【ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います】  香坂 マト/がおう 電撃文庫

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強くてカワイイ受付嬢が(自分の)平穏のため全てのボスと残業を駆逐する!
 デスクワークだから超安全、公務だから超安定! 理想の職業「ギルドの受付嬢」となったアリナを待っていたのは、理想とは程遠い残業三昧の日々だった。すべてはダンジョンの攻略が滞っているせい! 限界を迎えたアリナは隠し持つ一級冒険者ライセンスと銀に輝く大槌(ウォーハンマー)を手に、自らボス討伐に向かう――そう、何を隠そう彼女こそ、行き詰ったダンジョンに現れ、単身ボスを倒していくと巷で噂される正体不明の凄腕冒険者「処刑人」なのだ……!
 でもそれは絶対にヒミツ。なぜなら受付嬢は「副業禁止」だからだ!!!! それなのに、ボス討伐の際に居合わせたギルド最強の盾役に正体がバレてしまい――??
 残業回避・定時死守、圧倒的な力で(自分の)平穏を守る最強受付嬢の痛快異世界コメディ!

 第27回電撃小説大賞《金賞》受賞作!

往々にして自分は受付しにいく側で、受付する側になった事はないのだけれど、あれはあれで大変なお仕事だというのは多少なりとも理解しているつもりである。
ただ笑顔浮かべてお客さん相手に受け答えしているだけじゃないのだ。受付業務というのは、まーあれやこれやアホみたいに事務処理だのなんだのが積み重なっているものだというのはよく聞く話。お客さん相手に話しているのなんて氷山の一角なのである。そのへん、ちゃんとわかった上で敬意と礼節をもって接しましょうね。
なんて言っても、受付カウンターを隔てたあっちとこっちはまさに別世界。あちら側の苦労や悩みなんてのはどうやったって理解はされないし、理解も出来ない。
冒険者なんてヤクザで夢見がちな職業に人生賭けている連中は、当然「価値観の隔たり」なんてものは概念すら知らないだろう。受付カウンターの向こうでニコニコと笑っている受付嬢たちの笑顔の下で一体どんな罵声と呪詛と怒声と怨念が飛び交っているか、なんてのはまー想像すらしていないに違いない。
……こういう荒くれ者相手の受付業務って、平素でも結構なハードワークだと思うけどなあ。しかも単純な肉体労働者ではなく、冒険者というのは命かけて切った張ったをしている連中でもある。見知った人が突然来なくなることも度々だろうし、直接死亡報告が飛び込んでくることもあるだろう。救援要請依頼、なんてのもあるかもしれない。必然、受付嬢って人たちはお得意様の死を間近で体験することの多い仕事、ということにもなる。精神的にもなかなか来るものがある職業だと思うがなあ。

アリナが選んだのは、そういうお仕事ということだ。本当に心の平穏が保てて安全で安定した仕事、というのなら選ぶ先は幾らでもあっただろう。なにげに事務処理、というのはこのくらいの文明度なら十分高等な職務にあたるはずですし。大きな商家や官庁でも普通に重宝されると思うスキルである。
にも関わらず、アリナは自由だけど不安定でローンも組めない保証のない、いつ死んでもおかしくない人たちの相手をする受付嬢を職業として選んだ。安定を、安全を望みながら、それを放り投げて生き急いでいる人たちを見送り迎え入れる仕事を選んだ。
最初、特に難しい理由があるとは思っていなかったんですけどね。単純に話として面白いから、ギルドの受付嬢というのを主人公にしただけの、メタな理由しかないお話だと思ったんですけどね。
でも、アリナにはアリナなりに、ずっと冒険者という人たちを間近で見続けたい、という彼女自身意識していたかどうかわからない、ちゃんとした彼女なりの理由があったわけだ。
なんらかの形で、カウンターを隔てていたとしても、冒険者という人たちと関わっていたい、という願いが彼女の中でポゥと火を灯していたのだなあ、というのが後々になってちょっとだけわかってくるんですね。

それはそれとして、定時に帰りたい! 残業したくない! お休みの日はのんべんだらりとゆっくり過ごしたい! という切実な願いは別なのである。
残業ってほんと嫌だよね。わかるー。
いまだかつてないほど主人公に共感してしまったかもしれない。
命が掛かっているわけじゃないかもしれない。人生の行く末がかかっているわけじゃないのかもしれない。でも、早く家に帰りたい!! という願いだって、心の底から吹き上がるような鮮烈で強烈で切実で迫真に迫った願いなのである。心の叫びなのだ。切羽詰まって、悲鳴のように響き渡る魂の絶叫なのだ。
それがその日、街の中で誰よりも何者よりも強く強く心の中で願われた願いだとしても、さもあらん、としか思いませんな、はっはっはっ。

なんでそれが、攻撃系スキルになって与えられるのかはよくわかりませんが。
ただ、アリナのスキルの活用法を見る限りでは、神様の意図は的外れではなかったようなんですよね。パワーあげるから自力でなんとかしんしゃい、ってなもんにしか思えませんけどw
ただ、パワー与えられたからって、それを使って業務滞る原因となってるモンスターやダンジョン、取り敢えず自分でぶっ壊しにいって、すっきり滞りをなくして定時帰れるようにしましたー、という風にヤるのって、それはそれでこうなんというか、別方向に働いてませんかね、これ?
休みの日とか退勤してからいそいそと出かけていって、暴れ倒してくる、という行程、これはこれで勤勉なような気がするなあ。わりとサービス労働じゃないですか、これってw

しかしこのアリナさん、神域スキルが使える身ではありますけれど、生粋の受付嬢なんですよね。
ギルドの受付嬢が実は強い!みたいなパターンの話はそれなりにあったと思うのですけど、そういうキャラってだいたい前職が冒険者とか英雄職で実績をあげていて、それがひっそりと隠居したり転職したりして受付業務につくようになった、というパターンでつまり技術職とか現場職からの転向組で、受付相手の事はよくわかっている。戦闘なんかも経験者、なのですが。
アリナさん、別に冒険者でも何でもなかっただけに、実はこれ素人なんじゃないの? 素人でも押し切れる人外魔境のパワーゆえのゴリ押しプレイ、みたいな所があってなんともはや。いやアリナ当人も真面目に冒険者したりダンジョン攻略しようとしているわけではなく、業務の滞りを解消するため以外眼中にないので、これでいいのかもしれないけれど。
正体を知ったにも関わらず、それまで「処刑人」をパーティーに引き入れようと運動していたのに、アリナが本当に嫌がっていると知ったらピタリと勧誘をやめたジェイドくんはなかなかのイケメンだと思う。
それはそれとして、かわいい女の子だったので欠かさずちょっかい掛けにいくようになったのは、ストーカーとまでは言わないけれど結構しつこい系男子ですよね、こいつ。
それでなんだかんだと絆されてるアリナさん、チョロいとは言わないけれどわりとうん、そうだね、こういう余分なものは眼中に入れようとしない娘は、無理矢理にでも眼中に押し入っていないとそもそも意識もしてもらえないだけに、彼のやり方は相応に成功だったのかもしれない。

ただ、お話としては1巻できれいに纏まっているものの、発展性があんまりあるように見えない、個々の主だったキャラクターはみんな書ける所書いちゃったようにも見えるので、続けていくにしてもどう話を広げていくのかちょっと心配ではある。