【駅徒歩7分1DK。JD、JK付き。1】  書店ゾンビ/ユズハ オーバーラップ文庫

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面倒な家事も、些細なイベントも、女子大生と女子高生が一緒だとちょっと楽しい。

「泊めてくれたっていいじゃん。そっちのエッチな人も泊まるんでしょ? 」
「ええっ! あっ、その、私は……エッチな人では……」
谷川陽史26歳、黙々と激務をこなす独身リーマン。
ひょんなことから幼なじみの女子大生・詩織を自宅で預かることになったのだが、とある行き違いで女子高生・彩乃も転がり込んできて――。
「お風呂、先にしますか? それとも、お食事に……」
「あたしが寝付くまででいいからさ、添い寝してくんない? 」
そして始まった奇妙な同居生活。
それは、想像以上に楽しくて、刺激的で……?
サラリーマンとJD、JK。
そんな3人が1DKから始める、ホームラブコメディ。

息が詰まる、一緒に居ると気が休まらない。そんな窮屈な人間関係は家族間にだって存在する。でも、彩乃の家族はそんな窮屈という範疇にも留まらないものだったのだろう。
彼女の家の事情は詳しくは語られない。彼女がそれについては触れようとしない。ただ断片的に漏れ聞こえる様子を見れば、彼女が家族と同じ空間に存在することすら耐えられなかっただろう事が伺える。夜は街を徘徊して時間を潰し、学校で寝ることで辛うじて体を休める。そんな破綻した生活はあっさりと限界を迎えていた。肉体的にも精神的にも摩耗していた彼女は定期を落とした若いサラリーマンに声をかけたことで。正確には、定期に記されていた名前を呼んだことで、彼女の運命は変転する。
丁度、田舎から出てくる十何年ぶりかに会う幼馴染。と言っても一回りも年齢が違う年の差があり、幼い頃に毎日遊びに来ていたものの長らく顔も見ていなかった女性だ。母親からの依頼で、大学進学のために上京してきたものの、住む所が見つからずにしばらく一緒に住まわせてあげて欲しい、という話を了承し、その彼女・詩織と会うのがその日だったのだ。
たまさか自分の名前を呼んで声をかけてきた彩乃を、件の幼馴染と勘違いした結果、彼・陽史は家まで連れ帰ってしまう。預かった合鍵を使って部屋で待っていた詩織とばったり鉢合わせるまでがプロローグである。
かくの如く、この三人には深いつながりなどなにもない。詩織と陽史は幼馴染ではあるけれど、随分と年の差もあり、詩織が大きくなるにつれて疎遠になってしまいこれが久々の再会だった。彩乃に至っては二人と面識すらなかった。

でも、この三人が家族になるのに、時間なんて殆ど必要なかったのだ。
共同生活をはじめたこの三人の間に流れる時間は、読んでいるこっちまでリラックスしてしまいそうになるほど穏やかで、心地いい。自然体で気負わずあるがままに。
家主である陽史が、いい意味で大雑把であるのがいいのだろう。飛び入りで居候させてもらうことになった彩乃も、必要以上に気を使わずかしこまらず、ようやく呼吸できる場所を得たように陽史と詩織の横でゴロゴロとくつろいでいる。
気配りは、詩織の担当だ。おっとりとした物静かそうな彼女は、細かい所に気が付き世話好きで彩乃の不調に気が付き、彼女を泊めてあげられないかと陽史に頼んだのも彼女だった。
世代も性別も趣味も性格も違う三人は、だけれどまるで凹凸を埋め合うように収まるところに収まって、日々を過ごしていく。朝起きて、ご飯を食べて、それぞれ仕事や学校に向かい、帰りに買い物なんかして、休みの日には一緒に遊んだりして。それぞれに好きな事を教え合ったり、教えてもらったり。二人がゴロゴロしている横で、残る一人が干した布団を叩いていたり、なんて光景が十年前からずっと繰り返してきたかのように、流れていく。
一つ一つのエピソードは派手でもなんでもない。本当にただの日常の一コマだ。どこでも見かけるような風景だ。騒がしかったり、逆に誰も喋らず静かだったり。そのどちらでも、そこに窮屈な空気はない。穏やかに流れる時間は、息が詰まることがない。
当たり前に息が吸える。ただいま、いってきますを自然に口にできる。じんわりと、今幸せだなあ、なんか楽しいなあ、と染み入る空気がたゆたっている。

こうしたじわりと染み込んでくるような生活感を描き出すのは、派手ではないからこそ難しいでしょう。空気感、流れる時間の速さというものをこんなに穏やかに、心地よく描き出すのは、ただドタバタとラブコメさせているだけでは決して引き出せない、絶妙さなんですよね。

この手の同居モノも増えてきましたけれど、本作の空気感はそれらの中でも自分の好みとしては頭一つ二つ図抜けている、と思わせてくれる自然なリラクゼーションの粋でした。
そして、そんな穏やかな時間の積み重ねだからこそ、ふわりふわりと「好き」が降り積もっていくのも伝わってくるのである。今が幸せだからこそ、それを壊したくない、ずっとこのままで居たいと思いながら、幸せだからこそ好きが降り積もっていく。それはもう、溶けない雪だ。
姉のような詩織と、妹のような彩乃。他人だった女二人が、家族同然、姉妹同然になっていき、お互いがかけがえのないモノになっていく、これ以上なく大切な存在になっていってしまうことが、より三人の関係を複雑に、離れがたいものにしていってしまう。
幸せに満ちてしまったからこその想いの決壊、行き着く先の切なさが、ラブストーリーとしての速度を早めていく。果たして、三人の今が続くことを願いながらその先をも望んでしまった矛盾の結果がどうなるのか。不安と期待に、心拍数があがってしまいます。

ほんと、素晴らしい一作でした。ちょっともう大好きかもしらん!