【剣とティアラとハイヒール〜公爵令嬢には英雄の魂が宿る〜Second】  三上テンセイ/緜 TOブックス

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国への忠義を果たすため、英雄からか弱い令嬢へと転生したセレティナ。魔物との一戦で呪いを受けた彼女は、前世の友を頼りギルダム帝国へ向かっていた。するとなりゆきで兵士たちを助け、「慈愛の天使」と崇められる羽目に。その上、悪徳領主に疎まれてお尋ね者となってしまう! 兵士たちの協力で難を逃れた彼女は、友の窮地の報せを受けて塞都市へ。絶望的状況の中、「呪い」の力で見違えるほどの剣さばきで魔物を薙ぎ払っていく! だが、その力は身も心も悪魔へ転化させる諸刃の剣だった……。彼女が友と再会を果たす姿は、天使か悪魔か――?新たな戦友を迎え、物語は怒涛の新章へ。英雄の魂を宿した深窓の令嬢が贈る、騎士道ヒロイック・ファンタジー第2弾!

セレティナ、自分の体臭がどうしても気になってしまったり、と元が厳つい大男だったと思えないくらい根底から女の子してるんですよね。
故あって髪を短くしなくてはならなかったときも、それが必要である以上躊躇いはしなかったものの結構気にして哀しい思いを噛み締めてるんですよね。これはオルティスだった時には絶対に生まれない感情で、魂から女性になっているのが伝わるのよなあ。
とはいえ、王家の王子王女たちに対する感情は同世代のものじゃなくて、国王陛下と同世代だったオルティスに沿うもので、忠義心と共に親世代が子供たちに向ける庇護者のものに近いので、ちょっと屈折してるんですよね。王家の若者たちはみんなセレティナに夢中なのに。
中でもちょっとかわいそうなのが姫様であるエリアノールで、彼女にとっての白馬の騎士が同じ女であるセレティナになっちゃったんですよね、これ。憧れを通り越してもう初恋と呼ぶ他ないときめきに浮かれながら、しかし現実に返りこの恋心が決して実らぬどころか表に出す事も許されないものであることを自覚して、折角抱いた眩い想いを封じ込めていく様子は辛いものがありました。
なんか訳わからないままあれだけ慕われてたのに突然拒絶されてしまったセレティナのへこみっぷりたるや、口から魂抜けてる状態なのがまたアレでしたけど。
王子様たちは、セレティナの凄まじさに怖気づかずにむしろ奮い立ってより自分を高めて彼女に見合うようになろう、と向上心を抱いているのはそれはそれで良い成長を迎えているのですけど、エリアノールは少し別の意味でいち早く大人にならざるを得なかったのだなあ、と思うとなんとも切ない限りなのでした。

一方のセレティナも、決して順風満帆などではなく、どれほど剣腕が唸ろうともそれを振るう体の方が全然ついてこない。病弱で体力のない深窓の令嬢という根底は克服できていない。鍛錬しているのに、なかなか体力つかないのはこれもう体質という他ないのでしょうね。
これをひっくり返すには「ズル」をするしかない。それも、魔女の刻印という厄ネタを用いたズルだ。どんなリスクがあるかわかったものではない。
そもそも、どうしてオルティスを貴族令嬢になど転生させたのか。魔女の思惑がどこにあるのか、未だ定かではないんですよね。しかし、戦い続けるために魔女の呪いを使い続ければ、いったい何が起こるのか。良い顛末が想像できない。
だが、敵を前に、魔を前に、人が死のうとしている時、魔物に民が食われようとしている時、都市が滅ぼされようとしている時、それを目の前にして見過ごせるなら、オルティスは英雄などと呼ばれる存在にはならなかったのでしょう。そして、セレティナはもはやオルティスではなく、男ですら無く、しかし男から女に魂から成り代わったとしても、英雄となるに至った魂の在り方そのものは変わらない。

クライマックスは大地を埋め尽くす雲霞のような魔物の群れ。そのうごめく海のただなかに孤島のようにぽつんと取り残された城塞都市、というもう見るからに壮絶極まるビジュアルの籠城戦。
映像になれば、大作映画さながらになるだろうスペクタクルで繰り広げられる、人間たちの生きるための戦い、守るための死戦。英雄的に抗いつづける人類の、しかし絶望だけで埋め尽くされたような阿鼻叫喚の地獄絵図。
戦争である。それも、交渉の余地のないどちらかが死に絶えるしかない絶滅戦争。
堰が切れるように城門が突破され、戦線を支えていた英傑たちが膝を付き、すべてが崩壊しようとした瞬間に、その只中に、僅かな仲間を引き連れて遙か空より飛び込んでくる、魔物の津波の前に立ちふさがり斬り込んで行くセレティナたち。ここの盛り上がりは、燃えるものがありました。
もはや断末魔だった人類側が、セレティナたちの圧倒的な勇姿に奮い立ち沸騰するように崩壊していた士気が吹き上がり、盛り返していくシーンのダイナミックさ、ドライブ感。みんな素晴らしい。
一方的にセレティナが蹂躙するのではなく、畳み掛けるようにここから二転三転攻防がひっくり返るところもスピード感あるんですよね。
セレティナが、生き残るため、救うために恐らくは越えてはならない一線を越えてしまった事も、魔女の策略が順調に進んでいることを実感させられ、不穏が高まるのでありました。人類側も、帝国の上層部サイドがどうにも闇深そうですし、セレティナの隣にも隙あらば食いついてきそうな狂犬が舌なめずりしていますし。もうちょっとセレティナの脇をしっかり固めてくれる人材がいてくれればいいのですが。と、その人材をスカウトするために帝国くんだりまで出張してきたのですけど、オルティスの友人であってもセレティナとは面識がない彼女。そして、この戦いで恐らくは初対面で関係に亀裂を生じさせてしまったこともあって、さて「彼女」との再会が果たしてどういう顛末を辿るのか。