【幼女信長の異世界統一】  舞阪 洸/tef エンターブレイン

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第六天魔王、幼女の姿で異世界に降臨す!

本能寺で炎に包まれた信長は、寺内に運び込んであった火薬の誘爆によって粉々になった。
しかし、肉体は四散しても、魂は消えなかった。
信長の魂は爆発の衝撃でその肉体を飛び出し、異世界へと運ばれてしまったのだった。

異世界に落ちた魂は、今まさに死なんとしている瀕死の者の体に飛び込んだ。
その者の名は、ロゼリア・ロマネスコ。地方領主ロマネスコ家の長女だった。
そして転生したことを受け入れると同時に当主である父親が討ち死にしたとの報せが入る。
息つく間もなく、彼女は報復のために軍を率いて戦いに赴くのだった――。
舞阪さん、以前に信長を主人公に、それもまだ青年時代の若い頃の信長が記憶喪失になって異世界に召喚されて、みたいな話を書いてたんだけど、また信長主人公でというの本当に信長好きなんですね。
とは言え、同じ信長でも前作の信長とは別の人みたいで正史の信長が転生して幼女に、という話らしいのでちょっと残念。前作、レーベル違うからまず無理だろうけど、戦国日本に戻ったナーガが再び転生して、というのも面白そうだったのだけど。
さても、本能寺で死んだはずが目覚めてみたら幼女と化していた織田信長。まだ状況もはっきりと把握していない所で、ロマネスコ家当主である父が戦死してしまったという一報が入り、領地は大混乱に。
いきなり幼女の身の上で家中を取りまとめなくてはならなくなった信長ことロゼリア。さらに、ロマネスコ勢を破った隣家が、勢いのまま攻め寄せてくる。なかなかどころじゃないハードモード。実質、詰みとしか言えない状況からスタートさせられたロゼリアの未来や如何に、てなもんで。
ある意味色々と思い悩む暇もなく悪化し続ける状況に対処せざるを得なくなったのは、むしろ好都合だったのかもしれない、ロゼリアにとっても。異質な存在と化した幼女に、勢いのまま呑まれ従うことになる家中の面々にとっても。
まあロゼリアとしては、不本意な状況だったでしょう。織田信長の戦の仕方というのは兎にも角にも準備段階で勝ちを確定させてから動き出すのが必定。そのためには時間をじっくりかけて慎重に我慢強く粘り強く天秤を傾けていくのが信長のやり方と言えましょう。
でも、彼の人生の中でもそう悠長なことを言っていられなくて、主導権を相手側に握られたまま状況が悪化していくことは侭あったわけです。
そういう時、信長という人物は凄まじくアグレッシブに拙速果断に動き出すんですよね。ここはじっとしていては詰まされる。状況を打開するにはとにかく自分から先頭に立って動いて雪崩を打って崩れていく展開を食い止めることが出来ない、と判断するとべらぼうなフットワークを見せるのである。
桶狭間はあまりにも有名だけど、作中でも語られている天王寺砦を巡る戦いでの果断さには眼を見張るものがありました。本願寺勢に攻められ今にも落とされそうになっている天王寺砦に、一報を聞いた信長は即座に出撃して、かろうじてついてきた100前後の騎馬だけを引き連れて包囲網を突き破り、砦に入城するや兵を鼓舞して今にも陥落しそうだった砦を、援軍が追いついてくるまで支えきって見せてるんですよね。
この時、天王寺砦が陥落していた場合、畿内から一気に織田家が追い落とされてもおかしくない、一種のポイント・オブ・ノーリターンがここだった、とも言えるだけに、自ら先頭に立って織田軍の崩壊を防いだ信長のそれは、前線指揮官としての才能もこれ際立ってたんじゃないかな、と思えるところなんですよね。

そして、危急に見舞われたロマネスコ家にあって、信長が転生したロゼリアは天王寺砦の時を彷彿とさせるように、ひたすらに迅速果断、疾風迅雷のように速く激しく動き立ち回り続けるのである。
実のところ、このときのロゼリアの動き方って天下人のようなどっしりとしたものではなく、戦国武将としての覇気と巧緻、武人としての迫力と戦国を渡り歩いたものとしての奸智を想起させるもので、特段「信長」を意識させるものではないとも言えるんですよね。
信長の来歴に当てはめて、ロゼリアが選んだ手段を色々と解説説明はしていますけれど、ある意味優秀な戦国武将なら嗜みで習得しているだろう手段や考え方とも言えますし。

ただ、幼女になっても消えないその武威。幼子を前に、大の大人がみな萎縮するほどの覇気。これこそが、天下人の貫目というものなのかもしれません。
本来ならどう転んでも絶体絶命を通り越して、王手あるいはチェックメイト以前にもう勝負が成立していない、投了が済んだあとだろう、というようなところから、家中を一気にまとめ上げ敵軍に一発ぶちかまし、領地を掌握していくその手練手管の見事さと迅速さは、描写の質実剛健とした巧みさと安定感もあって非常に面白かった。舞阪さんの戦記物はなんだかんだと戦争描写がどっしりと落ち着いているので読み応えあるんですよね。
しかし、身内にこれといった将帥がいないのが玉に瑕、と思ってたらとんでもない所から槍が飛んできた。いや、有能切れ者大人物がみんな女性に偏っちゃってしまったのはこれ大丈夫なんだろうか。
そもそも、信長さん女になってしまったことについてまだちゃんと落ち着いて考えてる暇なかったからあんまり真剣に考えてないみたいだけど、将来どうするつもりなのかねえ……いや、この人生きた時代背景的にも男もいける口だったか、そう言えばw

取り敢えず喫緊の侵略の危機は回避できたようなので、ひとまず落ち着いて領国の運営の方に力を傾けることが出来るのかしら、これ以降。

舞阪洸・作品感想