【魔弾の王と凍漣の雪姫(ミーチェリア) 7】 川口 士/美弥月 いつか ダッシュエックス文庫

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ブリューヌ国王ファーロンに、庶子ながら王子として認められた若者バシュラル。
彼はひそかな野望を胸に、『黒騎士』ロランを罠にはめ、レグナス王子の抹殺を狙う。
レグナスの護衛を務める女騎士リュディエーヌは、幼馴染みでもあるティグルらの助力を得てベルジュラック遊撃隊を結成、バシュラルと戦うも敗北してしまう。
リュディエーヌを、そしてブリューヌ王国の危機を救うため、ティグルは父の親友であるマスハス=ローダント伯爵に助けを求める。
彼の力を借りて、ティグルたちは再起を計るのだが、そのころ王都ニースでは、バシュラルを操る黒幕であるガヌロン公爵が恐るべき行動に出ようとしていた。
混乱の渦に呑みこまれようとするブリューヌ。数々の困難をティグルは突破できるのか。

ガヌロン、ついに動く! なんかもうガヌロンが敵サイドの主人公、とばかりに掘り下げられてるんですよね。こうしてみると、彼に限らずこのシリーズって前作のエレンがメインヒロインだったシリーズでは描ききれなかったキャラクターに光を当ててるんですよね。
早々に退場してしまったロラン然り。テナルディエ公とザイアン然り。早々に人事不省に陥ってしまったブリューヌ国王ファーロンや、シリーズ始まった時にはすでに亡くなっていたティグルの父であるウルクやミラの母であるスヴェトラーナ。シリーズの終わりにようやく出てきた新任の戦姫ミリッツァ。ギネヴィアやタラートといったメンツにもスポットが当てられ、またリュディやバシュラルといったこのシリーズで初登場となるキャラクターもそれぞれメイン級のヒロインにロランに勝るとも劣らない戦士と、見事に存在感を知らしめている。
これで戦姫たちが目立たなかったら本末転倒だけれど、ちゃんと病に倒れているサーシャ以外は全員出張ってきているもんなあ。戦姫を引退したヴァレンティナまで、情報担当としてちょいちょいいい仕事してくれてますし。

しかし、ガヌロンが最初に仕えたブリューヌ王国初代のシャルルに深い思い入れがある事は前シリーズから語られていましたけれど、ここに来てその詳細が深く掘り下げられる事になったわけですけれど……ちょっとガヌロンさん初代のこと好きすぎじゃね? しかもちょっとツンデレ入っているし。
盲信してるとか忠誠心の塊、とかではなく、口ではシャルルと呼び捨てにしているし、あくまで対等、向こうがうるさいから仕えてやった、みたいな素振りのくせに、実際の様子を見たらめっちゃ一途なんですよ。最初から最後までシャルルの王道に付き合い、その戦いに寄り添い、仲間たちが死んでいく中で唯一最期を看取り、その後も公爵としてブリューヌに仕え続けてたのって、これ間違いなくシャルルへの忠誠ですよね。魔物を食らってしまって人ならざるモノになってしまった時、シャルルの下から離れようとした時に、お前は何も変わっていないじゃないか、と引き止められてその後もそばに居続けることにしたのって、もう完全に魅入られちゃってるじゃないですか。
ガヌロンって、あの他者に対する残虐さ非情さはもう人間としての心を喪っていると思うんですよね。元からそういう人間だったとは思えないんですよね。ガヌロンの記憶から伺えるシャルルの言動からして、今のガヌロンのような人を人とも思わない残酷さ、嗜虐性、殺戮は好まないし、恐怖で派閥の貴族や民を支配するやり方も必要以上にやりすぎていて、初代を支えた名軍師としてのガヌロンにはそぐわないように思える。
魔物を食らったことで、徐々に身も心も魔物のようになってしまった、というのならそれも理解できるのです。他の魔物たちは、ガヌロンの事を食らった魔物とイコールに見ている事からもガヌロンという人間に食らった魔物が侵食して染め上げていても不思議ではないなあ、と思うんですよね。
しかし、ガヌロンは自分が魔物であることを否定し続けている。他の魔物たちを敵視し、彼らには決して迎合しようとしないまま、ブリューヌの貴族としてシャルルの後裔を見守り続けてきたことは、ガヌロンのシャルルへの忠誠と友情、思い入れを伺わせてくれるのではないだろうか。
でも、彼の中では幾ら見守っていても、シャルルに匹敵するような偉大なる王はついぞ今まで現れなかったんですよね。自分が仕えるに足る王は現れなかった。その絶望が、さらに彼の魔物化を推し進めたのか。
それとも、心も魔物になってしまっていたから、どれほどの名君が現れても認められなかったのか。自分の中のシャルルに並ぶ、上回る存在を受け入れられなかったのか。
彼の中でどれほどシャルルが美化されて特別な存在になってしまったのかは定かではありませんけれど、果たして本来のシャルルとガヌロンのイメージの中のシャルルとでは一体どれほど乖離してしまったのか。
自分の記憶の中のシャルルに囚われたガヌロンは、ついに彼の後裔に再来が現れることを諦め、シャルル当人を蘇らせることを願ってしまう。その果てが、本当の絶望である可能性など微塵も考えず。
王都を支配しながら、決して玉座には座らず、その横に立ち続け主君の復活を待つ姿は、彼の挙兵が野心ではなく拗らせた忠誠と友情と……懐旧にあることを如実に示していて、どこか切なく虚しく哀れに見える。
だが、いずれにしてもガヌロンの挙はただでさえ庶子バシュラル王子とレグナス王子の対立によって内乱状態に陥りかけていたブリューヌを一気に争乱へと向かわせるのであった。

ここで、ブリューヌ国内の各勢力が一気に動き出して、王都を目指して参集しはじめるのは情勢が加速し集束していく怒涛の勢いを感じられて、ワクワクしてくる。
それも敵と味方の簡単な二勢力ではなく、リュディとティグルとミラたち戦姫が集うベルジュラック遊撃隊に、ロランが合流したレグルス王子の軍勢。待ちの姿勢を覆して積極的に動き出したテナルディエ公の軍勢、ガヌロン一派でありながらガヌロンの思惑とはまた別の独自の考えを持って動いているバシュラル王子とタラートの軍。そしてついに動き出すエレン率いるライトメリッツ公国軍に、聖剣片手に一人乗り込んでこようとしているギネヴィア女王。いや、最後のギネヴィアさんはちょっと冒険しすぎやしませんか!? こっちには側近のリネット居ないのか、先回りして捕まえる人いなかったのか!? 意中のロラン卿をゲットするため、という目的もなかなか酷いと思うのですけどw

リーザは引き続き記憶喪失のままなのですが、精神が子供帰りしたリーザの純真無垢さが眩しい!
これでティグルにべったりだったらアレなのですけど、ティグルは遊撃隊での仕事が忙しいのも相まってあんまり関わりなくて、主に面倒を見ているソフィーヤとどんどん百合百合しくなっていくのはなんともはや。おかげでソフィーヤもティグルにちょっかいかけてる暇なくなったもんなあ。
リーザの右腕が切り落とされてしまった件は、これで戦姫としてもう戦力外になるのかと思っていたら、そこまで軟弱じゃなかったか。というか、利き腕落とされてしまったにも関わらずリーザを見捨てない操雷の鞭「ヴァリツァイフ」、根っこはワンコなんだろうか、こいつ。