【武装メイドに魔法は要らない】  忍野 佐輔/大熊 まい 富士見ファンタジア文庫

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銃の存在しない異世界で、そのメイドはあまりに最強。

元・民兵の仲村マリナは転生した異世界で辺境公女のメイドとなる。異世界に存在しないハズの銃火器を繰り出し、遍く刺客を圧倒するマリナ――公女に仕えるただのメイドは、現代兵器で魔導士の軍勢をも凌駕していく!
全然最強じゃない、最強じゃないよ武装メイド!
いや、彼女マリナに与えられた能力は規格外と言っていいものなんだけど、それ以上にこの異世界側の戦闘に携わる人種が意味わからん強さすぎ。その中でもとびっきりなのが「騎士」たちである。
こいつら、もう人間じゃないだろう。「超生物」という他ない意味不明さである。
いや、意味不明ではないんですよね。理屈のわからない強さというわけじゃないんですよ。ただ単純に純粋に硬い、速い、強い。なんですよね。
……騎士全員「アイアンマン」じゃないのか、これ?

なので、マリナが引っ張り出してくる現代兵器、勿論この異世界では未知の武器であり相手の想像の埒外にあるものではあるのだけれど、ファンタジー世界に近代兵器を持ち込んでくるような作品と違って全く無双とか出来ないんですよ。拳銃とかアサルトライフルとか程度は、鼻で笑う豆鉄砲。そもそも、小火器類は最初から出番すらありませんからね。
初手『ブローニングM2重機関銃』である。12.7ミリ徹甲弾。最初からもう対人兵器の範疇はみ出してるんですが。いや、最初は人間相手じゃなくて魔獣相手というのもあったのですが。
これがいきなり通じない! 初っ端重機関銃持ち出して速攻効かないって、なんぞそれ!?
と、このこの時点で現代兵器無双とは程遠い、ある意味ガチの戦争ものだという事を実感させられたのですが……。
マリナさん、その火力もうロアナプラの婦長じゃなくてヘルシングの婦警の方じゃありませんか!?

ともあれ、この異世界での「騎士」階級ってほんとにヤバいんですよ。この世界の戦争って下手すると現代戦よりも地獄じゃないのか。
理不尽な意味不明な理屈で攻撃が通じない、というのと違って純粋に「硬い・速い・強い」というヤバさは、シンプルであるが故に余計に強さを実感できるので、ただただ怖いんですよね。
なんというか、地べたから戦闘ヘリを見上げているような、対地攻撃機に追い回されるような圧倒的な力によって蹂躙されるような怖さというべきか。
しかし、戦争映画なんかでは兵士たちはその地べたを駆け回り、建物の間を行き来し、ビルの屋上に駆け上がったり、路地を車で突っ走ったりしながら、その圧倒的な力の権化に対して抗い反撃していくのである。
硝煙のたなびく中を潜り抜け、地面を匍匐で這いずり、崩れ落ちるビルの瓦礫を乗り越えて、降り注ぐガラスで血まみれになりながら、泥水の中に身を隠し、反撃の機会を伺うのである。
工夫を重ね、罠を張り、策を仕掛け、敵を自分のフィールドへと引きずり込んで、叩き潰す。
それこそ正しく都市戦闘であり、ゲリラ戦術であり、弱きが圧倒的強者を地面へと引きずり下ろすジャイアントキリングだ。
その意味でも、本作はファンタジー世界を現代兵器で無双するたぐいの物語ではなく、武装メイドに憧れた民兵崩れの少女が、誇り高く意地汚い「戦争の猟犬」と呼ぶに相応しい戦いを繰り広げる、戦争小説なのである。

同時に、本作こそ崇高なる少女と少女の物語。ガール・ミーツ・ガールの粋である。
主人公のマリナは日本人として生まれるものの、彼女の生きた時代の日本は内乱によって分断され、軍閥とイデオロギーに支配された戦闘集団が日々理由らしい理由もなく、血で血を洗う戦争を繰り広げる地獄のような世界だ。彼女はそこで生きるために民兵となり、ひたすらに殺し殺しおのが心を絶望によって殺され、ついに体もボロくずのようになって殺された、という境遇の娘だ。
そんな彼女の憧れは、拾った漫画で見かけたキャラクター。武装戦闘メイド。確たる志も理由もなく殺し殺されを続ける日々に精神を擦り切らせた彼女にとって、武装メイドとは心より敬愛する主人の為に戦うという、胸を張って生きることの出来る、誇りを持って戦うことの出来る、そんな職業だったのだ。今の糞みたいな生き方をしている自分にとって、手の届かない夢。
そんな世界と自分に絶望しきった彼女の魂を、引き寄せ形の体に定着させたのがエリザベートという没落した貴族家の娘であった。
マリナは少年兵として気がつけば兵士として戦っていた娘だ。メイドの経験なんて漫画で呼んだ程度の知識しかない。
エリザベートは、貴族家の娘だけれど今は人一人雇うことの出来ない没落した身の上だ。
二人共、メイドとしても主人としても初心者以前の問題。はじめましてのはじめて同士。生まれ変わっても野良犬だったマリナにとって、エリザは落ちぶれたにも関わらず理想にしがみつく頭お花畑の気に食わない偽善者に過ぎなかった。
そう、見えたのだ。最初は。
これはそんな最初からすれ違った少女たちが、お互いの本当の姿を見つけるお話。
この巨大な理不尽が当たり前のようにまかり通る地獄のような世界で、折れず曲がらず気合い入りまくり、根性据わりまくり、覚悟も矜持も信念も極まりきったイカレてイカした少女たちの心がこれ以上無く共鳴するお話。
エゴとエゴがぶつかって衝突して、混ざり合って溶け合って、そうやって出来上がるのは無二の親友としてのあり方だ。命を捧げあってお互いの全てを与え合う比翼の主従というあり方だ。
少女たちの尊くも微笑ましく美しくも輝かしい、この上ないガール・ミーツ・ガール。
端的に言おう。ぶっちぎりに面白かった!
熱く、痺れて、震えるほどにカッコいい。これぞ、誇り高き少女たちの戦争である。