【贅沢三昧したいのです! 転生したのに貧乏なんて許せないので、魔法で領地改革 1】  みわかず/沖史慈宴 アース・スターノベル

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前世で貧乏、転生しても貧乏!?
だったら改革してやるわ!
サレスティアは5才の誕生日に激怒した。頭を打って前世の記憶を取り戻したと思ったら、また貧乏だったからだ。そしてその怒りで魔法に目覚めた。乙女ゲーの悪役令嬢のはずなのに、贅沢できないなんて許せない!? 貴重なはずの魔法を、惜しむことなく領地改革に活用し、没落&処刑回避を目指すサレスティア。領民が何より大事な悪役令嬢の、猪突猛進ほっこりストーリー! 第一回アース・スターノベル大賞佳作受賞作、ついに登場!!

いやこれ、貧乏なんてものじゃないですから。良心の類を一切持たない人で無しとしか思えない貴族の両親から育児放棄され、送り出された領地でサレスティアが目にしたのは……控えめに言っても地獄。
食べるものもなく反乱する気力も逃げる体力も失い、毎日誰かが息絶えていくという飢餓地獄だ。これはもう貧乏なんて範疇じゃないでしょう。サレスティアが魔法に目覚めるほど怒り狂ったのは、貧乏という境遇だったからじゃなく、こんな惨状を作り出して平然と放棄している両親とこれまでこんな地獄絵図の存在を知らずにのうのうと生きてきた自分自身への憤怒だ。
そこからのサレスティアの行動は、もう救急活動か難民救護なんですよね。なけなしの私物を売り払って食料を確保して、領館に生き残っていた領民たちを保護して炊き出しを行い、絶望に心が完全に死んでしまっている老若男女の彼らを励ましてまわる。
生きて! 今はとにかく生きて! どれだけ死にたくても、頑張って生きて!
抱き締めて体温を伝え、必死で懸命な気持ちを伝え、そのまま止まってしまいそうな領民たちの心を呼び起こしてまわるサレスティア。
この娘、終始明るくテンション高く笑顔を絶やさないので、話の雰囲気も暗くなることなくずっと賑やかなままなのですけれど、特に序盤の惨状はちょっと常軌を逸していたと思う。
その地獄絵図を共有していたからだろう。生き残った領民たちの間には、決して切れない紐帯が結ばれることになるんですね。彼らに命を吹き込んだサレスティアを中心に、彼らは一つの家族同然となり寄り添って生きていくことになる。サレスティアへの感情も、領主代行とか恩人という立場の差を感じさせないもので。
自分達に生きて生きてと叫びながら抱き締めて体温を分け与えてくれた小さな子どもに芽生えた気持ちは、もう愛情以外のなにものでもなかったのです。私達の愛しいお嬢。私達の愛しいサレスティア。
サレスティアへの領民たちの接し方、扱いは貴族や領主といったものじゃなく、ほんとに我らの娘という感じで、遠慮もなく容赦もないのだけど何よりも愛情が目一杯注がれているのが言動の端々から伝わってくる一つの家族感が本当に素晴らしいのである。
これ以降、困窮した他国からの難民や王都のスラムに住まうストリートチルドレンを受け入れたり、と行き場のない生きる事自体に辛さ苦しさ痛みを感じるようになってしまっている人たちを迎え入れるケースが増えてくるのだけれど、印象的なのが領民たちみんながそんな人達にスキンシップを欠かさないんですね。
触れることを厭わない。手を握り、ギューッと抱きしめ、髪の毛をかき混ぜるくらいの勢いで頭を撫でて。老いも若きも関係なく、領民たちは笑顔を浮かべながらそうやって心が止まりかけている人たち、傷ついて怯えている子供たちに体温を、気持ちを、生きているという実感を絶え間なく伝えようとするのである。かつて、自分達があの幼いお嬢様にそうされたように。

救われること無く逝ってしまった家族を悼みながらも、今新しく結ばれたお嬢を中心としたこの家族で幸せになるために。作中で、何組も生き残ったもの同士の間で愛情が育まれて結婚するカップルが生まれるのですけれど、それをみんなが我が事のように笑顔で大騒ぎしながら祝福するのである。みんなが幸せになるように、みんなで幸せになれるように。
今度こそ。先に逝った家族が心配しないように。
贅沢三昧したい、というサレスティアの願望も……この娘元々前世の頃からいい子すぎて、別に贅沢したいというのも自分だけ、とは露ほども端から考えてないんですよね。前世も貧乏から脱出して、家族みんなで贅沢するんだ、と頑張っていたように。今世でも、もう家族同然の領民たちと一緒に贅沢できるように、と頑張るのである。明るく笑顔を絶やささずに。
このバイタリティはほんと尊敬に値する。

そんな彼女と知り合うことで、サレスティアの惜しみない愛情の一端に触れることで、彼女を取り巻く人々の慈しみの想いを感じることで、ある兄妹もまた大いに感化されることになる。
他人とのふれあい方、そして「家族」との向き合い方。その影響の大きさは、物語にも転機を与えることになる。

正直、あれだけの惨状を起こしているサレスティアの両親を、放置している……或いは手出しできずにいる王政府はちょっと力不足もいいところなんじゃないかと思う所なんですけどね。あんなの、困窮を極めているどころじゃなかったものの。下手すりゃ領地全体が飢餓で死に絶えていても不思議ではなかった。その現状もろくに把握していなかった、資料から経済崩壊していることだけ見て取って放置していた、というのもねえ。
ある意味国そのものにも見捨てられていたと言っていいサレスティアたちが、この国に対して未練を持っていない、というのも当然といえば当然なんですよね。復興も全く支援無しで自給自足で立て直したわけですし。
アンドレイとレスティアとの出会いがなかったら、それこそこの国にこだわる要素は何一つなかったでしょうし。

さて次回は正式に領地を継ぐことになったサレスティアと、自分以上に生まれた瞬間からネグレイトされてまともに意識を持っていなかった幼い弟の覚醒。そして鬼畜両親との対決、といったところですか。お嬢のハチャメチャな明るさと勢いはなおも継続するのか。次回も楽しみ。