
実際問題、大概の事柄はあれこれと人にやらせるよりも自分がやった方が早く片付くのは確かなので、往々にしてこれにハマってしまう人は多い。
ともあれ、意地はってそういうやり方をし続けてきた挙げ句こじらせてしまい、ロシアでも孤立し日本でもどうしても他人との間に壁を築いてしまっていた彼女の、その壁をひょいっと迂回して彼女の所まで来て軽々と手助けしていってしまった政近という人物は、アーリャにとってそりゃもう人生観をひっくり返すような驚きだったわけだ。
そうして観察しつづけるうちに、周りからはやる気のない怠惰で物臭な生徒、という風にしか見られていない政近の優れた部分を理解するのだけど、この娘の可愛らしいところは彼のそういう部分を自分だけが知っている、みたいなちょっとした優越感みたいな独占欲みたいなものを抱いている所なんですよね。なので、自分以上の理解者っぽい幼馴染の有希の存在はアーリャにとっては驚異そのもので、彼女の存在には非常にピリピリしたものを見せている。そして政近の優れたところを段々と知る人が増えていくことには複雑な表情を垣間見せてるんですよね。まあ中学時代の同じ学校の生徒たちはなんだかんだと知っているわけだけど。
ともあれ、このロシアっ娘と来たら誰も理解できないと思ってそうした内に秘めておくべき心情をポロポロと言葉にしてこぼしてしまうものだから、片っ端からそれを聞いている政近くんの居たたまれないこと。
でも、そんな迂闊な所がまた政近をしてこれは自分が見ておいてあげないと、という気持ちにさせている所もあるんですよね。彼女のコンプレックスも、負い目のように感じている自分の性格についても、全部聞いちゃっているわけですから。

しかしこれ、政近の妹ちゃんのポディションってめちゃくちゃおもしろいですよね。キャラ立ちまくっているのもあるけれど、その立ち位置そのものが物語におけるワイルドカードそのものなんですよね。あまりにも便利な立ち位置すぎて、ほんとに何でも出来るんじゃないだろうか。どんな展開、どんな局面になっても介入できると言うか主導権を握って状況を動かすところに居られるというか。
それでいて、アーリャというメインヒロインを脅かすことはまずない、政近とアーリャの一対一のタイマンラブコメ、という観点は揺るがさないんですよね。これはホントにめちゃくちゃ巧い。それ以上にキャラがオモシロすぎるというのもあるんですけど。この性格、このキャラだからこそ、なんでも出来る、という自由自在さを感じるところでもあります。
そういう意味ではアーリャの姉のマリヤさんもちょっと怪しいポディションなのですが。

あと、最後の挿絵でのアーリャのセリフ、キリル文字とかキーボードで打ち込めないから調べるの大変なんですけど! でも、調べました。
うははは、いやそれもう、完全に誤解しようのない直球じゃないですか。アーリャさん、それはもうもろ出しもいいところですから。全部見られてるようなものなのにw
うむ、なんとも色んな「かわいい」が詰まった良き良きラブコメでありました。これは続きも楽しみ。